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黒のピラミッドへ

「本当にダメか?」

「本当にダメであります」


 翌日、俺たちは自警団を警戒して夜も明けきらないうちにアジトを出ようとしていた。

 ピラミッドへ入るメンバーは、既に俺が選出しておりアランたちが言っていた通り、俺を含めたN~SRまでの全レアリティを一人ずつ、プラス枠を一人。内訳は、ナハルをレアリティダウンによってノーマルにまで下げ、Nの枠にし、R枠にオリオン、HR枠にフレイア、SR枠にサクヤ、プラス枠にレイランを起用し、このメンバーで黒のピラミッド攻略を目指す。

 と、決めたのだが土壇場になってファラオがごね始めたのだ。


「どうじゃ、やはり妾を連れて行ってはくれぬか?」

「ファラオ、心配なのはわかるけど、あんたは一番狙われてるんだからここでじっとしててくれ」

「そうですぞ、ファラオよ。ピラミッドならこの男に任せ、あわよくば死んでもらいたく思っています」


 セトが本音だだ漏れのことを言う。これはあえて俺に言い聞かせてるんだろうな。


「この砂漠の命運をかけた戦いに妾が座して待つことなんぞできぬ。それに、狙われるというなら……ほれ、見よ」


 ファラオはナハルと同じく、目玉のかかれたシュールな風呂敷を頭に被る。


「これでどうじゃ? 妾が誰かわかるまいて」

「す、凄いであります。ファラオがどこに行ったかわかりませぬ!」


 ナハルと眷族の風呂敷猫がミーミーと声を上げて明後日の方向に探しに行く。

 わざとか、それはわざとやっているのか。

 あれか先輩のネタを頑張って持ち上げる、空気読める後輩的なあれなのか?


「どうじゃ?」


 ファラオは風呂敷をとると嬉しそうに笑みを浮かべるが、俺は両腕をクロスさせた。


「ダメェー!」

「うぐぐぐ。この妾が祭りに出られんなどあってはならぬ! 祭りに出たい! 最後にはパーンとはじけ上がりたい!」


 やはり野次馬根性的な目的か。

 ファラオがパーンとはじけ上がったら、セトとナハルは白目むいてるだろうな。


「ファラオよ、いつまでもこの者たちを困らせてはなりませぬ。アポピスの手先だけではなく、奴の影響で近隣の魔物が活性化しているのです」

「だからこそ妾が」

「ファラオ、聞き分けてほしいであります。臣下を信じて待つのも王の役目であります」


 セトとナハルに説得されて、ファラオは「うぐぐぐ」とうめき声をもらしながらもようやく引き下がってくれた。


「せっかく準備をしたのじゃが……」

「すまないな。ファラオの分まで頑張って――」


 ファラオの用意した袋の中に大量のクラッカーとパーティーグッズが見えた。

 大丈夫この王? 実は自分が騒ぎたいだけじゃないの?

 はぁと小さく息を吐いて、ファラオは俺に向き直る。


「そなた、鏡は持ったか? 妾の話覚えておるじゃろう」

「ああ、この鏡が守ってくれるって話だろ。これをファラオだと思って行ってくるよ」


 ラーの鏡を大事に懐にしまうと、ファラオは俺に頑張れと軽く抱き付き耳打ちをする。


「箱を見つけよ」

「箱?」

「奪われた財宝の中に恐らくある。目玉ウジャトの意匠が施された金の箱じゃ。妾の一番大切なもので、あれだけはくれてやるわけにはいかぬ」

「わかった。それも探しておく」


 俺たちはファラオと別れの挨拶をすまし、クロエから弁当を受け取って黒のピラミッド前までやって来ていた。

 寒暖の激しい砂漠では朝方はまだ冷える。ピラミッド前を進むと、丁度ダンジョンの入り口に一人の男が立っていた。

 その2メートル近い巨躯にいかついシルエットでは、誰が立っているか丸わかりであった。


「ムハン……ダウート」


 自警団隊長であり、アポピスと深くつながっていると思われる人物。

 一番嫌な奴にあっちまったな。


「これは冒険者たち、こんな朝早くにダンジョンに入るのかね」


 ムハンは歓迎するように両腕を広げる。その強面の顔には余裕があり、水を渡してきた時と同じく敵意は感じられない。


「いつもなら応援の一つでも贈りたいが、かわったお仲間を連れているな」


 奴は風呂敷を頭から被ったナハルに視線を移すと、バレバレであるにも関わらず、それ以上何も言うことはなく俺に視線をもどした。

 どうやらこの男には全てバレているのかもしれない。

 いや、こいつがアポピスと深く繋がっているならバレているのは当然か。それにそうでなくては、そもそもこんな時間に、俺たちを待ち構えてはいないだろう。

 こちらが戦闘態勢に入りかけたが、ナハルが止める。


「奴は所詮アポピスが操りし人形のリーダー。倒したところで意味はありませぬ。むしろ奴を倒して、次のリーダーが産まれてしまう方が不都合であります」


 そうか、結局こいつが本体というわけではなくアポピスの本体はピラミッドの地下にいるわけだ。

 なら無視した方が良いか。こいつが素直にピラミッドに入れてくれるならの話だが。

 ナハルが助言したのを見て、ムハンは厳つい顔に笑みを作った。


「フフフ、ハハハ落ちぶれたものだな墓守よ。そのような部外者に頼ることになるとは」


 瞳の色が血のような赤にかわったムハンは額をおさえて大笑いする。


「誰もファラオの復活なんぞ望んではおらん。民は俺を選んだ。この街の神は今や俺だ」

「黙りなさい、邪神めが」


 ナハルが憤りの声を上げるが、ムハンはやれやれと言いたげに肩をすくめた。


「俺は民を守り、導いている。それのどこが邪神だというのだ?」

「この街の民を操って、よくもぬけぬけと!」

「心外だ。俺の操作能力はそこまで強力ではない。自警団の連中は強い暗示にかかっているが、それ以外の人間はほとんど自分の考えで行動している。ほんの少し自警団に味方し、俺のやり方に疑問をもたなくなる程度のものだ」


 ムハンはそれの何が悪いと開き直る。


「金色の蛇のおかげで冒険者に頼らずとも金はある。むしろそんな平和なこの街を崩壊させようとしている貴様らこそが邪神ではないのか? こんな無垢な冒険者を抱き込んで命を賭けさせようとしている。本当に酷いのはどっちだ?」


 ムハンはよく考えろと俺たちに視線を送る。


「冒険者よ、君たちがファラオにどう言いくるめられたか知らんが、こいつらに同情する必要はない。弱いから淘汰されただけの存在。民とはより強きものに従う。民にとってはより強い神が支配者になっただけの話」

「ファラオを不意打ちで襲い、金色の蛇を奪っておきながら……」

「弱いから悪い! それで終わりだ! 貴様らはとうの昔に負けたのだ。風化した遺跡や神殿と同じく砂に還るだけの存在。往生際が悪いのだ!」


 ムハンは反論するナハルに声を荒げる。


「貴様もファラオが本当に弱体化した理由はわかっているだろう? 金色の蛇だけが理由ではない。民の心がファラオから離れたことだ。本当に民から慕われていれば、ファラオはその信仰心を力にして蛇なしでも俺に打ち勝つことはできたはずだ! だができなかった! それは民がより強い支配者を求めたからに他ならない!」

「う……ぐ……」


 ナハルは悔し気に俯く。いや、風呂敷被ってるから俯いてるかはよくわかんねぇんだが。


「民は苦しい砂漠の生活を神に救ってほしかったのだ! ファラオは民からこう思われていたぞ。自分だけ財宝に囲まれて楽をしているが、ちっとも我々の生活を楽にしてはくれないと。ファラオには我々を救える力がないのだと。だからこそ俺がこの街を救い、導いてやったのだ。……もう一度聞く、この街に必要な神は(アポピス)かファラオか、どちらだ?」


 ナハルは鋭く指を突きつけられて、一歩後ずさった。

 民の心がファラオから離れていることは、彼女からしても否定しようのない事実のようだ。

 ナハルは小さく唸ると、ネコミミと尻尾をしおれさせる。


「フハハハハ、負け犬の神が」

「おい、人に指さすんじゃねぇよ。行儀悪い奴かよ」


 俺はその指を払いのけた。


「ふん、この話を聞いてもまだそちらにつくか?」

「うるせー、俺はいじめられるのは弱い奴が悪いって理論は最高に嫌いなんだよ。100%殴る奴が悪いに決まってんだろうが」

「部外者にはこの領域レベルの話は理解できんか」

「バカにすんな。ファラオが苦労して人を根付かせた街を横取りして、信者増やした気になってる邪神の話だろ」

「貴様……」


 ムハンの額に青筋が浮かぶ。


「今の話を聞いて、お前も俺が邪神だと言うか」

「当たり前だ。じゃあ教えてもらおうか。金色の蛇は一体何を金にかえてるんだ?」

「…………」


 ドンフライが見てきた話を繋ぎ合わせると、そう、この野郎は――


「街人や冒険者を捕まえて金にしてんだろ? おまけに人の心を操るアミュレットまで配布して。人心を操り、間接的に己へと服従させ、金が足りなくなれば人を金にかえる。それをあたかも民を守る為と大儀名分をつけて。十分邪神じゃねぇか」

「…………よそ者が。何も知らずに」

「どんな理由があろうが人を金に変えて街の資金にしていいわけあるかよ。俺は部外者だから言えるんだ。人間甘やかすとその状態が普通になって、自分が恩恵を受けてるって事実に気づかなくなっちまうんだ。ファラオがなんの為に甘やかさずに人々を見守ってきたか、その真意に気づかない奴は、テメーみてぇな甘い言葉を囁く詐欺野郎にコロッと騙されちまうんだ」

「詐欺野郎とは、ほざくな」


 ムハンは武骨な曲刀を腰から抜き、こちらを睨んだ。

 そんだけ怒るってことは十分図星ってことじゃねぇか。


「捕まえた女をその場で犯そうとするクソ野郎の親玉が良い奴なわけねぇだろ。ファラオはお前なんかに負けねぇ。今からお前の死者の書、破り捨てに行くから覚悟しろ」


 さっき自分の言ったことを忘れて、俺はムハンに指を指した。


「あ、あの隊長様、死者の書は奴を封印するものなので破いてはまずいであります」


 ナハルに注意を受け、俺はかっこつけたポーズのまま「えっ、そうなの?」と視線で語る。


「…………死者の書に封印しに行くから覚悟しろ」

「言い直したわね」

「……言い直した」

「言い直したであります」

「カッコつけるの下手くそネ」

「まぁ、咲だからね」


 言いたい放題かこいつら。

 ムハンは苛立ちのこもった視線をこちらにぶつける。


「いいだろう。このピラミッドは白のピラミッドの複製でもある。せいぜい墓守に攻略方法でも聞いて俺の元に来るんだな」


 変に優しいヒント投げて来やがったな。ってことはつまり、何か罠があるってことだな。

 俺たちは苛立ったムハンに見送られながら黒のピラミッドの中へと入って行った。

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