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B1グランプリ

 砂漠から帰ってきて数日、俺は久しぶりのディーとお互い今まであった出来事の情報を交換し合う。


「って感じで、砂漠ではラーの鏡と金塊と飛べない飛行船を手に入れてきた。んで、ナハルっていうピラミッドの神官とバステト族とアヌビス族を数人ウチに加入させた」

「……あいかわらず無茶苦茶しますね。金塊に関しては後でまとめて鑑定にだしましょう。飛行船は既にカチャノフが涎をたらしながら修理を始めました」


 さすが我がチャリオットのブラックスミ、イァン・カチャノフ。ああいう謎の動力で動く機械とかはドワーフ族の血が騒ぐのだろう。


「神官のナハルでしたか? 彼女の呪術と、風呂敷を被った猫は非常に興味深いですね。秘匿とされてきた古代魔法の塊です。考古学者でもいれば泣いて喜んでいたことでしょう。それになによりもあの猫がとても愛らしい。隙間から見える足と尻尾、鳴き声はとてもいいものです」

「ディー?」

「……失礼しました」


 ディーは顔を赤くしてゴホンと咳ばらいする。厳しそうに見えて意外とファンシー好きだからな。


「たくさん良いニュースを持ち帰っていただけたところ申し訳ないのですが、こちらは良くないニュースが多いです」

「なんとなく察しはついてる」


 俺たちは飛行船が使えない場所からは馬車で帰って来たのだが、見慣れないものを山ほど見たのだ。


「はい、帰路でご覧になられたかもしれませんが、難民が爆発的に増えています」

「やっぱ聖十字騎士団か?」

「ええ。教会に抵抗する貴族や王達が次々に襲われ、焼き討ちにあっています。その為家を失った人間が難民化し、酷いところでは暴徒となっているそうです。また襲われる前に教会へとくだる貴族たちも増えています」

「ウチに難民は来なかったのか?」

「いえ、うちには来ていません。ここはかなり辺境なのと……」

「見た目ボロいしな」


 最初の廃城に比べれば、雲泥の差があるくらい立派になってるんだが、それでも元が元なだけにな。

 難民もこのボロ城にはたかれないと思ったか。


「教会は非常に強力ですので強い貴族たちに庇護を求めるのは当然でしょう」

「弱小にすがったところで意味ないってか。でも、金も入ったことだし多少の難民受け入れも視野に……」

「ダメです」


 ディーはピシャッとシャットアウトする。


「ロメロ侯爵から難民の受け入れをするなと通達が来ています。難民に紛れ教会の内通者スパイが潜入してきた事例もあります」

「マジかよ。弱者に紛れてスパイとか最低だな」

「はい、その通りです。ウチは隠し玉となるものが多数いますので、情報漏洩は極力避けたいです」


 ディーと真剣な話し合いをしていると、窓の外からオリオンやソフィーたちの声が聞こえてきた。


「今わざと叩きましたよね! そのハンマーで!」

「ハンマーじゃないよ杵だよ。ソフィーの頭が丁度前にあったから、ちょっとムカついたんだ」

「はぁ!? わたしのどこにムカつくところがあるんですか! 自分では可愛くて心の栄養剤になると思ってます」

「そういうちょっと勘違いしてるところがムカつくっていうかウザイかな……」

「ウザ!?」

「うるさいわね、あんたたち。早く餅つきなさいよ。米がつっかえてんのよ!」

「お米次あがったから、皆早くお餅ついてね」

「いいでしょう。本機の全自動餅つきマシンで、毎分1200個の餅を生産してみせます」

「はぁ……ポンコツ。お前は……ほんと無粋ネ」

「ぶ、ぶす、無粋……」

[オ気ヲ確カニ、ロボットニ粋ヲ求メルノハ人間ノ傲慢デス]

「いいから早く餅をつくであーる! いいかぁ餅つきというのは非常に伝統ある和の文化である。その昔鏡餅を八咫鏡に見立てて――」

「あのドンフライさん、クロエさんが雑煮に使う鶏肉が足りないので来てほしいと言っているであります」

「何? 我輩鶏肉は好きであるからな、鳥を調理するなら手伝うである」

「来るときに自分で毛をむしっておいてほしいと」

「???」


 まさかあんなバカみたいな会話してる奴らが、バカみたいに強いなんて思わないだろうからな。


「なんであいつらは今の時期に餅つきなんかしてるんだ」

「銀河が餅つき文化のことを話したら皆がやりたいと言い出したので、米農家に米をいただいてきました」

「それはウチの近くのか?」

「ええ」

「あそこ昔俺がお米を譲ってもらってたとき、一回ももち米作ってるなんて言ってなかったのにな」

「そうですか? かなり昔から作ってたらしいですよ。バニーたちがお米下さいと言って腰をくねらせると俵で六つほどいただいたそうです」

「あいかわらずだなあのエロ爺め。後でなんか言われるの嫌だから物でなにか返しといてくれ」

「わかりました」


 ディーはクスリと笑って話を仕切りなおす。


「ラーの鏡についてはカチャノフが作成した魔力ブースターの中に入れて、魔力を充電しています」

「充電にはどれくらいかかるんだ?」

「どうでしょう。その辺の目算はもう少し日にちが経ってみないとわかりませんね」

「わかった。砂漠のファラオたちに褒美をもらいすぎたから、少し返したい。何かいいもんないか考えてくれ。足の早い生物でもいいぞ」

「ではライノスから仕入れた鮮魚や水の魔法石を送りましょう。氷の魔法石があればもっと喜ばれると思いますが、そちらのアテはありませんね」

「氷の魔法石か……」

「そうだ、忘れていました。王よ、フジキ・ハニーという王をご存知ですか? 親友に頼みがあると面会を頼まれました。留守だと伝えると帰ったら連絡してくれと」

「誰そいつ……」


 全く記憶にない。


「かなり個性的なモンスターを連れて 自分はB(ボックス)モンスターのテイマーだと言っていました」

「Bモン……」

「ちょっと個性的な顔をした方でした」

「個性……つまり遠回しにブサイクと」


 ブサイクと言われて俺の頭に人物像が浮かぶ。

 昔オリオンしかいない時に、モンスターテイマーの王と知り合った記憶がある。


「あっ……あいつか」


 確か本名は藤木フジキ蜜男ミツオと言い、どっか違う世界から飛ばされて来たと言っていた。

 自分のことは蜜のように甘い男だと言い、女性に名を名乗るときハニーと名乗るちょっと気持ち悪い奴でもある。

 歳が近く、それでいて王だったので打ち解けるのが早く、共に貧乏チャリオットとして小さな領地を切り盛りしている。

 人並みに領地を大きくしたいという願望はあるものの、未だ自分でギルドに出稼ぎしなければやっていけないとぼやいていたもんだ。

 Bモンというブサイクなモンスターをつれ、俺はいつかBモンマスターになると言っていた。


「頼みか……なんだろうな。よし、会うから連絡してくれ」

「わかりました」


 俺は蜜男に会うことにした。


 連絡をしたその日のうちにやって来た蜜男は、つれーわと言いながらウチの来賓室()のソファーに座るなり頭をおさえた。

 革のキャップを被り、いつ見ても半そで短パン姿だった男は、寒くなっている今でもその格好のままだった。


「相変わらずブサイクなモンスターだな」


 俺は彼の隣にいるカビの生えた食パンに、雑な手と足だけをつけたモンスター”カビパン”を見やった。

 食パンを媒介にするカビの方が本体で、状態異常が得意なモンスターだ。


「そうか? 笑うとパンの模様がかわって可愛いぜ?」

「それカビが動いてるんだろ。気持ち悪いモンスターだな……」


 彼のベルトには拳大のMB(モンスターボックス)と呼ばれる、モンスター捕獲用のキャプチャーケージがぶら下がっている。

 弱ったモンスターに、このルー〇ックキューブみたいなのを投げると捕獲テイムできるんだとか。


「どうかしたのか? 頼みがあるって聞いたけど」

「マジツレー、ベーって」

「何が?」

「梶のチャリオットがいつの間にか女の子だらけになってることがマジべー」

「それは別にいいだろ」

「いいことないだろ! どうなってんだよコレ!? 俺と一緒にいつまでも底辺でいようなって酒場で蜂蜜酒ミードを飲みながら誓い合ったじゃないか!」

「そんな童貞の誓いみたいなのはしてない」

「信じらんねぇよ。完全に世界の美女博物館みたいになってるじゃねぇか……」


 ちなみにこの男、大の女の子好きなのだが、顔がブサイクなので未だモテたことが一度もない。

 Bモンテイマーになったのも、可愛い女の子モンスターを捕まえたいという理由だった気がする。


「はぁ……やってらんねぇよ。俺も褐色ネコミミの女の子や、バニーガールのお姉さんに優しくてほどきされたい……」

「えっ……でも、お前」


 俺は過去の出来事を思い出す。

 それはあるダンジョンで、蜜男と出会った時の話である。

 その時オリオンは別の場所で依頼を行っていた為、俺は一人ダンジョン内にある休憩場所で焚火をしていた。そこに蜜男が遅れてやってきて、彼とは何度か面識はあったものの初めて二人きりで話をしたのだった。

 周りに女性の姿がなく、健全な青少年が話す話題の中で、息抜きに女性の好みの話になるのは自然な流れだった。

 俺はお姉さん系でボインちゃんが好きなんだと自身の好みを告げると、蜜男は鼻で笑い「おこちゃまかよ」と言った。

「じゃあお前はどうなんだ?」と続けると、蜜男は言い渋った。

 人にだけ言わせて自分が言わないのはないだろーとはやしたてると、蜜男は「俺の愛は禁断だから」とカッコイイことを言いだした。

 意味がわからなかったが、もしかしたら実はとても高位の女性に恋をしてしまったのだろうか? それとも美しい女性型モンスターに心を奪われたというのもあると、いろいろ深読みする。

 蜜男は「でも、こんなこと言う機会はないだろうから聞いてほしい」と言い、俺はどんなことでも受け止めようと覚悟した。


「実は俺……幼い子がBモンに襲われているところを見るとムラムラする」


 そのまま死んでくれと思った。


「まぁある意味お前はおこちゃまで、俺はおこちゃま好きってところに共通点があるな」


 うまくねーよ。


「勘違いするなよ? 小さい子が好きだからって別にどうってわけじゃないと思う。普通の女の人にだって興奮するし。それがたまたま小さい子の方が振れ幅が大きいってだけなんだ……」


 俺は無表情のままブサイクの話を聞き続けた。


「引かれるってわかってるんだけど、お前に知ってほしかったんだ。なんだろ、これが仲間意識って奴なのかな?」


 こっちは知りとうなかった。


「これで俺たち親友マブだな」


 蜜男は頬を染めて、はにかんだブサイクな笑みを見せる。俺はダメな奴に友達認定されてしまったかもしれんと思った。

 その後こいつとダンジョンを歩いている最中、初潮迎えたら全部子供じゃなくて女だよと言い出した時は、本気で事故に見せかけてここで殺した方がいいかもしれんと思った。



「で、頼みってなんなんだ?」

「実はな――」


 蜜男が話始めようとした時、天板を破ってアホのメイド忍者が俺の膝の上に落下してきた。


「はわわわ、す、すみません!」

「お前ウチボロいんだから天井歩いてたらぶち破るぞ」

「は、はい、申し訳ありません」


 俺は銀河に尻叩きのお仕置きをすると、彼女は顔を赤くしながらぶち破った天井に戻って行った。

 あいつさっきも天井突き破って俺の上に落ちてきたな。しかも狙ったかのように膝の上に。

 蜜男はその光景を見て、なぜか上半身を前のめりにしていた。


「どうした?」

「たった」


 聞かなきゃ良かった。


「それで、頼みってのは?」

「ああ、実は――」


 言いかけてまた来訪者がやって来た。


「あ~ん、王君聞いて、サクヤちゃんがいじめるの!」

「……いじめてない」


 カリンが嘘泣きをしながら俺の体に抱き付き、その後ろにサクヤたちバニー軍団が続く。


「今度は何だ?」

「あのね、おっぱいおっきくなったって言ったら、太っただけって言うの!」

「……餅食べすぎ」

「太ったか? 見た目的にはわからんが」


 俺はカリンのバニースーツ越しのウエストに触れる。相変わらず凄いくびれをしている。


「わからん」

「……これ」


 サクヤは俺にメジャーを差し出す。


「いやああ、正確に数字にないで!」

「俺はある程度肉のついてる女の子の方が好みだぞ」

「やった~」

「……社交辞令」


 二人は俺の頬にキスをして、キャイキャイと騒ぎながらバニー軍団を引き連れて去って行った。

 俺の前に座る蜜男は、無表情でブサイクな顔をしていた。


「お前、ブッサイクな顔してるぞ。どっちがモンスターかわかんなかったぞ」

「この辺重い壺とか、ガラスの灰皿とかないの?」

「ないよ。あったらどうするつもりなんだ?」

「ぶん殴る。お前ふざけんなよ! なんだよあれ! 夜のお店であんな美人指名したら一体いくらとられると思ってるんだ!」

「知らんがな」


 それからもチームピラミッドやクロエ、フレイア、エーリカ、レイランと客が来てるって言ってあるにも関わらず次から次にやって来る。

 その度に蜜男は前かがみになっていく。


「なんでずっとガ〇ォーク形態になってるんだお前は」

「お前のチャリオットがエロすぎるのが悪い。畜生、ド畜生が! 不公平だ、俺とお前、顔面レベルは大してかわらないのにどうしてここまで差がついた。ずっとブサイクフレンズだったじゃないか!」

「嫌なフレンズにするな」

「はぁ、生きてるのバカらしくなってきたわ」


 蜜男は大きなため息をついて一枚のチラシを俺に見せる。

 そこには最強のBモンテイマーを決めるB1グランプリを開催すると書かれていた。


「なんだこれ?」

「モンスターボックスを使うテイマー限定で、大会をやるんだよ。これに一緒に出てほしいって頼みに来たんだ」

「俺テイマーじゃないしな」

「ボックスを使えば誰でもBモンテイマーになれるんだよ! ボックスをくれるBモン博士のところに行けばすぐにお前もBモンテイマーさ!」

「テイマーさと言われてもな……」


 俺Bモンのこともいまいちよくわかってないしな。


「ようはBモンってモンスターボックスで捕まえたのをBモンって言うのか?」

「それだけが条件じゃない。Bモンテイマーってのは、必ずモンスターかテイマーがブサイクである必要があるんだ」


 何その深すぎる業。


「じゃあモンスターもテイマーもブサイクなお前は最強ってことだな」

「ははっ、冗談きついぜ梶」


 冗談ではないんだがな。


「お前なら俺と一緒にBモンテイマーを極められると確信してる。俺と一緒にBモンやってくれよ!」


 俺は蜜男の持ってきたチラシをペらりとめくると、そこには優勝賞品の中に上位には豪華賞品他、美少女モンスターをプレゼントと書かれていた。

 その中でコイツの好きな、背の低い幼女モンスターの姿があった。

 コイツこれが目的だな。


「まぁ……出るだけならいいけどさ」

「ほんとか? やったぜ今日からお前は俺の親友からライバルだな!」


 嫌なライバル認定をされ、俺はB1グランプリに出場することになったのだった。

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