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見た目は重要

「おや、知りあいかい?」

「開口一番に貧乏王なんて言ってくる知り合いなどいない」

「こ、こいつはダメよ!」


 フレイアはカウンターにかじりついて、職員にくってかかるが、おじさんも困り顔だ。


「話だけでもね? 彼弱そう見えるけど、チャリオットはそこそこ強いからさ」


 この職員の俺への評価がよくわかった。


「ちなみに今日は俺とオリオンしかいないからな」

「あっ、じゃあダメかも」


 オリオン、お前の評価も大したことなかったわ。

 俺は幸せそうにビールをがぶ飲みする相方を見やる。


「まぁ受けないが話だけは聞いてやる」

「貧乏王の手伝いなんていらないわよ」

「そう言わずね。緊急なんでしょ?」


 職員になだめられて口をとがらせるフレイア。


「実は彼女の連れがオークとゴブリンの混成部隊に連れ去られたんだよ」


 それを聞いて、俺はうわっと顔をしかめる。

 つい先日大量のオークとやりあったところで記憶に新しい。

 ゴブリンとオークは低ランクのモンスターで、大した強さはなくゴブリンにいたっては武器を持った女性や子供でも追い払える程度だ。

 ゴブリンは全身緑色の小さいおっさんみたいな見た目で、力は弱い。ウチの裏山にも生息しているくらいだ。だが、狡猾で残虐な面があり、平然と人さらいや殺しをやってくる危険なモンスターでもある。

 またオークの方は人の体に豚の頭をして、頭が回らない分非常に力が強い。先日乾領が壊滅させられた原因にもなったモンスターで、飢餓状態だと手に負えないくらい凶暴化する。

 両者に共通して言えることは、そこまで強くない為、駆け出しの冒険者でも倒せてしまう。

 その反面、なめてかかると手痛い反撃をくらい最悪全滅に陥ることもあるので、上級冒険者は報酬とわりにあわない為、避けられる傾向が強い。

 昔俺とオリオンがゴブリンの巣を壊滅させるクエストを受けたが、巣からワラワラ出て来る出て来る小さいおっさん達が。

 最後は無理やり巣穴に川の水を流し込んで一掃するという荒業を使わされることになった。


「あぁ捕まったのか……南無」

「ちょっと手ぇ合わせてんじゃないわよ」

「いや、無理だ。言っちゃ悪いが、お前の母ちゃんめちゃくちゃ見た目がいいから、ほぼ確実に苗床にされてる」


 苗床とはモンスターを産む母体にされることだ。

 ゴブリンやオークのタチの悪さは、異種族でしか交配しないところにあり、特に人間は非常に良い母体として、捕まった女性は生かされる可能性は高い。しかしそれはあくまで生きているというだけで、人としての尊厳は完全に蹂躙されつくした後である。

 自身達の欲求を満たす為だけでなく、子供を産むものとして死ぬまでひたすら弄ばれ、死んだら死んだで次の苗床を探す。

 そうやってゴブリンやオーク達は数を増やしているのだった。

 俺がオリオンと一緒に入った巣穴には人間はいなかったが、無数の白骨死体が転がっていた為、もしかしたら苗床とされた人間もいたかもしれない。


「しかし、何で捕まったんだ? 魔法使えるなら誘拐しにきたゴブリンくらい追っ払えるだろ」

「クロエは生粋のプリーストなの。だから回復と防御魔法しか使えないわ。私はその時近くにいなかったし。それに誘拐されたのは偶然よ」

「偶然?」

「ミノタウロスの女型、ホルスタウロスの群れに出くわしたの。その時にお乳を譲ってもらってたんだけど、その最中にホルスタウロスの群れごとクロエは捕まったの」

「ホルスタウロスか」


 気性の荒い牛頭の怪物ミノタウロスと、それの女型がホルスタウロスだ。ミノタウロスと違うのは気性が温厚なのと、人との交配を繰り返した結果モンスターの血が薄れ、胸以外の外見が人間と大差ないところだ。胸の大きさだけは人間のそれをはるかに上回る。

 しかしれっきとしたモンスターであり、人語はほとんど喋れない。


「ホルスタウロスって移動系のモンスターだっけ?」

「本来は拠点をもって野菜なんかを主食にする種族よ。でも繁殖期が近いから雄のミノタウロスから逃げてきたのよ」


 確かミノタウロスの繁殖行為は激しいらしく、興奮した雄が雌を殺してしまうことがあるらしい。


「雄のミノタウロスは群れをつくらないけど、雌のホルスタウロスは群れを作って、雄から逃げるの」

「雄から逃げ回らなきゃいけないのか、大変だな」

「雄は繁殖期の自制が全くきかないから、雌を無理やり捕まえようとするの。雌は雌で自分の認めた雄としか繁殖しないから」

「ってことはゴブリンやオークの狙いは元からクロエさんではなく、ホルスタウロスの群れだったと」

「そういうことね」

「ホルスタウロスって戦えないのか? ミノタウロスはめっちゃ強いだろ、ゴブリンくらい追い払えそうなんだが」

「ホルスタウロスって基本はリーダーの命令に従って動くの。恐らくゴブリンは群れのリーダーを一番に捕まえたんだと思う」

「ゴブリンも無駄に頭が回るな。事情はわかったけど、お前報酬払えんの?」

「バカにしないで」


 フレイアは腰にくくりつけられた革袋から、どさりと銀貨と銅貨を取り出す。

 ギルド職員がメモリのついた木箱をとりだすと、金貨、銀貨、銅貨、青貨にわけて木箱の中に積んでいく。

 銅貨と銀貨は結構な数だったが、金貨は二枚と少ない。

 それでも、ゴブリンやオークの討伐には十分な額の報酬だろう。

 俺もお金がなければ血眼になってでも受けたかもしれない依頼だ。


「まぁ知らん奴ではないし、受けるか」


 チラリと酒場を見ると、バクバクと肉丼を頬張る相方の顔が見える。


「そうかい、ありがとう。よろしく頼むよ」


 フレイアの方ではなくギルド職員の方が喜んでいた。


「じゃ、早速」


 職員は依頼書を作成して、依頼者の欄にフレイアの名を、受注者の欄に俺の名前を記載しようとした。

 だが、その時別の男が唐突に割り込んできた。


「ちょっと待ってくれ。その依頼俺達にやらせてくれないか!」


 なんだと思い振り返ると、そこには鎖帷子を着た俳優のような青年と、そのパーティーらしき弓を持ったエルフ族の青年、導師服を着た眼鏡の青年が立っていた。

 どいつもこいつもイケメンでイラっとした。


「アラン君、ヒワリ湖にでるモンスターの討伐は終わったのかい?」

「ええ、ですがそこで仲間の一人と我々の所持金が入った物資を奪われてしまって困っているのです。話は聞かせてもらいました。そちらの依頼を受けさせていただきたいのですが」


 そう言って近づいてきたアランは見惚れするほどのイケメンであり、俺とは対極の位置にいる人間だった。

 家紋の入った剣を腰にさし、背にはカイトシールドが背負われていて、明らかに俺より頼りになりそうだった。


「お嬢さん、何かしら彼に対して思い入れがあるのではないのでしたら、我々にその依頼任せてはいただけないでしょうか」


 そう言って礼をするアランの動きは堂に入っており、冒険者とは思えないほどの育ちの良さが伺えた。


「え、ええ……」


 フレイアは戸惑いつつも一瞬こちらを見たが、アランに任せることにしたらしい。


「ありがとう。必ずや君のお連れさんは我々が救い出してみせるよ」


 アランはフレイアの手をとり、イケメンフェイスから人懐っこい笑みを浮かべる。

 そんなことしたら惚れてまうやろと叫びたくなった。

 フレイアは頬を少し染めつつ、あ、ありがとうとぎこちなく返した。

 老若問わず女はイケメンに弱い。悲しいけどこれ真理なのよね。

 その中で唯一ギルド職員のおじさんはだけが難しい顔をしていた。


「それでは早速ゴブリン討伐に向かいましょう。なに、我々にとってゴブリンなど朝飯前より早い、夕飯前に終わるでしょう。それでは遅いですかな」


 アランは一人でボケて一人で突っ込むと、あっはっはと笑いながらギルドの外に出て行った。


「あんたなんかに頼らなくてもよかったわ。ちゃんとした冒険者が来て良かった」


 フレイアは既に事件が解決したように俺のことを笑いながらアランに続いて外に出る。

 

「そりゃようござんした」


 俺はフレイアに聞こえないように呟きつつ、肉食おうと思って酒場へと向かう。


「心配だな~」


 だがギルド職員はこれ見よがしに俺に声をかけてくるのだった。

 無視無視


「あ~心配だな~! 心配だ~! アラン君見た目はいいが、この前冒険者登録したばかりの新人で、仲間を消耗品のように潰していくって評判なんだよな~、しかもゴブリンやオークに対して完全になめてかかるところがあるからな~。あ~心配だ~。誰かついていってくれないものかな~」


 そしてチラッと俺の方を見る。

 そんなもん知らんがなと言いたい。


「あ~心配だ~。もしかしたら依頼者まで捕まってしまうかもしれない、危険だな~」


 こちとら最初から肉食いに来ただけで依頼など受けるつもりはなかったのだ。

 俺は既に金貨一枚分完食したであろうオリオンのいる席についた。


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