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雪山SOS 後編

 若い貴族に追い出され全員が走って洞窟の中へと入ると、思ったよりも広く奥の方へと進めば風もあまり来ない。

 しかしコテージと違い、地面は冷たく、壁も凍っていて寒いことは間違いない。

 俺は荷物を置いて洞窟の中に転がっている枯れ木や枯れ葉を一カ所に集めていく。


「咲、やばい! フレイアだけじゃなくてソフィーもカチンコチンになって、ソフィーで釘が打てるよ!」


 オリオンは死後硬直してるのかと言いたくなるくらい微動だにしないソフィーをバットみたいにぶんぶんと振りまわしている。


「わかってる、ちょっと待て!」


 枯れ木に火を放つと、薄暗かった洞窟内に淡いオレンジの炎が灯る。


「よし、これに持ってきた固形燃料をぶちこんで……オリオン鍋に雪いれてこい」

「がってん」


 オリオンは鉄鍋にたんまり雪をかきこみ、それを焚火にかける。

 俺は沸騰した鍋に乾燥した玉ねぎ、香辛料、冷え固めた固形ブイヨン、塩豚を適当に切って放り込んでいく。

 煮立ったところでスープをコップに入れて、ガタガタ震えているオリオンやウサギたちに渡していく。


「うわ……あったかい」

「……美味しい……ちょっと泣きそうね」

「咲、もっと」


 オリオンの奴グビっと一飲みしやがった。


「もうちょっと味わえ」

「美味い。咲アイアンシェフになれるよ」

「料理でドラゴンとか出せないから無理だ」


 スープをよそったあと、俺は全員から非常食のジャガイモを集め、全てを枯れ葉に包みそのまま火にかけた。


「ジャガイモの丸焼き?」

「俺に高尚な料理を期待するな。スープで体を温めて腹ごしらえはジャガバターだ」

「いいじゃん最高」


 しかし枯れ葉の量が少なくて、ちょっと火力が弱い。


「おいフレイアさんはまだ凍ってるのか?」

「お湯かけてこようか?」

「おう」


 しばらくしてソフィーとフレイアの「あっつあっつ! バカじゃないの!?」とうるさい声が聞こえてきた。どうやら強制解凍されたらしい。

 生き返ったフレイアのおかげで火力があがり、雪山でホクホクのじゃがバターがいただけるという贅沢ができた。


「あっつあっつ……」

「美味しいです。ここが素敵なロッジで舞い散る雪を眺めながらとかだと最高だったんですけど」

「ロマンチックな雰囲気でじゃがバター食うってどんな状況だよ」

「咲、スープに米ぶちこんで雑炊にしよう」

「お前はほんとに悪魔の料理を思いつくな」

「いいじゃないですか、雑炊美味しそう」


 その後しっかり雑炊まで食って、俺たちは遭難しているというのに完全満腹で動きたくなくなっていた。


「あぁ、お腹いっぱいでいい気持ちです……」

「そうね……食べたら眠くなってきた」

「さっきまで冷凍保存されてたのにな」

「咲、洞窟の入り口、雪でバリケード作ってきた」

「よくやった。ちったぁマシになるだろ」

「さっきの貴族が窓からずっとこっち睨んでるんだけど」

「気にすんな、こっちは追い出された身だ。あいつらとは何も関係がねぇ」

「あたしもなんか眠くなってきたな」

「結構体力使ったからな。火の番はしといてやるから寝てろ」

「ほーい」


 オリオン、フレイア、ソフィー、ウサギたちが重なるようにして眠りにつくと、俺はパチパチと炎をあげる焚火に枯れ木を放り込んでいく。

 まだ固形燃料はあるが、あまり無駄遣いはしたくない。吹雪がやまなければ最悪ここで二日目という事態も考えられたからだ。


「木が足りんな……外で少し調達してくるか」


 俺はオリオンの作った雪のバリケードを少しだけ崩して、外に木を取りに行く。

 適当な枯れ木を見つけ、黒鉄で枝をスパッと斬る。

「またつまらぬものを斬ってしまった……」とゴエモンごっこをしていると、枯れ木の上に乗っていた大量の雪が俺に直撃し、一瞬埋もれてしまった。

 本物のようにカッコよくはいかない。

 雪の中からズボっと顔をだして、おお寒っと震えながら枝を持ち帰る。


「ぐおおお。凍る凍る」


 洞窟に戻る途中一瞬コテージが目に入った。

 そういやオリオンが女貴族が窓からこっち見てるって言ってたが。

 そのことを思い出して追い出されたコテージを見やると、窓に人影はなかった。

 不思議なことに明かりが完全に消えている。普通暖炉の火がついているはずなのだが。

 まぁ寝たのだろう、他人を気にしている場合ではないと洞窟へと戻る。

 俺はとってきた枝をパキパキと折って適当な長さにして、焚火の中へと放り込んでいく。


「ぶわっくしょい……あぁ寒っ」


 さっき雪に埋もれたせいで体が冷えてしまったな。

 着ていたコートもすっかり濡れてしまっている。

 脱いで乾かした方がいいけど、脱いでる間寒いからな。そのうち乾くだろうと放置することに決めた。

 すると俺の後ろでむくりとサクヤとカリンが起き上がった。


「あぁ、すまん。起こしたか」

「……王君寒そう」

「私たちの為に燃えるものをとってきてくれたの?」

「まぁね。燃料を一日で消化するわけにもいかないし」

「……それで火の番もする」

「王様とは思えないほど献身的ね」

「そうか? 他の奴らにやらせたら可哀想だしな」


 そう言うとサクヤとカリンは猫のような目をパチクリとさせ、顔を見合わせた。

 二人は俺の着ていたコートが濡れていることに気づき、グイグイと引っ張って脱がしにかかる。


「……濡れてる」

「王君は毎回可哀想に自分が入ってないのが問題よね」

「……うん」


 二人はぴったりとこちらの体に身を寄せ、その上にコートを被せた。


「……正しい雪山スタイル」

「遭難した時はこうやって肌と肌をあわせるといいんでしょ?」

「……まだサムサム」


 すると眠っていたように見えたウサギたちが起き上がり、皆エヘヘとにへら笑いを浮かべながら恥ずかし気に俺の体を隙間なく埋めるようにして背中や膝の上にピッタリと自身の体を合わせる。

 こんな童貞みたいなセリフを言うつもりはなかったのだが、ウサちゃんの体柔らかくて温かい。

 俺は膝の上に乗るバニーお姉さんのウサ耳を触ると、くすぐったそうに目を細める。

 するとサクヤが隣で口を×字にして頭を突き出し、自身のウサ耳で俺の頬を撫でる。


「……妬いた」

「そうよウサギってじーっとしてるようで、ヤキモチやきの動物なのよ」


 カリンがクスクスと笑っているので、俺は二人のフワフワの耳を撫でる。

 触り心地は実に良し。

 傍から見たらバニーガールはべらして楽しんでるようにしか見えないだろうなと思いつつ、普段あまり話さない竜騎士隊のお姉さんたちと話をしながら火の番を続ける。



「いろいろ面白い話が聞けたな。実はカリンが太りやすいとか」

「太っても全部おっぱいにいくから大丈夫よ」

「カリンちゃんは甘いの好きすぎ……肉は肉……贅肉。太るとジャンプ力落ちる」

「えっ、そうなの?」

「落ちないわよ」


 いつもニコニコ顔のカリンが、珍しく頬を引きつらせつつサクヤの頬をむにむにと引っ張る。


「……いひゃい」

「色気肉と言って。体脂肪なんか気にしないわ。女の子に糖分を我慢しろってのが無理なのよ」

「見た目的には全然わからないけどな」


 ついカリンの胸元に視線がいってしまい、大きな白い双丘が俺の目に飛び込んできて慌てて視線を逸らす。

 するとカリンはクスクスと笑いながら「食べる? ウサギ肉」なんて言い出したので、自身の頬がカッと赤くなったことに気づく。


「可愛いなぁ王君は」

「あまりからかわないでくれ」


 降参を告げるが二人を含めたウサギたちは「ダ~メ」と甘い声で言う。

 まいった。たくさんの姉にからかわれてる弟の気分だ。



 翌日、俺は朝チュンの音で目を覚ました。

 吹雪の音は完全にやんでおり、洞窟の入り口からは眩しい日の光が差し込んでいる。

 目の前には煙を上げる枯れ木の燃えカスとジトっとした目を向けるオリオン、ソフィー、フレイアの姿があった。


「……なんでそのウサギどもと添い寝してるのかしら」

「不潔! 不潔です!」

「あたしたちの隣でスケベしてたな」

「不潔! 不潔です!」

「してねぇよ。コートが濡れてたから乾かしてる間」

「スケベしてたと」

「不潔! 不潔です!」


 うるせーな、あのバカ神官。

 どうしたもんかと思っていると、サクヤ、カリンが目を覚まし、大きく伸びをする。


「ん~~~……王君の体、温かかった」

「「「…………」」」


 あっ、これあかん奴や。


「不潔! 不潔です!」

「さっ、こんなバカほっといて行くわよ」

「ちょっと待て、朝飯食ってかないか?」

「いくわよ!」

「食べるに決まってます!」


 どこにキレてるんだコイツらは。

 苦笑いを浮かべながら、俺たちは朝飯を食って洞窟を出た。

 一応あのバカ貴族共はどうなってるかなと思い、俺は窓からコテージを覗き込んだ。すると二人とも倒れていてピクリとも動かなくなっていた。


「どうしたの?」

「中で死んでる」

「どうする金目のものだけとってく?」

「まず生きてるかどうかですね。生きてても弱ってるならトドメを刺しましょう」

「神官とは思えんことを言うな」


 俺たちはコテージに入って、貴族たちを確認すると幸い二人には息があった。オリオンはチッと舌打ちを一つする。


「完全に凍傷だな。手先が真っ青だ」

「なんで暖炉あったのに使わなかったのかしら?」


 不思議だなと思っていると、男女の貴族が震える唇で、恨み言を吐く。


「トマス、あなたが薪一つとってこれないなんて信じられませんわ」

「き、君だってこんなに食材があるのに料理の一つもできなかったじゃないか……」

「缶一つまともにあけられないあなたが悪いですわ」

「缶なんて使用人があけるだろ。そういう君だって缶切りの使い方知らないじゃないか」

「死ね」

「君が死ね」

「ハゲろ」

「君がハゲろ」


 おぉ……なんて醜い。


「まぁ仲良さそうなんで俺ら行くわ。好きなだけ罵り合ってくれ」

「ま、待って……お願い助けて……このままじゃ死ぬ」

「そ、そうだ貧乏王。君たちは僕らを助ける義務が……あるんだ」

「知らん知らん帰ろう」

「待って、行かないで! この男はどうなってもいいから私だけでも!」

「き、汚いぞ! 待ちたまえ、僕の父はとても偉いんだ。礼ならする!」

「お礼で言えば、私のパパの方が金持ちよ!」


 必死に罵り合いをしながら命乞いをする二人を見て、ため息が漏れた。


「どうするの?」

「適当なソリ作って運ぼう。父親から金とれそうだしな」

「おっけー」


 俺たちは簡易的なソリを作って二人を麓まで運んだが、運ばれてる最中二人はずっと罵り合いを続けていた。雪山は恋仲まで冷えさせてしまう恐ろしい場所だった。

 ちなみに二人を連れ帰ったおかげで、彼らの両親から氷の魔法石をタダで大量に手に入れることができたのだった。



 雪山SOS           了

次回書きだめの為、少々お休みします。

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