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冒険者養成学園Ⅳ

 その日の晩

 俺は用意された宿泊施設でのびをしていた。


「あー、完全にやらかした」

「うん、完全にやらかしたね」


 オリオンは深く頷くと、授業の後のことを思い出していた。

 あの後千切れたゴブリンの頭を見て、泡吹きながら倒れたアッシュを保健室に運んだ。

 アッシュがいなくなってあいちまった時間を生徒の希望により、俺が今まで体験したギルド依頼の話をしていただけだ。

 そのことを教頭に報告すると、教頭も泡吹いて倒れたもんな。


「まさか客寄せパンダが、嫌なら辞めろ嫌なら辞めろと言うとは思ってなかったであーる」


 ドンフライはベッドの上をバサバサと跳び回りながら愉快気に笑っている。


「学園長に悪いことしたな」


 せっかく良かれと思って依頼してくれたのに。

 しかし、しまったな。これでクビにされたら学園のことなんも調べられないぞ。

 そう思っていると密偵()に出した、銀河とG-13が部屋に戻って来た。


「お館様学園の方、探知機を使って調べてきましたが、特に怪しいものは見つかりませんでした」

[ワタシノセンサーニモ引ッカカリマセン]

「そうか、やっぱ地下を調べたいんだけどな」


 日中に地下を探そうと思ったが、地下室に続く扉は厳重に魔術式で施錠されていたのだった。


「あんな厳重な魔術式破れねーぞ」

「逆に怪しいんじゃない? それだけ厳重に守るってことは」

「いやー普通やましいもんを隠すなら扉事塗り固めちまうはずなんだよ。多分扉が見えて鍵かかってるってことは別に入られてもやましいもんはない可能性が高い」

「そんなもんか」


 別にやましいものがなければ、それはそれで何もなかったと報告するだけだからいいんだが。しかし調べずに何もなかったと言うわけにはいかない。


「それより一週間経たずにクビにされそうで、そっちの方がピンチだ」

「あのアッシュって人、人気ガタガタになったらしいよ。気絶したことじゃなくて、ゴブリンが飛びかかってきた時ビビって腰が抜けたらしい」

「冒険者経験がないと経歴詐称がバレたようである。人気教師を廃業に追い込むとはやるである」

「やっぱ冒険者じゃなかったか。経歴詐称は俺のせいじゃねぇよ」


 しかしながら気が重い。般若のように怒り狂った教頭の顔が頭に浮かぶ。


「あー明日絶対怒られんだろうなー」

「咲ってば王のくせに怒られてばっかだね」

「悪いことばっかりしてるからな」


 考えても仕方ないと、一応教師を続けたときのことを想定して授業内容の構成を考えていると夜は更けていった。



 翌朝

 学園長室に呼び出された俺は、スザンヌ教頭の前でビクビクしていた。

 その様子をオリオンはニヤニヤしながら眺めている。


「梶王先生」

「はい!」

「アッシュ先生が体調不良でお休みされています」

「はい!」

「何か心当たりは?」

「いいえ、ありません!」


(すごいハキハキと嘘ついたな)

(黙ってろ)


「生徒から実際のゴブリンを使用し、目の前で殺してみせたと」

「ちょっと何言ってるかわからないです」

「…………」


 白を切る俺に、教頭はジトっとした視線を向ける。


「アッシュ先生の休講は学園として非常に痛手です。ですが彼の授業を取り消す生徒が相次いでいて、よその授業に生徒が流れています」

「はぁ……」

「梶王先生、あなたの授業ですが約30名ほどの女子生徒が希望しています」

「え゛っ、ほんとですか?」

「生徒達は初めてリアルな冒険者さんの意見を聞けたと言っています」

「はぁ……」

「当然続けてくれますよね? アッシュ先生のかわりの為にも、あなたの授業を望む生徒の為にも」


 スザンヌ教頭は俺の肩を強く握り、目を赤く光らせている。

 その顔にはよくも人気教師潰してくれたなと書かれていた。


「は、はい……やります」

「じゃあ今日昼から授業入れておきますからよろしく頼みましたよ! 全くこんなときに学園長はどこをほっつき歩いて……」



 怒り狂う教頭の圧に屈するが、しかし物好きが三十人も集まったってわけかと思う。

 アッシュの受け持っていた女子生徒が流れて来たってことだと思うんだが、正直言わせてもらえば人の言うことを聞きそうな生徒は0だった気がするのだが。

 頭の中に厚化粧しまくったギャル系の生徒の図が浮かぶ。


「なんにせよ、いきなりクビにならなかっただけマシではあるが」


 段々授業のことを考えると胃が痛くなってきた。

 昨日は開き直った勢いでやったが、新任教師や教育実習に来る先生ってこんな気分だったのかと今更ながら彼らの心労を察する。

 しかしながら俺の授業を見に来てくれると言うのなら、それには精一杯答えよう。

 昨日のような態度ではなく、現実世界にいた教師のように、できる限り丁寧に教えられるように。

 俺は授業が始まる直前まで、自身が言うことをメモにまとめ、必要になりそうな冒険者のデータをG-13を介して集めていく。

 今度は頭真っ白にならないぞ。


 そしてあっと言う間に昼、一番最初の授業で俺は教室の前に立った。

 教室の中から声は聞こえてこない。どうやらうるさい生徒ではなく静かな生徒が多いようだ。


「あぁ緊張する」


 俺はセキ払いを一つして、教室の中へと入る。

 だが、視界に入って来た光景に、言葉を失った。


「なんだこれ……」


 教室を見て驚いた。一体何があったのか机や椅子が倒れ、カーテンは引きちぎられ、いたるところに落書きがされている。世紀末教室に来たかのような惨状が目に入り絶句する。

 俺は振り返って黒板を見ると、そこには書きなぐった文字で


[死ね、ゴブリン教師]


 と書かれていた。

 んー、まぁ知ってた、と強がってみる。

 遅れて中に入って来たオリオンの眼光が、いつものアホの目ではなく戦闘モードのハンターのような鋭い眼光にかわる。


「なにこれ、ここにいる奴ら皆殺しにしてきていいの?」

「ダメです」


 まぁこんなことだと思った。あの授業の後でいきなり30人も生徒がつくわけないもんな。

 小さくため息をついた後、俺は黒板の落書きを消し、机と椅子を一つ一つ直していく。

 マルコはあまりのことに言葉を失っているようだった。


「す、すみませン咲さン。まさかこんなことになるなンて」

「ほんと最悪だよ。授業希望って嘘までついて」


 オリオンは未だに不機嫌さがなおらないのか態度がトゲトゲしい。

 だが、言われたことは守るので俺と一緒に教室を元に戻していた。


「フハハハハハ、これが教師いじめというやつであるな! 偉そうなこと言って生徒の反感を買って逆にいじめられる。傑作である、いい気味である! 必死こいて教える内容メモまでとってやってきたらこれで、今どんな気持ち? と聞きたいであーる」

「だ、ダメですよドンフライさん! そんなこと言っては」


 ドンフライはコケコッコーと笑っている。その首筋をオリオンが一瞬でひっつかみ壁に押さえつけた。


「ぐえっ!」

「咲はあたしたちの王なんだ。なんでそれがバカにされて笑ってられるんだ。あたしは自分がバカにされるより咲がバカにされる方が100倍許せない」

「ソ、ソーリーであーる」

「やめろ、ドンフライさんの言ってることは正しい。結局のところその通りだ。俺がゴブリンの危険性を説いたところで生徒はそれを望んでいなかった。生徒が望んでいるのはアッシュのような面白い授業で、冒険者は本当は過酷な仕事なんだって聞きたくなかったんだろう」


 いや、望まれていなかったのはそもそも俺の存在かもしれないが。


「そんなのただの現実逃避じゃん」

「ま、仕方ねーな。金を払ってるのは生徒だからな」


 教室全てを片付け終わり、一息ついたところで俺は教卓の前に立った。


「よし、じゃあ授業するぞ」

「授業って、咲さン生徒いませンよ?」

「いるだろ、ここに」


 そう言って視線で促したのはマルコ、オリオン、銀河、G-13だ。


「咲さン……あなたって人は……。ぼく咲さンにどこまでもついていきますから」


 マルコは感極まったのか目じりに涙をためている。


「嬉しいがついてこなくていい」

「そんな~」


 そんなやりとりをしながら、俺の苦い授業初日は終了した。



 翌朝のことだ俺はとある生徒に呼び出されていた。

 それは、先日の授業でゴブリンに飛びかかられた、小柄な女子生徒だ。

 彼女は実は昨日、教室を荒らしたのは自分達で、自分より上級の生徒に無理やりやるように言われた為致し方なくやったと。

 彼女は心から謝罪して、今日の授業は出させてくださいと言ってきたのだ。

 俺はその話を聞いて、菩薩の心で全て許そうと彼女を許したのだった。


「咲、なんか嬉しそうだね?」

「ん~、まぁな今日は生徒いるらしいからな」

「そうなの?」

「人間負の心を持っていてはいかんというのがよくわかった。全てを許す心が大事なんだ」

「なにそれソフィーみたい」

「あいつは人を絶対許さない絶許マンだろ」


 俺は意気揚々とオリオンたちと共に教室の扉を開いた。

 すると教室内は昨日にタイムスリップしたのではないかと思うような、荒れ果てた景色が広がっていた。

 黒板には


 [騙されたバカ教師]


 と愉快な文字が黒板に躍っている。


「……………」


 それを見た全員が固まる。

 変な空気になりかかったので、俺は大声を上げた。


「そっかーまた騙されちゃったかー」


 どうやらあの小柄な少女は二回目の嫌がらせを見せる為の役者だったらしい。

 俺は嫌な予感を感じてオリオンの方を見やった。

 すると予想通り彼女の目は完全に猟犬と化していた。


「もういいだろ殺しても? 二回目だぞ」

「ダメです」

「我輩もそろそろ不愉快になってきたであーる」

「ドンフライさんも片付け手伝ってくれ」

「むぅ、お主これだけのことをされて腹が立たないであるか! こんな授業などやめてしまうである!」

「そりゃ腹は立つよ。でもこれに怒って投げだしたら俺はこの子らに負けたわけだろ? 俺は先生として今ここに呼ばれてるんだ。なら俺は例え生徒が一人もいなくたって授業はするさ」

「ぬ、ぬぅ、無駄に器の広いことを言うである」


 さて、とりあえず昨日と同じように教室戻しから始めるか。

 再び教室を片付けるが、落書きが油脂性のインクを使われたのか全然落ちない。

 ヒビの入ったガラスは、割れると危ないので撤去した。

 三十分程度費やして片付けてみたが、直ったのは椅子や机くらいかなと昨日に比べどんどん環境が悪くなっている気がする。


「ムカつくムカつくムカつく」


 俺はオリオンを肩車して、天井にまで書かれた落書きを消す。だが肩に乗ったオリオンは暴れ放題だ。


「あんま暴れるな」

「上げて落とすとか最低だよ」

「ムキになるなって。子供のしたことだ」

「歳ほとんどかわんないくせに。咲が怒んないからあたしが怒るんだ。咲が泣かなければあたしがかわりに泣くんだ。咲が笑う時あたしも一緒に笑うんだ」

「お前はほんと良い奴だな」


 お前がいるから俺は怒らずにすんでるんだってよくわかる。

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