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守護神VSトライデント

 それぞれ武器を構えたチャリオットのメンバーが全員配置についた。

 竜騎士隊はスフィンクスを取り囲むようにマンスラータリアの屋根上に立ち、セトやナハルたち墓守は白のピラミッドに登って詠唱を開始する。

 ソフィーと俺だけが迫りくる守護神を正面にとらえて立っていた。

 俺はチャリオットの仲間から三叉槍に巻かれたトライデントの旗を受け取る。これがないと俺がどこにいるかよくわかんないからな。

 石造りのスフィンクスは巨大な羽をはためかせると、周囲に突風を巻き起こしながら浮遊を開始する。

 よくまぁこんなバカでかいものが空を飛ぶもんだと感心する。


「あの、本気でわたしだけで受けるんですか?」

「まぁソフィーさんウチのメイン盾だからな」

回復担当ヒーラーです! 王様、なんでわたしの隣にいるんですか?」

「そりゃ逃げないか見張――いや、お前を一人にさせられるかよ」


 そう言うとソフィーは「えっ?」と驚いて頬を赤くする。チョロイ。


「ちなみに俺は今全ての能力がエネルギー切れ状態で何も使えない」

「嘘でしょ、存在意義を教えてください」


 存在否定はさすがに酷くない?

 俺はG-13から借りたシグナルガンを空に向かって構えると、トリガーを勢いよく引いた。直後砂塵の空に紅の信号弾が打ちあがる。



[シグナルレッド確認。戦闘ミッション開始デス]

「スラスターイグニッション」


 指定位置についていたG-13とドッキングしたエーリカは、全身に弾薬を満載したミサイルコンテナを装備し、背面部には飛行を可能とするジェットエンジンが青白い炎を上げていた。ウイングが展開されると、白き機械兵は地面の砂を巻き上げながら空を舞う。


「ストームファランクス掃射」


 両肩部に搭載されたミサイルハッチが開くと、凄まじい勢いでミサイルが上空へと打ち上げられる。ミサイルは上空でUターンすると、爆薬の雨となってスフィンクスへと降り注いだ。

 たった一人で圧倒的な火力を発揮するエーリカだったが、スフィンクスには青白いバリアフィールドが展開されており、いくら攻撃してもダメージを与えられていなかった。


「対象の視界を遮りました。フェーズ2へと移行します」


 エーリカが次の部隊へと合図を送ると、白のピラミッドに陣取ったナハル達墓守が完了した術式を解放する。


「天に星、地に花、人に猫。神の領域を守護せしメジェドの神よ、我が前に現れ出でるであります!」


 ピラミッドの上空に何百、何千を超える召喚陣が浮かび、そこからナハルの眷族である風呂敷猫たちが大量に顔を出す。風呂敷猫たちは一カ所に集まると、キラッと一瞬光り次の瞬間には巨大な神メジェド様へと合体していた。

 頭に真っ白い風呂敷を被り、特徴的な猫目と脚だけが覗くメジェドは天高くジャンプすると、そのままスフィンクスの上へと落下する。

 上空を飛んでいたスフィンクスがメジェド様のヒップドロップで叩き落とされるのと同時に、ガシャンと音をたててバリアフィールドがガラス細工のように砕けるのが見えた。



 上空からメジェドによって叩き落されたスフィンクスは、大量に砂を巻き上げながら横転する。その様子を俺は「うーわ」と声を上げながら見つめていた。


「フィールド中和(物理)って感じだな」


 メジェド様とスフィンクスの巨大対巨大の戦いは、さながら怪獣映画を彷彿とさせる。

 ヒップアタックはダイレクトヒットしたが、しかしスフィンクスのフィールドは何重にもなっているらしく、まだうっすらと光るバリアが見える。

 メジェド様は一回の攻撃で合体が解けたのか、元の風呂敷猫となり体が崩れミーミーと鳴き声を上げながら撤退していく。


「ナハルはいい仕事したな。あいつのバリア大分薄くなってるぞ」


 今ならやれると言いかけて、俺は逃げようとしてるソフィーを捕まえる。


「オイ、次は俺たちの番だぞ」

「わたしお腹痛いので……」

「ヘタレてる場合か。ほら、くるぞ」


 横転したスフィンクスは起き上がると、こちらに向けてつぶらな瞳を光らせる。すると、目からレーザーが発射され、街の一部を焼き払った。

 レーザーが通った場所は爆発が巻き起こり、爆風の熱い風が俺たちの体を揺さぶる。遅れて街人の阿鼻叫喚な叫びが聞こえてきた。

 爆発が起こった街を確認するとレーザーによって建物が溶解し、溶けたチョコみたいになっているのが見えた。


「うーわ……」

「無理無理無理! あんなの当たったら死にます! なんですかあれ、世界を火の海にかえる力がありますよ!?」

「大丈夫だ」

「何を根拠に!?」

「大丈夫だから!」

「ダメだこの人、これしか言わない!」


「ふわああああっ」と泣きながらソフィーは逃げ出してしまった。どうやらヘタレスイッチが入ってしまったらしい。

 俺はその場でじっとしたまま、再びその目に光りが灯るスフィンクスを眺めていた。

 キラッと目が輝き、世界を炎にかえるビームが発射される。

 俺は剣影を呼び出すと、残っていた最後の力を使いソフィーのシールド能力を発現させる。

 目の前に巨大なシールドが現れ、スフィンクスのレーザーを遮るが、俺の力では食い止めることが出来そうにない。


「ぐおおおお重いぃぃぃぃぃ!」


 俺はビームの重さに耐えきれず、膝をつく。まずい、シールドにヒビが入って来た。

 パキパキと嫌な音をたてるシールドを見て、これはあかん奴だなと思っていると、その時俺の脇から誰かが割って入る。

 それは白銀の甲冑兵、ヘヴンズソードを展開したソフィーだった。


「なんで逃げないんですか!? バカじゃないんですか!?」

「バカなのは帰って来たお前の方だろう」

「わたしが来ないと王様死んじゃうじゃないですか!」

「きっと来てくれるかなって信じてたよ」

「薄い! 言葉が薄すぎます!」

「愛してる」

「結婚詐欺初日の詐欺師の方が、もっとうまく言えますよ!」

「スーパーピンチを演出してみた」

「最低ですこの人!」

「大丈夫だ、お前はやればできる子だからな。俺には応援することしかできん」


 ビームを受けながらもソフィーはこちらをチラリと伺う。その視線が俺の胸の十字傷に注がれていた。


「またひどい目にあってきましたね」

「おう」

「なんでそこまでして戦うんですか? 今だって逃げちゃえばいいじゃないですか」

「ソフィー俺はな、ああいった世界を恐怖に落とすような理不尽は嫌いなんだ。あのスフィンクスが街を壊せば壊すほど世界は辛く悲しいことに包まれていくと思わないか?」

「…………」

「家を失い、家族を失い、友を、仲間を失う。そんな悲しい世界になるより皆でおっぱいのことでも考えてようぜ」

「だから王様は傷を負って皆を助けるんですか?」

「痛みや苦しみは一瞬だが、救えなかった後悔は一生だからな」


 再びスフィンクスの目に光が灯る。


「王様、あなたはいつも傷にまみれています。だけど、そんなあなたをわたしたちは守れてますか?」

「もちろんだ。なぁソフィー、お前ならあんなの押し返せるって俺は信じてるぞ」

「ええ、わたしなら出来ます。あなたが傍にいるのなら……ヘヴンズソード!!」


 ソフィーの叫びと共に白銀の甲冑兵が輝きながら巨大化し、構えるシールドから天使の羽がのびた。

 白銀の光りを放つ神の剣、ヘヴンズソードはスフィンクスのレーザーを完全にはじき返したのだ。


「イージスシールド出力最大!」


 シールドの前に魔法陣の形をした防御障壁が幾重も展開される。

 放たれた二発目のビームがシールドに命中するが、その程度ではこの絶対障壁を抜くことは出来ない。


「ぬるいんですよ。わたしのシールドを抜きたければ、この三倍は熱くしてもらわないと」


 やばい、ソフィーさんがカッコイイこと言ってる。これは負けフラグか。


「シールドインパクト!」


 そう思ったが、ヘヴンズソードは盾を叩きつけるシールドバッシュをスフィンクスの顔面に見舞う。

 シールドによる打撃はスフィンクス最後の障壁を砕くことに成功したのだった。


「ぃよっし! オリオン!!」


 俺がガッツポーズをとると、砂漠の街に再び断空の剣が立ち上る。

 結晶剣から放たれた光りの剣は、雲を割り、空を割らんと高く雄々しくそびえ立つ。

 俺はスフィンクスの前で旗を掲げる。熱砂の風を受け、トライデントの旗はたなびいていた。オリオンはこの旗をきっと目印にしている。

 俺は砂塵の中でも輝くトライデントの旗を鋭く振り落ろした。

 それを合図にして断空剣はスフィンクスの顔面目掛け、空を割って落ちる。

 それと同時に空には三日月兎の竜騎士たちが空を舞っている。

 ギリギリと自身の体を捻り、爆弾が取り付けられた槍をスフィンクス目掛け渾身の力で投擲した。

 槍は真っ赤な雨のように降り注ぎ、スフィンクスの体の至る所に突き刺さると次々と爆発し、砂漠の守護神は爆炎に包まれながらゆっくりと倒れて行った。

 

「やったぜ、ザマ見ろアポピスめが!」

「しんどぉーーーい! もう動きたくありません!」


 肩で息をするソフィーをねぎらい、俺はレイランと共に崩れたスフィンクスへと近づいていく。


「死んだか?」

「いや……多分まだ生きてるネ。ただ大分弱ってる」

「そんじゃトドメさすか」


 二人で話していると、壊れたスフィンクスの顔から荒い息をした何かが現れる。


「ハァハァハァハァ……」


 それは血まみれの半人半蛇の怪物だった。


「あれがアポピスで間違いないネ」

「よぉアポピス、引きこもりには世間の当たりが厳しかったみたいだな」


 皮肉を言ってやると、アポピスは鬼のような形相でこちらを睨む。しかしそんな恐い顔したって無駄だ。

 お前がもう既に死にかけだということはわかってんだからな。


「俺の勝ちだアポピス」

「おのれ、おのおおおおれええええええ! 小賢しき人間よ! まだ勝負はついていない!」


 アポピスは魔法で周囲に炎をぶちまけると、それを目くらましにして砂の地面に潜り出したのだ。


「あの野郎!」

「逃げる気ネ!」


 砂中をすさまじい勢いで駆け抜けていくアポピス。奴はどうやらマンスラータリアの中心部に向かったらしい。

 俺は竜騎士隊を呼び戻し、ジャンプで上空を跳びながら奴の姿を追う。


「……どこ? かな」

「あそこだ!」


 俺は、人が集まっている街の中央を指さした。

 俺たちは中央の広場へと降りると、そこには怯える群衆が集っていた。

 真ん中にいるのは血まみれのアポピスではなく血まみれのムハンの姿がある。

 あいつムハンの”皮”を着てやがるな。その理由はなんとなく察しがついた。


「皆の者よ、来たぞ! 奴こそがこの街を崩壊させようとしている盗賊団の一味だ!」


 ムハンは俺に向かって指をさす。それにつられて街人たちは一斉に俺たちチャリオットを見やった。


「野郎やっぱりか」


 群衆を味方につける気だ。


「俺、あそこのメイド服の女が自警団を倒しているところを見たぞ!」

「私もあっちの女が自警団を倒していたのを見たわ!」

「あの男ブサイクな顔をしている!」


 それは関係ないだろぶっとばすぞこの野郎。

 街人は怒りに満ちた目でこちらを睨む。ムハンはこの街の人間にとっては英雄なのだ。

 ここで俺がいくらムハンは邪神なのだと言ったところで聞きはしないだろう。

 街人はそこらにあった粗末な剣や木の棒を握って、こちらへとジリジリと近づいてくる。


「まずいな」


 俺の隣に来たエーリカが耳打ちする。


「殲滅しますか? 本機の灼熱焼夷弾ヒドラなら人間程度約0.3秒で溶解させることが可能ですが?」

「なにその恐い武器。絶対ダメに決まってんだろ」


 そう言ってる間にも、騙された群衆はジワリジワリと近づいてくる。


「ピラミッドを破壊し、我が自警団を手にかけた罪は重いぞ!」

「そうだ、ムハン様が言うなら間違いない!」

「そうよそうよ! ムハン様の敵は私たちの敵よ!」


 俺たちは次第に街人たちに包囲されていく。

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