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凶悪盗賊団

「やっぱダンジョン前で声かけた方がいいんじゃない?」

「そうだな、ピラミッド前に戻るか」


 Nクラスの仲間を集める為、俺たちは再び黒いピラミッドの前へと戻ってきた。

 丁度アランがピラミッドの中に入るようで、遠目からこちらを見かけると人集めに苦労していると察したのか、ニヤリと笑みを浮かべ「ざまぁみろ」と唇を動かすのが見えた。相変わらず嫌な奴でブレない男だ。

 奴がダンジョン内に入っていく姿を見送った後、俺たちはNクラスの人物を探そうと周囲を見渡した矢先、突如大声が響き渡る。


「盗賊団だ! 奴を捕まえろ!」


 何事かと思い振り返ると、そこには二つの目玉が描かれた風呂敷を頭からすっぽりと被った人間が、水の入ったボトルを抱えて走っているのが見える。

 変装するにしてももう少しやりようがあっただろうと言いたくなるほど、見る者を脱力させるシュールな格好だ。


「咲、あの人ベッドシーツ頭から被ってるよ」

「ああ、寝ぼけた時のお前みたいだな。……あいつの隣を走ってるちっこいのはなんだ?」


 シーツを被った泥棒のすぐ脇を、全く同じ格好をした小人たちが10人ほど並走している。

 皆水のボトルを一本ずつ抱えているところから見て、あの小動物程度の大きさしかない小人も共犯とみるべきだろう。

 童話などで小人が出てくる話はよくあるが、頭から風呂敷被って水をパクってる小人は聞いたことがない。

 

 泥棒のすぐ後ろを自警団のレッドショルダーが剣を抜いて追いかけている。

 本当にあの間抜けな姿の奴らが盗賊団なのか? と首を傾げていると、シーツを被った泥棒のすぐ近くに俺を騙してくれたガイドの姿が見えたのだ。


「あの野郎、あんなところで」

「止める?」

「止める」


 オリオンとサクヤが一瞬で宙を舞うと盗賊団を捕まえにかかる。

 しかし盗賊団たちは素早い動きで街の中へと入ると、街の構造を熟知しているらしくバラバラに別れて入り組んだ裏道を逃げていく。

 通常なら取り逃がすところであるが、ウチのウサちゃんたちからは丸見えである。

 俺はサクヤに抱えられながら上空をジャンプしており、逃げる盗賊団の姿をはっきりと捉えていた。


「あのシーツ被った一番バカっぽい奴がリーダーっぽいな」

「あそこ……行く?」

「ああ、頼む」

「りょうかい」


 サクヤは上空から一気に急降下すると、追っ手をまいたと油断しているシーツ人間の前に降り立つ。

 相手は虚を突かれて驚いていたが、すぐに何が起きたか理解すると刃身が湾曲したナイフを取り出し、こちらに斬りかかって来たのだった。

 俺はすぐさま黒鉄を抜いて、ナイフを弾き飛ばす。

 武器を失ったにもかかわらず、シーツ人間は格闘術でこちらに応戦してくる。

 逆立ちした状態で開脚し、扇風機の如く回転蹴りを浴びせてくる。昔テレビで見たカポエラとかいう武術に似ているが、こいつの一番凄いのはこんなに動いているのに奴の中身が見えないことである。

 高校の時めっちゃくちゃ短いスカートはいてるくせに、なぜか見えない不思議な女子がいたが、まさしくそれである。


「くそ、見えそうで見えない!」


 俺が押されているのを見て、サクヤが槍を投擲すると、シーツに槍が刺さりシュールな盗賊は縫い付けられるようにして近くの壁へと突き刺さった。

 そしてギリギリで見えなかった泥棒の姿が露わになる。


「お、お前――」


 シーツ人間の中身を見て驚かされていると、レッドショルダーの自警団が追いついてきた。

 俺は咄嗟にシーツ人間を家と家の狭い隙間へと押し込んだ。


「この辺りに盗賊団がいたはずだ!」


 自警団は壁に突き刺さった槍と風呂敷を見つける。


「槍を投げたが、間一髪でかわされて逃げられた」

「……そうか。どっちに逃げた?」

「あっちへ」

「わかった。盗賊団は危険な奴らだ。見つけたらすぐに我々を呼べ」


 俺は適当な方角を指さすと、自警団は凄い勢いで走り去っていった。


「危険……ねぇ……」


 俺はフゥーフゥーっと荒い息でこちらを威嚇する、頭に黒いネコミミをつけた褐色の少女を見て首を傾げた。



 俺たちは隙を見て、空き家の中へと入るとボロい椅子に少女の体を縛り拘束した上で話を始めた。


「とりあえず、君は盗賊団でいいのか?」

「…………」

「名前は?」

「…………」


 無言を貫くネコミミ少女。彼女の格好は褐色の肌に映える真っ白な衣装で、踊り子のように露出度が高いものだ。

 ただ、頭のサークレットやブレスレットに金が使われており貧乏盗賊のようには見えず、どこかの王族のような気品すら感じる。

 そこがまた違和感になっているのだった。


「お前をこのまま自警団に突き出すにしても、逃がすにしても何か喋ってくれ。少し自警団の行動とお前ら盗賊団の行動が引っかかるんだ」

「…………」


 そう、凶悪な盗賊団と言っておきながら追っていたのはオリオンと大して変わらぬくらいの少女で、盗んだものは水のボトルと、凶悪盗賊団が盗むにしてはいささか生活がかかっているものだ。

 しかし褐色ネコミミ少女は何も答えない。


「困ったな……」

「…………奴隷を連れている男に話すことは何もないであります」

「奴隷?」


 俺とサクヤは二人で顔を見合わせる。

 そうか、彼女の下乳にはハート型の縦縞焼き印が押されており、これは奴隷の印なんだった。

 どうやら俺は奴隷商か、奴隷を連れ回す貴族と見られたらしい。


「いや、これは奴隷であって奴隷でないっていうか。奴隷なんだけど、そういう関係ではなく」


 なんと説明していいかわからず困っていると、サクヤは何の脈絡もなく、むちゅーとこちらにキスを一つくれた。

 その様子を見て、褐色少女は「ふわわわわわわっ」と顔を赤くして激しく狼狽する。


「な、なんて破廉恥な。そのような男女のまぐわい我が主神は許さないでありますよ!」

「奴隷……違う。王君は王。この焼印は……わたしが王君の所有物である証」

「やっぱり奴隷ではありませんか!?」

「違う……普通奴隷は主人嫌い……でも、わたしは……好き」

「えーっとだな」


 なんとかわかりやすくかみ砕いて説明すると、褐色少女は「むぅ~」と唸りながらも理解したようだ。


「あなたはこの男に救われたでありますか」

「……そう」

「そうですか……確かにこの男、よく見るとかなり凛々しい顔をしているであります」


 そんなこと初めて言われた。褒められているのにバカにされていると感じるのは俺の心が既にひねくれてしまってるからだろうか。


「美男子は女をたぶらかすと言いますが。英雄色を好むとも……」


 あまりにもこちらを持ち上げてくるので、段々不安になってきた。


「なぁサクヤ、俺っていつも通りの顔だよな?」

「うん……いつも通り」

「いつも通り?」

「……可愛い」


 ダメだ、サクヤとカリンは俺に対しての評価が甘すぎる。

 もはや顔に関しては素直に賛辞を受け取れない体質になってしまっている。


「なぜ、あなたはわたしめを助けたでありますか?」

「凶悪な盗賊団って聞いてたんだが、あまりにもそうは見えなくてな」


 あと、このちっこいのが気になったのだ。

 彼女の周りには風呂敷を被った小人が空き家の中を興味深そうにあっちこっちトテトテと歩き回っている。

 彼女と同じように頭部にはネコミミがついているし、風呂敷の下側から獣っぽい足と尻尾が覗いている。

 どうやら獣人か妖精の類だろう。

 猫の妖精ケットシーなんかは二足で立ち上がって行動すると聞くが、風呂敷を被った妖精というのは聞いたことがない。


「このちっこいのはなんなんだ?」

「眷族であります」

「眷族?」


 これが? と俺は一匹の首筋を後ろから掴んで持ち上げるが、あまり抵抗する様子はなくミーミーと鳴き声を上げている。


「猫か?」

「猫であります。この子はわたし目の忠実な眷族であり――」


 そう言いかける褐色少女の頭の上に眷族はよじ登り、猫耳を引っ張っている


「痛い、痛いであります!」

「忠実なようには見えねぇな……」


 主人が拘束されてるのに助けないところを見ると、わりかしフリーダムな眷族なようだ。


「猫神……」


 サクヤがボソリと呟くと、少女は目を輝かせる。


「わたしめのことを知っているでありますか?」

「昔……この辺に猫を統べる神様がいるって……聞いた。確か……バス……バス……バスガスバクハツ」

「バステトであります! なんでありますかその不吉な名前は!」

「惜しいな」

「神様の名前を間違えないでほしいであります。わたしめは猫神バステト族のナハルであります」

「そんで、その猫神様がなんで落ちぶれて水なんか盗んでたんだ?」

「…………」


 そこはだんまりか。

 どうするかなと考えていると、空き家の周囲が騒がしい。

 オリオン達が俺たちを探しに来たのか、それともレッドショルダーの連中が……。

 そう思ったが予想は外れ、ラッパ銃を構えた黒ターバンの男達が空き家を囲んでいる。


「お前のお仲間の方が先に到着したらしい」


「ペラペ~ラ、ペラペ~ラ」


 あの訳の分からん言葉は盗賊団で間違いないだろう。

 黒ターバンの男達は、ここにナハルがいるとわかっているようで、空き家の中に一気に踏み込んできた。


「ペラペーラペラペーラ!!」


 多分「動くと撃つぞ」で間違いないだろう。

 予想より数が多い。屋内戦ではサクヤの槍は不向きだし、こいつらの正体を確かめたいという気持ちが強い。

 俺とサクヤは両手をあげて、相手を伺う。

 盗賊団はナハルの拘束をほどくと、彼女と会話している。


「ペラペ~ラ?」

「特に危害は加えられていないであります」

「ペラペペラ」

「そこまでする必要はないであります。敵だったとしたら、わたしめは既に奴らに引き渡されているはずであります」

「ペペラ……ペラペラペー!」


 黒ターバンの男はやはり殺すと決めたのか、俺の膝に蹴りを入れて無理やり跪かせる。


「やめるであります!」

「ペラ! ペララ!」


 俺の後頭部にラッパ銃の銃口がつきるけられると、サクヤが殺し屋みたいな鋭い視線をしながら、後ろの男に膝蹴りを見舞おうと脚に力を込める。


「よせ、お前の蹴りだと確実に相手を殺す」


 竜騎士の脚力は岩盤を蹴り砕くくらい強く、普通の人間がまともに受ければ胴体が二つに千切れる。

 俺が喋ったのが気に食わなかったのか、後ろの男はラッパ銃で俺の後頭部を殴打すると、意味不明な言葉を発しながらこちらの背中にのしかかる。


「ペラッ!」


 多分「死ね」と言ったのだろう。男は引き金に力を込める。

 その瞬間ガチャンと激しい音が鳴って、窓がぶち破られた。

 いきなり突撃してきたのはオリオンで、それに続いてエーリカや解凍済みのレイランたちが並ぶ。


「大丈夫!? よくも咲を、こんなに顔がボコボコになってるじゃないか!」

「顔は一度も殴られてねぇよ!」


 これが普通の反応で逆に安心すらする。


「ペラペペラペラ!」


 盗賊団と俺たちのチャリオットが両サイドに別れてにらみ合う。

 位置的に俺とサクヤは盗賊団側に近く、ナハルは俺のチャリオット側に近い場所にいた。

 レイランは素早くナハルを背後から捕まえると、その首筋になんの躊躇いもなく青龍刀を突きつける。

 お互い人質をとられた状態で、銃口を突きつけ合わせながら一触即発の状況が出来上がる。

 

「この女殺されたくなかったら、そこの二人返すよろし」

「ペペペラペ!!」


 多分「ふざけるな!」って言ったんだろうなと察しがついた。

 しかしこれでは完全にこちら側が悪役である。


「おかしな行動をとれば、この女の頭は吹き飛びますよ」


 エーリカはナハルの側頭部に拳銃を突きつける。

 待て、お前ら本当にそれでいいのか。これではどちらが凶悪な盗賊団かわからん。

 そう思っていると、黒ターバンの男達は仕方ないと諦めたのかラッパ銃をその場に捨てる。


「良い判断です。それでは」

「「死ね」」


 エーリカとレイランの声が同時に重なる。こいつら人質取った上に皆殺しにする気だ!


「やめろ!!」


 俺が大声で怒鳴ると、エーリカとレイランの悪役コンビはぴたりと止まる。


「なぜかばうか? 毒虫皆殺し。これ常識ネ」

「わざわざこちらが約束を守る必要はありません。反抗する気がうせるくらい根絶やしにするのが交渉のセオリーです」

「そんなセオリー知らん。とにかく、剣と銃をおさめろ。状況がおかしい」


 俺の指示でエーリカとレイランは銃と剣をおさめる。

 すると外にいたらしき黒ターバンの男が大声で叫ぶ。


ペラペペペー(太陽の翼が来たぞ)!」

「まずいであります!」


 ナハルは隙をついて俺たちチャリオットを突っ切ると、黒ターバンの男達もそれに続き、全員が一気に空き家から逃げだして行く。

 何がどうなってんだか。


「咲、どうするの?」

「よくわかんねぇけどあいつらを追うぞ。多分アジトまで連れて行ってくれるんだろ」


 そうして俺たちは逃げるナハルを追いかけて行ったのだった。

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