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冒険者養成学園Ⅺ

 俺は肩で息をしながら倒れたペヌペヌを見やる。


「これは凄い。理解できない謎の力で倒されてしまいました」

「なっ!?」


 体を真っ二つに両断したと言うのに、奴はまだ動いていたのだ。

 よく見ると奴の顔の皮膚がはがれ、下から機械のパーツが見えている。


「お前、ロボットだったのか」

「イエース、簡単に倒せたと勘違いしてしまいましたか? わたくしをいくら倒したところで無駄。本体は現在騎士団本部で優雅にティーをたしなんでいマース。無駄な労力ご苦労様と言わざるを――」


 俺は転がったペヌペヌの頭を踏みつぶした。

 バキっと音が響き、部品とオイルをぶちまける。


「黙れラジコン野郎」


 さすがサイコパス博士といったところか、自分のコピーロボットを作って戦闘を行わせるなんて手塚治虫先生くらいしか考えつかないと思ってた。


「ラジコン野郎とは酷い言いぐさデス」

「!?」


 真後ろから声が聞こえ、驚いて振り返る。

 するとそこには今踏みつぶしたばかりのペヌペヌが立っていたのだった。


「あなたの思っている通り、わたくしは自身の体のスペアをいくつも持っています」

「一匹見たら山ほどいるゴキブリかよ」


 俺は黒鉄を構える。


「およしなさい。それではもう戦えないでしょう?」


 ペヌペヌが指指す方を見ると、剣影が力を使い果たしデフォルメされたドクロ姿に戻っていた。

 確かにこの状態ではもう戦うことができない。

 この状態で攻められるとまずい。

 そう思ったがペヌペヌにはもう戦意はないらしい。


「わたくしも貴重な経験をさせていただきました。さて、気分よく遊んでしまったせいで時間を無駄にしましたね。時は金なり、君たちも若いことにかまけて遊んでいるとすぐに老いが来マスよ。希望するなら融機人への改造手術を行っても構いマセン」

「お前に頼むくらいなら悪の秘密結社にでも頼んだ方がマシだ」

「それは残念。さて、わたくしはおいとまさせてもらいマス。この施設にもう用はありまセン。ですが彼女だけは頂いて行きましょう」


 二体目のペヌペヌがコンソールをいじるとカプセルの中に大量の気泡が発生し、アリスの体が隠れ消える。


「それでは皆さんごきげん――」


 言いかけた瞬間

 それより早くに銃声が轟き、カプセルの一部を爆発させる。


「むっ、なんデスか」


 ペヌペヌが見やると、G-13がガドリング砲から白煙を立ちのぼらせアイカメラを赤く光らせていた。

 カプセルの気泡は消え、再びアリスの姿が現れる。


[アリスサンノ強奪阻止ヲ最優先目標ニ設定。誰デアロウト目標ニ近ヅクモノハ攻撃シマス]

「殺戮兵器が人を守る為に創造主に歯向かうか。いいだろうサーティーンズ」

[ワタシハ殺戮兵器デハアリマセン]


 G-13はペヌペヌをターゲットし、銃口を向ける。


「ふむ、息子が自立した瞬間を見ている気分ですよ。ここは名も知らぬ少年と、サーティーンズそして貴重なデータに免じて引いてあげましょう」


 ペヌペヌは最初に切り裂いた一体目の右腕を拾い上げ、こちらに放り投げた。

 その腕には学園長を操っていた腕時計型のコントローラーが巻かれている。


「チップは君なら摘出できるでしょう」


 ペヌペヌはG-13を見据えた後、コンソールの赤く光るボタンを押すと、研究施設全体にアラートが鳴り響く。


[情報機密処理命令が発令されました。本研究所は三分後に自爆します。職員は直ちに研究所から退避してください]


「自爆装置なんてベタなもん使いやがって!」

「こういう王道ははずしてはならないのですよ。人はそれはロマンと言います」

「うるせぇラジコン博士め!」

「さようなら諸君、生きていたらまた会いましょう!」


 二体目のペヌペヌの足元に魔法陣が浮かび上がると、奴の姿は一瞬にして消えていく。


「くそ、ふざけやがって!」

「咲さン、姉ちゃンを!」


 そうだった。

 俺はすぐさまアリスをカプセルの中から救出する。

 マルコはアリスを担ぎ、ヴィクトリアは学園長の体をおぶる。


「大丈夫か、かわるぞ?」

「親父くらい背負ってみせます!」


[爆発まで残り二分]


「やばい、さすがに時間がなさすぎる!」


 二分で地下二階から外に脱出するのは不可能に等しい。

 というか、こんな広い地下研究所で逃げるまでの猶予が三分しかないって欠陥だろ。完全に逃がす気ねぇじゃねか。

 するとG-13は何を思ったのかキュルルルっとホイール音を響かせ、アリスを回収したカプセルに突撃しだしたのだ。


「何やってんだお前!」

[コノ下ニ自爆用ノ爆弾ガアリマス。ソレヲ回収シ、自爆ヲ解除シマス]

「馬鹿野郎、そんなことしたらお前が木端微塵だろうが!」

[わたしが死んでもかわりはいるもの]

「何でそこの音声だけ女の子なんだよ! 俺はそんなバッドエンド認めねぇよ!?」


 いつもみたいな棒読み音声で喋れ。


[残り1分50秒。カウントダウンを開始します]

「カウントダウンはぇぇよ!」


 残り1分とラスト10秒だけでいいよ!

 言ってる傍からG-13が掘り出した穴から、赤熱する自爆装置っぽいのを拾い上げてきやがった。


「お館様!」

「咲!」


 スザンヌを倒したオリオンと銀河、あとニワトリが追い付いてきて俺たちと合流する。

 二人と一羽はG-13が持っているものを見て、目玉が飛び出す。


「あの、それは爆弾では……」

「もうじき爆発するである! 早く我輩だけでも助けるである! 人間の盾になるである!」

「最低だなこのニワトリ」

「窮地の時本性が現れるっていうしね」

「いや、こいつは窮地じゃなくてもこんなもんだろ」


 これだけ裏表なくゲスな奴も珍しい。

 G-13が即座に自爆装置の分解作業に入る。

 凄まじい勢いでネジを外し、ドライバーやドリルを使って爆弾を解体していく。


[残り1分]

「もうダメだー!!」


 マルコがパニックをおこしかけているとG-13解体を終え、爆弾の中からカウントダウンと一致するデジタル時計と赤と青の二つのコードが伸びた時限信管が姿を現す。 


[スキャン中……スキャン中……]


 G-13はカッターを伸ばすが、赤のコードと青のコードのどちらを切ればいいかわからずアームがウロウロしている。


「どっちかわからないのか?」

[スキャンエラー、起爆コード内ニ高度ナブラックボックスヲ確認、スキャン不可]

「だよなぁ! やっぱ最後はこうなると思ってた!!」


[残り30秒]


 やべぇ! もう時間もねぇ!


[王ノ判断ニオ任カセシマス]

「…………お前はどっちだと思うんだG-13」

[100%デハナイ予測ニ意味ハアリマセン]

「いいからどっちなんだ」

[…………青、ト推測シマス。シカシコノ予測ノ信憑性ハ78.2パーセン――]

「なら青だ! 青を切れ! 俺は仲間を信じる!」

[死ンデモ恨マナイヨウニ]

「当たり前だ」

[少シダケ感謝シマス……ワタシヲ信ジテイタダケテ]


 G-13は青いコードにカッターを近づける。だが


「我輩は赤だと思うである」


 そう言ってドンフライはG-13のカッターが届く前に嘴で赤いコードを切ってしまった。

 デジタル時計の数字が全て0になり、表示が消える。

 あれ、もしかして赤いコードだった? もしかしてドンフライ俺たちを救った英雄? と思った瞬間。


[起爆装置が作動しました。本研究所は自爆します]

「おいいいいいいい!! 外してんじゃねぇか!!」


 爆発を告げるアナウンスが流れ、全員があたふたすると、銀河が素早く印を結ぶ。

 すると巨大なガマガエルが足元から現れた。


「皆さん早くジライヤさんの中へ!」


 全員が慌ててジライヤの口の中へと飛び込む。


「うわ、すげぇぬめぬめしてる!」

「これ溶かされたりしない?」

「うわ、婆の死体がある! 嫌なモノ見ちまった」


 全員がカエルの胃袋の中に入って俺は気づく。


「G-13がいねぇ!」

[ワタシハ爆発ヲ抑える為、地中ヘト潜リマス]


 外からG-13の音声とドリル音が聞こえてくる。

 あのバカ、責任感じてやがるな。

 俺は慌ててジライヤの口の中から飛び出そうとする。

 その瞬間、視界を閃光が襲う。



 数秒前、自爆装置を抱えて地下を潜行するG-13は、これから爆発して自身が無くなってしまうというのに、CPUは平静であった。


[仲間ト呼ンデイタダケタノハ嬉シカッタデス――サヨウナラ、イケメン王]


 地下が大きく振動し、爆音が響き渡る。オリオン達はジライヤの腹の中で上下逆さまに転がり、どっちが上で、どっちが下かさっぱりわからない状態になっていた。

 そしてしばらくして揺れが収まった。



「…………生きてる?」

「生きてます」

「生きてるである」


 全員ほんのわずかな間だけだが気絶していた。

 オリオン達はジライヤの外に出ると、そこは倒壊した学園の前だった。


「地上まで上がってこれたんだね」

「爆風で吹き飛ばされたのでしょう。運よく上がってこれましたが、建物の下敷きになっていた可能性は十分にあります」

「あたしたち運良かったんだ。ありがとうゲロゲロさん」


 オリオンがジライヤの頭をなでると、ゲロゲロっと喉を鳴らす。


「ジライヤさんはどのような過酷な環境下でも生きていける表皮をしていますので。助かって良かったです」

「それに引きかえコケコッコーは」


 オリオンに睨まれてドンフライはさっと羽で顔を隠す。


「我輩今日のラッキーカラーは赤だったである」

「ラッキーカラーなら切っちゃダメでしょ。助かってよかったね、咲」


 振り返って、王がいないことに気づく。


「あれっ!? さっきまでいたよね!?」


 オリオンはジライヤの口をあけるがスザンヌの死体しかない。


「さ、咲さン、土壇場で外に出ていくのが……見えました。多分G-13さんを追いかけて……」

「そんな、……咲、さーーーーきーーーーーーーー!!」


 とオリオンが叫び声をあげると、学園の瓦礫が動く。


「ワッショーイ!!」


 瓦礫をはねのけて、煤で真っ黒い顔をした勇咲が姿を現したのだった。



「あー、死ぬかと思った」


 俺は爆発する土壇場でジライヤの腹から抜け出し、フラッシュムーブの近距離転移を使ってG-13に追いついたのだ。

 そしてG-13のコアっぽい丸っこいボディ部分だけを外して即座に戻った。

 すぐさまフラッシュムーブで距離を離したが爆発に巻き込まれて、そのまま天井をぶち破って空へと打ち上げられたのだった。


「運が良かったのか悪かったのか」


 俺は手近な瓦礫に腰を下ろす。


[踏マナイデイタダキタイ]

「なんだガラクタかと思ったらお前か。知ってたけど」


 俺が踏んだのはG-13の丸っこいボディ部分である。他のパーツは爆発に巻き込まれて粉々になってしまったので、残ったのはここだけである。


[何故助ケタノデスカ?]

「お前が爆弾持って地下に降りたのと同じ理由だよ。仲間を目の前で殺してたまるかよ」

[非効率的、貴方ガ死ヌト多大ナ影響ガデマス。ワタシ一機ガスクラップニナッタトコロデ問題アリマセン]

「あるかないか決めるのは俺だ。お前はムカつくけど、変に人間味があって憎めないところもある。ロボットだから死んでもいいっていう理屈は俺には通じないぞ」

[…………ワタシハペヌペヌ博士ノ設計シタ殺戮マシンカモシレマセンヨ]

「殺戮マシンが命張って仲間守るかよ」

[…………]

「あー、今回も派手にやったな。学園一つまるごと潰しちまった。これ誰に謝ればいいんだろうな」


「さーきー!」


 少し離れた場所からオリオンたちが走ってくる。

 どうにか誰も欠けずに生き残れたらしい。

 あと、あのニワトリが一緒になって感動の再会みたいにしようとしてるのが気に食わない。

 やはりあいつは晩飯にしようと心に強く決めるのだった。

次回 冒険者養成学園編エピローグ

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