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冒険者養成学園Ⅵ

 翌朝


 学園に隣接した宿泊施設から学園へと入ると、校門前でヤンキー生徒達が列を成して、後ろ手に手を組んで待機していた。


 あっ、嫌な予感。


「梶先生に挨拶!」

「「「「おはようございます!!」」」」


 校門を通り過ぎると両サイドに並んだヤンキーたちは「ぉはよぅざいます!」と大声の挨拶と共に次々に頭を下げてくる。

 ヤンキーの花道みたいなところを歩かされ、周りの生徒の視線を集めまくってる。

 おかしい、初日はスクールラブコメ(テンプレ失敗)二日目は熱血教師モノだったのに、今日来たらアウトロー系ヤンキーマンガみたいになってる。

 このまま一週間したら地獄学園編とか始まって、番長的な存在を一人ずつ倒して仲間にしていく展開になるんじゃないだろうなと今後が心配になる。


「俺が望んだのはテンプレ的ラブコメ学園モノなのに、この調子ではガルディア学園番長四天王とか出てきそうだぞ」


 頭痛くなってきた。


「先生、マジお荷物お持ちします」

「いや、いいから、ほんとそういうのいいから」


 花道から飛び出したヴィクトリアが白目むいてる俺を無視して、こちらの手荷物を持とうとするのだが、俺はそれをかわしていく。


「そんなへりくだらなくていいんだって。君らの親分はあくまでアリスなんだろ?」

「そうですが、ヘッドの男ってことはうちらの兄貴ってことですから」


 つまりパワーバランス的に俺=アリス(元ヘッド)>ヴィクトリア(現ヘッド)>ヤンキー少女と言いたいのだろう。


「言っておくが俺とアリスは別にそういう男女の間柄じゃないからな」

「愛人ってやつですか?」

「どこからそんな言葉覚えてくるんだ」

「ですが、ヘッドがただの男にあんなになびくわけありません」

「それは彼女が初めての依頼の時に助けてあげたから、それを恩に着ているだけだ。しかも助けたのは別件の依頼があったからなだけで、別に優しさや正義感で助けたわけでもないから恩に着る必要もない」

「さすが先生、自分の手柄を誇らないなんてさすがです。マジ器が違います! ロックを感じます!」


 ダメだ、何言ってもいいように解釈されそう。

 そういや俺のいた現実世界でもヤンキーグループってリーダーがいて、そのリーダーの言うことはなんであろうと絶対正義みたいな雰囲気あったな。

 今思うとあれは力というヒエラルキーがトップに来た、わかりやすいピラミッド構造のコミュニティだったんだろうな。


「先生なんでも言って下さい。気に入らないセンコーがいたら、うちらがかわりにシメて来ますから」

「いらないことはしなくていい」

「なんでも命令があったら言って下さい!」

「そうか、じゃあ俺のことカッコイイって言ってみろ」

「えっ、あ……そういうのはちょっと」


 なんでだ。今なんでもって言ったじゃないか。

 この世界の人間、俺をカッコイイと言うと死ぬ呪いにでもかかってるのか。

 このヴィクトリアという子も貴族の令嬢なのだろう。ここまで子分精神が染みついているのはアリス(ジャイアン)の影響か。


「ならその改造制服をやめて、まともな制服で登校してくれ」

「それはできません。これはあたいらガルディアレディースの魂のソウルユニフォームなんで」

「意味重複してんぞ」


 なんでヤンキーってソウルとかタイマンって横文字使いたがるんだろうな。


「ならせめてロングスカートはやめろ」

「やっぱ下に武器隠してんのバレます?」

「俺が単純に脚が見えないから嫌なだけだ」

「うっす、じゃあ超ミニにしてきます」

「それで頼む」


 長いのはダメだが、短いのはどこまででもOKだ。




 夕方

 勇咲の授業が終わり、日が傾きかけてきた校舎裏には、ヴィクトリアと数人の少女が短くなったスカートの裾を気にしながら地べたに座ってだべっていた。


「ヘッド、どうなんすか? 梶とか言うおない年のセンコーにヘコヘコして」

「口に気をつけろ。まさかアリスさんの彼氏だとは思わなかったからな」

「アリスさんも趣味悪いっすよ。あれならまだアッシュに媚びてる女の方が理解できる」

「なんでだよ、今日の咲さんのラインハルトとギルドの中抜きの話面白かっただろ」

「まさか冒険者と依頼者の間に中立城とギルドが入って、あんだけがっつり中抜きしてるとは思いませんでした」

「あの人教師として残るつもりがないから、普通は話したがらない闇の部分も話してくれるからマジ面白いぜ」

「そりゃわかりますが、見た目あれですぜ? 時たま眉毛めっちゃ太くなる変な芸持ってるし」

「世紀末モードだろ? イカすじゃん」


 ないないと子分の女子に首を振られ、ヴィクトリアはむっとする。


「ヘッドなんでそんなゲテモノ趣味なんですか」

「ゲテモノって言うな。ダメな奴オーラ全開の奴に弱いんだよ」

「違うっしょ、優しい男に弱いだけでしょ。アタイらみたいなバカにでも分け隔てなく接してくれるし、授業後は相談したら話乗ってくれるし」

「そんなんじゃねぇよ」


 と言いつつもヴィクトリアの頬は赤い。


「ヘッドも相談してみたらどうですか? 父親のこと」

「…………家のことなんて言えるかよ」


 そう呟いてヴィクトリアが顔を上げると、校舎の窓に生徒が一クラス分ほど列を成して通り過ぎるのが見えた。

 その後ろに丸っこいボディをしたロボットとニワトリがついていくのが見えた。


「なんだありゃあ……」

「特進科の奴らっすよ。能面みたいな顔していつも地下でなんかの訓練をしてるって噂の。あっ、そういや知ってます? 消えた優等生の噂」

「なんだよそれ?」

「学校の怪談てやつで、ここは昔聖十字騎士団の教会があったらしくて、地下に奴隷や信者を送り込んで悪魔召喚をしていたらしいっすよ」

「それと優等生が何の関係があるって言うんだ?」

「続きがありまして、その実験は今も続いていてこの学校の優等生を実験のために地下へと連れ去っているらしいっすよ」

「アホらしい。昔は奴隷なのに、なんで今は優等生なんだよ」

「そりゃあ……賢い奴の方がいいんじゃないっすか?」

「適当だなぁ……大体なんで聖十字騎士団が悪魔召喚してるんだよ」

「さ、さぁ? でもミルフィーユってやついたでしょ、一般科から特進科に移った」

「あぁ、耳が聞こえないけど冒険者になりたいって言ってた」

「あいつ、先月から急にいなくなったらしいですよ」

「卒業しただけだろ? 自主卒業制だから、ふらっといなくなる奴らの大半の理由はそれだろ」

「でも、周りに一言もなく消えたらしいですよ。あいつハンデある分クラスメイトから気にかけられてたでしょ?」

「それはまぁ確かにな」


 と話していると、そこに教頭のスザンヌが現れる。


「皆さん、なんですかそのはしたない格好は!」

「げっシスターだ」

「ガルディア学園の生徒として、もっと慎みをもちなさい。なんですか、その娼婦のような格好は」

「別にいいだろ、シスターには関係ねぇよ!」


 ヴィクトリアは憎しみのこもった目でスザンヌを睨み付ける。


「まぁ、なんという下品な言葉遣い。ヴィクトリアさんあなたは学園長の娘だというのに、なぜそのように己が品格を貶めるようなことをするのです。あなたがいい加減だから学園長は苦労をされて」

「うっせぇな! シスターには関係ねぇって言ってんだろ!」

「アリスさんを見習いなさい。成績優秀で、容姿端麗、家柄に相応しい振る舞い。それなのになぜあなたのような友人がいるのか理解に苦しみます」

「うるせぇババァ!」

「ババ……もう我慢なりません、更生が必要です。ヴィクトリアさん懺悔室に来なさい!」

「行かねぇっつーの! この宗教屋が!」


 ヴィクトリアとスザンヌのありふれたヤンキーと教師のいざこざを近くの木にぶら下がりながら聞き耳をたてる忍びの姿があった。

 忍びは話を聞き終えると、すぐさまその場を去った。



「消えた優等生に、遅い時間から地下室へと入る特進科の生徒か」


 宿泊施設に帰って来た銀河の報告に、俺はふむと唸っていた。


「はい、ドンフライさんたちに後を追ってもらいましたが、行先はあの魔術式で施錠された地下扉でした」

「地下には入れたのか?」

「いえ……入る直前でキャタピラ音と羽の音が聞こえてバレてしまったと……」

「あのさぁ……見つかるならもうちょっとマシな理由にしてくれない?」


 しかも、それって尾けてたの最初からばれてたよね? 普通に地下までついてこようとしたから追い返されただけだよね?


「俺言ったよね、こいつら確実に尾行に向かないよって? お前が大丈夫ですドンフライさんは忍びの術を使えますし、G-13さんもなんか頼りになりますって、よくわかんねぇぼんやりした理由で」

「は、はい……」

「それでG-13とドンフライさんは?」

「罰としてG-13さんは校庭のトンボかけをさせられています」

「球場整備するトラクターかよ」

「ドンフライさんは、ニワトリが飼育されている飼育小屋に入り隠れ身の術を使って身を潜ませています」

「それただニワトリ小屋に入って紛れてるだけだよね? 隠れ身でもなんでもないよね?」


 あいつニワトリ嫌いなくせにニワトリに助けてもらってるじゃねぇか。


「お前は任命責任だ。そこでスカートたくしあげてろ。お前のパンツ見ながら作戦考えるから」

「ひ~ん、お、お館様~」


 と言いつつも従順に制服のスカートをたくしあげる銀河。


「なんだよ褌じゃないのかよ。忍者と言えば褌だろ」


 ごくごく普通のパンツはき……ん? なんだこれ、普通のパンツじゃない。フリルがすげーついてるし。


「ってこれ、お前アンスコじゃないのか?」

「はい、チアガールなどがスカートの下にはく奴ですね」

「俺前々から思ってたんだけど、このフリルみたいなのいる? 見る側は嬉しいけど、アンスコの用途は見せパンだろ」

「機能性を重視すると下にジャージかスパッツになりますので」

「いるな、スカート短いのに下にジャージ着てる奴。あれ見たら凄く悲しい気持ちになるからやめてほしい」


 って違う、なんでアンスコの話なんかしてるんだ。話脱線しまくりだ。


「アルタイルの学園を調べてくれって依頼を完遂する為には地下の調査が必要不可欠なんだよな」


 現状あの施錠された扉以外に地下へと続く場所はない。

 銀河が仕入れてきた消えた優等生というのも学校によくある適当な噂に尾ひれ背びれがついて怪談化したものだろう。


「あの、お館様が直接学園長に地下を見学させてほしいと言ってみるのはどうでしょうか?」

「教頭にはもう言った。そしたら地下は特進科専用のスペースで、申し訳ないが関係者以外の立ち入りを禁止しているとやんわり断られた」


 まぁ一週間程度で消える俺なんか100%部外者だもんな。 


「咲ー」

「なんだ?」


 振り返ると、学園教師たちを尾行させていたオリオンが戻ってきている。その手には高級そうな小箱が握られていた。


「なんだそれ? お前また変なもん拾って来たのか」

「教頭の後をつけてたらぽろーんと落としたんだ」

「教頭の? ほぉ」


 俺はオリオンから小箱を受け取る。

 指輪ケースくらいの大きさなのだが、箱のいたるところに刻印がされており強固な魔術式で施錠されているのがわかる。

 開けようと試みるが、当然の如く開かない。


「なんか大事なもんみたいだし返した方がいいんじゃないか、これ?」

「つい拾ってきちゃったけどその方が良かった? でも、普通こんなガチガチの鍵がかかった箱なんて持ち歩く?」


 確かに、オリオンらしい鼻の効く推理だ。

 しかし教頭が落とした重要そうな小箱か……。


「これで浮気相手の写真とか入ってたら笑うな」

「うん、ウケル」


 まさかアッシュの裸写真とかじゃないだろうなと思うが、それならそれで面白い。


「少々お貸しいただけますか」

「いいけどスカートおろすなよ」


 銀河は涙目のままスカートを口にくわえて小箱を手に取ると、いとも簡単に開錠してしまう。


「開きました」

「えっ、マジで?」

「はい」


 開いた箱を受け取ると、中から赤い宝石のついた鍵が出てきたのだった。


「鍵?」

「鍵だな」

「これもしかして地下室の鍵?」

「いや、地下室は魔術式でのロックだから、恐らく関係ない。それより銀河、お前なんでこの鍵あけられたんだ? かなり高度なロックだったろ?」

「忍法開錠の術です、にんにん」


 銀河は可愛らしく両手を上下で合わせ忍者のポーズをしている。だがパンツは丸出しだ。


「いや、ほんとそういうのいいから」

「本当ですよ。自分、鍵開けは得意ですので」

「ローグみたいなキーピックスキル持ちなのか?」


 だとすると、こいつのレアリティはHRを上回るんじゃ……。


「はい、魔術式のロックを破るのは得意ですよ」

「ん? ……じゃあ、地下のロックはどうなんだ?」

「多分大丈夫ですよ。地下のロックより、この小箱のロックの方が複雑でしたし」


 大丈夫ですよブイブイとピースして見せる銀河。


「お前……俺がさっきまでなんで悩んでたか知ってるよね?」

「地下室の扉が開かないって話ですね?」


 それが何か? と首を傾げる銀河。

 オリオンがぽんっと手を打つ。


「それで地下扉開くじゃん!」


 あたし天才と自画自賛するアホ。

 そしてなるほどと同じく手を打つアホ忍者。


「どうしたの咲、頭痛いの?」

「うん、頭痛い」

「では、この丸薬を――」

「いらん! ……今からでもディーかリリィでも呼ぼうかな」

「なんで? 調べるくらいあたしらだけで十分っしょ」

「はい、任せて下さい!」

「アホのくせに自信だけは凄いんだよ」


 とりあえず、銀河にはお仕置きしておくことにした。


 俺たちは地下へと侵入する準備を行うのだった。

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