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冒険者養成学園Ⅶ

 その夜、学校に忍び込むことを考えていた俺たちだが、そこに一人の少女が訪れる。


「あの咲先生いますか……」


 扉を開けると、そこにいたのはヴィクトリアだった。


「おっ、どうしたんだこんな時間に?」

「あの……お話があるんですが」

「まぁ入れよ」


 そう言って部屋の中へと招くと、オリオンはむっとした表情をしている。

 まだ昨日のことを根に持っているらしい。


「夜分遅くスミマセン。マジな相談があって……」

「そうか、じゃあ」


 俺は全員に目配せして人払いしようとするが、ヴィクトリアは首を振った。


「いえ、そのままで結構です。その……話っていうのが……恥ずかしいんですけど……」


 ヴィクトリアは話すかどうか、こちらを前にしてもまだ迷っているようだった。


「俺でいいなら話を聞くぞ」


 そう言うとヴィクトリアは顔を上げ、自身の悩み事を打ち明ける。


    ・

    ・

    ・

    ・


 ヴィクトリアの話をまとめると、ヴィクトリアは学園長の娘で、学園長の運営するこの学校に当たり前のように入学したのだが、この学園を作って以降学園長の様子がおかしいらしい。

 具体的には昼間はこれと言ってかわらないのだが、夜中になると学園の地下で何かをしているらしい。

 気になって後をつけて地下室に入ろうとしたが学園長にバレることになった。その時、今まで優しかった父が暴力を振るうほど怒り狂ったという。

 それからまともだった父と娘の関係は亀裂が生じ始め、ヴィクトリアはどんどんグレていったが父はそれを止めなかったという。

 今現在父親とは別の場所で暮らしているが、学園長は今でも夜になると学園の地下に入り浸っているという。


「今まで普通だったのに、急に人がかわったみたいになって、もうどうしたらいいかわかんなくて……」

「…………何か原因になりそうなものは?」

「宗教に……ハマりました」


 嫌な予感がする。


「ママが、この学校を建てる前に急死して……その時父親は大きなショックを受けて一年くらいまともな生活をできませんでした。でも……ある日宗教団体が来て、父親と何かを話した後、急に父はそれまでやっていた事業の金を全てつぎ込んで学校を建てたんです」

「…………その宗教主って、こんなことを言ってなかったか? ――信じれば死者は生き返るって」

「……なんで……それを」


 当たりか……。急激に嫌な予感が加速してきた。


「ヴィクトリア、お前も来い。お前には真実を知る権利がある」

「えっ?」




 全員が寝静まった丑三つ時。俺と銀河、オリオン、ヴィクトリア、G-13はこっそりと地下の魔術式で施錠された扉の前へと忍び込んでいた。

 薄暗い校舎の中を四人と一機は厳重に施錠された魔術扉を見やる。


「それでは開錠します、ニンニン」


 銀河が人差し指と中指をたてるダブルピースをしながらニンニン言うと、いともたやすく扉が開いた。


「バカみたいなポーズで開いたな」


 この扉を施錠した人間も、まさかアホのダブルピースで鍵を破られるとは思ってなかっただろう。


「えっへんです」


 俺はなんの前触れもなく銀河のスカートをめくりあげた。


「ふわああぁぁっ、お、お館様、なにを」

「なんかどや顔してるのがイラっとしてつい。ドンフライさんもいないしな」

「あのコケコッコーどうしたの?」

「さっき飼育小屋覗いたけど、どれがどれかわかんなかったから放置した」


 そのまま置いて帰ろう。


 地下室へと入ると、電気が落とされ薄暗い。

 G-13が前に出てヘッドライトを点灯させる。


「そういやお前もキャタピラ音なってないけど、なんで――」


 と言いかけてG-13を見ると脚部がキャタピラからタイヤにかわっている。


「キャタピラモードカラホイールモードニ切リ替エマシタ」

「なぜそれを尾行しているときに出来なかった」


 こいつがバレなければ、そのまま地下に侵入できていたはずである。

 そう言うと、G-13のアイカメラがグリンとこちらを向く。その瞬間キュンと高い音をたて、レーザーが俺の頬をかすめる。


「あっぶねっ!」

「虫ガイタノデ排除シマシタ」

「絶対嘘だろ、今どう見ても俺の方見て撃っただろ!」

「ウルサイ虫メ、排除シテヤル」


 虫って俺のことかよ!

 あいかわらず口と態度の悪いロボットである。


 G-13に続いて地下室を進んでいくが、地下は体育館のような広いスペースで、ここで剣や魔法の練習をしたりするんだろうなと察しはついた。

 それぞれバラけて何かないか探すが、別段これと言って何もない。


「なんにもないよ咲、向こうはただの更衣室だった」

「こちらはただの休憩場ですね」

「ん~、確かにただの練習施設って感じだな」


 昔部活の応援に運動競技場とかに行ったことあるが、それがまんま地下につくられただけのような施設だ。

 手がかりを探している最中、不意に銀河の動きが止まる。


「どうした?」

「誰か来ます」


 隠れる為に俺は手近な扉に入り、オリオンと銀河、ヴィクトリアの襟首を引っ張って中へと引きずり込んだ。

 中は練習用具の準備室で、マットや跳び箱、木人のようなトレーニング用具が並んでいる。

 俺は跳び箱の上部を外して、その中に飛び込んだ。

 するとオリオンと銀河が二人一緒に入って来た。


(なんで一緒のとこに入って来るんだよ! 他にもあっただろ!)

(つ、つい)

(咲うるさい)

(俺が悪いの!?)


 ギューギューづめでほとんど身動きできない。

 ヴィクトリアはちゃんと別の跳び箱の中に隠れているというのに、こいつらときたら。


 ぎぃっと音をたてて用具室の扉が開かれる。

 これはまずい、まさか入るところを見られていたのだろうか。

 跳び箱の隙間から外を見るが、暗くて良く見えない。

 相手は懐中電灯のようなものを持っているのか、眩い光が唐突にさす。


[キュィィンウィィィィィン、生体反応0ココニ人ハイマセン]

「お前のセンサーザルかよ!」

「咲!」

「しまった!」


 アホなネタを見ると、つい突っ込まずにはいられなくなってしまっている。

 見ると、そこにはG-13 の隣にマルコの姿があった。突如サザエ家のオープニングみたいに跳び箱から飛び出てきて面食らっているようだ。


「あ、あの咲さン。一体そこで何を?」

「あぁ、咲ってば狭いところに入るのが趣味なんだ」

「俺はネコか」

「否定、ゴキブリノ方ガ正シイデショウ」

「お前いい加減スクラップにしてやろうか!」


 くそイライラする、銀河の尻でも触って落ち着こう。


「大体なんでお前は隠れなかったんだ、てか隠れる場所無いか」

「ワタシハ最初カラセンサーデマルコサンダトワカッテイマシタ」

「なぜそれを言わん」

「試シマシタ」

「やっぱりお前はリサイクル工場行きだ!」


 銀河の尻をむにぃぃっと力強く握るが、彼女は恥ずかし気にスカートの裾を引っ張って触られていることをバレないように耐える。

 忍者の鑑だな。

 と思っていると、オリオンが俺の足を容赦なく踏んだ。


「痛っ!!」


(妬くな!)

(妬くよ!)


「は、はぁ」

「……それよりマルコはなんでここに?」

「その、姉ちゃンがいないンです!」

「アリスが?」

「はい、夕方誰かに呼び出された後、ちょっと外に出てくるって言い残して、それっきりで」

「じゃあ何かしてんじゃないのか? 友達のところに行ってるとか」

「姉ちゃン、ああ見えて毎日夜九時には就寝するんです」

「良い子か」


 とてもヤンキーのヘッドとは思えない


「十時まで起きてれば、昨日は全然寝てないと寝てないアピールが凄いですから」

「良い子か」


 中学校の頃そんな奴いたけどさ。


「じゃあこの時間まで部屋に帰ってないってのはおかしいんだな?」

「はい、それだけじゃなくて、同じ寮の子が知らない人が人間サイズの布袋を担いでいるのを見たと……。その時これがその場に落ちていたそうです」


 マルコは釘バットを俺に手渡す。

 こんな酷い証拠物初めて見た。

 ネクストコ〇ンズヒーント釘バットって感じだ。


「……犯人はなんでこれ落としたことに気づかないんだよ」

「ぼくどうしていいかわからず、咲さンの部屋に行ったンですが、ニワトリさンしかいなくて」


 あいつ逃げ出して帰ってたのか。


「あいつ何してた?」

「部屋の中でロウソクを自分にたらしてて、なんと言っていいかわからずそのまま部屋を出ました」

「……すみません、ドンフライさんはセルフSMが趣味なんです」


 銀河は申し訳なさそうに答える。

 もうそもまま燃えてしまえよ、あのニワトリ。


「ただごとではなさそうだな。運び込まれたってのはやっぱり地下なのか?」

「わかりませン。校舎の中を歩いていたそうですが、こちらの方角に向かったようです」

「おいポンコツ、周囲にアリスの反応は?」

「サーチ中…………周囲には生体反応が30……50……60存在します」

「多すぎだろ。どこにそんなに人がいるんだよ」


 周囲は俺たち以外はしんと静まり返っており、とても50を超える人間がいるとは思えない。


「下方六メイル」

「下方? 下か?」


 当然ながら下を見ても、石でできた床があるだけだ。


「ってことは地下二階があるってことか」

[内部サーチノ結果、コノフロアニ階段ハ存在シマセン]

「何、じゃあどうやって下に行くんだ」


 地下への道がないとなると、いよいよきな臭い。

 そう思っていると、G-13の両腕部に装備されたガドリング砲がドリルへと切り替わる。

 丸っこい頭の上にディスプレイが現れ、現在区間工事中と道路工事中の時によく見る電光掲示板が表示され、アイカメラから黄色いライトがチカチカと点滅する。

 近未来の土木作業ロボットみたいになったG-13は、そのままドリルで石床を掘り出したのだった。


「お前無茶苦茶か」


 ドリルで階層掘り進めるとか反則だろ。

 とは言うものの、この方法が一番手っ取り早いのも事実である。

 何もなければ教頭と学園長に謝ろう。

 

 ガリガリと音をたてて掘り進むと、床が崩れ俺たち全員が下へと落下する。


「うぉっ!」

「きゃあっ!」


 四、五メートルほど落下すると、背中を強く打ちつけたがなんとか無事に――

 と思った瞬間、オリオンと銀河、ヴィクトリアが俺の上に連続で落下してきた。


「ぐ、え、え」

「ふわわわ、す、すみません!」

「すみませんセンセー」

「咲がいなかったら死んでたかもね」

「いいからどけ、内蔵飛び出るかと思ったわ」


 やばい、この展開はG-13が落ちてくるオチが容易に読めた。

 しかし予想に反してG-13は天井にアンカーを打ち込んでゆっくりと下へと降下してきたのだった。


「器用な奴だな……」


 無駄に芸達者なG-13に感心していると、マルコが最後に落ちてきて俺を踏みつけた。


「ぐえっ」

「すみません、帰ったら痩せます」

「デブのダイエットは信用していない」

過激表現の修正を行っています

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