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冒険者養成学園Ⅰ

 数日後、俺は王立冒険者養成ガルディア学園へと来ていた。

 ディーとの話し合いの結果、アルタイルの件を踏まえ約一週間ほどの出張が認められたのだった。


「ここがガルディア学園か」


 馬車を降りると、柵門の奥に見た目的には巨大な教会にしか見えない校舎が見える。

 広大な敷地内には色とりどりの花々が咲き乱れ、そこに白いコートのような制服を着た学生が談笑したり本を読んだりしている。


「なんつーか、冒険者養成学校のわりにはお上品な場所だな」


 こう、もっと剣や魔法の稽古をしている体育会系の学園を想像していたんだが、育ちの良さそうな男子女子がウフフフオホホホホ、ごめんあそばせ的な感じで、学園というより貴族の社交場のように見える。

 とても泥臭いゴブリンたちと戦う人間を養成しているとは思えない。


「ねぇ、咲、なんか脚がスース―して落ち着かないんだけど」

「あ、あの変ではないでしょうか?」

「ちっとも変ではないであーる」

[ルックスポイント360通常女性ノ平均値ヲ大キク上回ッテイマス]


 学園に行くと聞いてついてきたのが、この二人と一羽と一機だ。

 学園の制服姿に着替えたオリオンはなんだか新鮮だ。いつもブラとパンツだけだったのにそれが水兵のようなデザインの真新しいセーラーとスカートによって、いつもの露出が隠されることで逆にエロスを感じる。

 同じようにメイド服から制服に着替えた銀河も見た目だけは悪くない。その恥ずかし気にしているところが嗜虐心をそそられる。

 いかんいかん、銀河から垂れ流されているマゾのオーラにあてられてサディストみたいになってきた。

 本当はこの上に白いコートを羽織るのだが、オリオンの動きにくいの一言で着るのをやめた。


 残りのニワトリとキャタピラロボに関しては説明を省く。


「おい、貴様我輩をないがしろにするとはいい度胸である。いいか年上の人間は生きてるだけで偉いのだ、それを敬わぬ若い人間はクズと言っても――」

「ああもううるせー。なんでついてきたんだよこいつら」

「秘密調査ニワタシハウッテツケデス」


 俺は即座にG-13のマイク部分を塞いだ。


「お前絶対俺たちが学園の調査にきたってバラすなよ。表向きはただ講義をしにきただけの地方王になってるんだからな」

「ワカッテイマス、イケメン王サイコー」

「お前本当に俺のことイケメン王って呼ぶことにしたんだな」

「ハイ、イケメンデナイノニイケメン王ト呼バセル、心ノサモシキ王ノチッポケナ自尊心ヲ満タスタメニゴ協力シマス。イケメン王サイコー」

「嫌な奴だなお前!」


 エーリカかレイランでも連れてこようかと思ったが、たかだか養成学校の講義にEX連れてくるのはどうなんだ? と思い、護衛として適当な奴を連れて来たつもりだが、もうちょっとまともな奴にすればよかったと早速後悔しはじめた。


 バカなことやってないで、さっさと学園内に入っちまうかと思い正門を抜けようとした時だった。


「あ~ん遅刻遅刻~」


 正門の右側から食パンをくわえた制服姿の美少女が


「やべぇ遅刻だ!」


 その反対側から前髪で目を隠した男子生徒が走って来る。

 ん? 何か嫌な予感がする。

 二人は正門前でどーんとぶつかりあい、女子はM字開脚で倒れおっぴろげ状態た。


「いった~い!」

「いてててて」

「ちょっとあんた前見なさいよ!」

「なんだよぶつかってきておいて」


 女子は男子生徒の視線が自分の脚に注がれていることに気づいた。


「ちょ、ちょっと何見てるのよ変態、スケベ!」

「な、なんだよそっちから勝手に見せて来たんだろ!」

「なによ、あたしのせいにするの! 男らしくないわね! もう知らない!」


 女子生徒は駆け足で学園の中に吸い込まれていた。


「くそ、なんだよあいつ。転校してきたばかりだってのについてないぜ」


 俺はとりあえず倒れていた男子生徒に手を貸す。


「あ、ありがとうございます」


 男子生徒が立ち上がったと同時に俺は思いっきりグーパンチを見舞った。


「ボケが長いんだよ! そしてネタが古い! 2000年初期にタイムスリップしたかと思ったわ!!」

「はぐわっ!」

「お前どうせこの後教室に行ったら、あ、あんたはあの時のパンツ覗き魔! とか言われてテンプレ的な再会すんだろ! そんでお兄ちゃんと慕ってくる義理の妹に、ミステリアスな生徒会長とかでてきてお前を中心としたラブコメ始まるんだろ、わかってんだよ!」

「どうどう、咲落ち着いて。自分が主人公になれない鬱憤を、別の物語の主人公にぶつけないで」


 ウチのメンツでパン咥えながら遅刻遅刻~とかそんな展開できるわけがない。

 男子生徒は急いで逃げ出していった。


「オリオン、お前これ咥えろ」


 俺はオリオンにパンを咥えさせる。


「なにこれ食べていいの?」

「まだだ。銀河、お前もこれ咥えて。お前ら今から両サイドから走って俺にぶつかってこい」

「いいけど」

「わかりました」

「いいか、遅刻遅刻~って言いながら走ってくるんだぞ」


 二人は右と左に十メートルほど離れてから駆け走る。


「あ~遅刻遅刻~(棒)」

「遅刻します~(棒)」


 二人は俺に近づくと地面に足跡が残るくらい強く地を踏みしめ加速する。

 まずい、二人の動きが早すぎて同時には目で追いきれない!

 よく考えたらこいつら両方スピード系だ!


「遅刻ぅ~死ねぇぇぇっ!!」


 オリオンが地を滑るような動きで肘をつきだして突貫してくる。俺はそれを黒鉄の鞘で受け止める。


「ちぃっ!」

「甘いんだよ! お前の癖は次に殴るところを先に視線で追っているところだ! 銀河はどこだ!」


 左から迫って来てたはずの銀河の姿がない。


「上か!」


 頭上を見上げると跳躍した銀河が空から降ってきて俺の顔を太股で挟み込むと、何がおこったかわからないまま天地が逆転する。あまりにも見事なフランケンシュタイナーが決まり、俺の脳天は地面に打ち付けられた。

 G-13とドンフライが10点のプレートを掲げる。


「も、申し訳ありませんお館様! つい」


 俺は地面に突き刺さった頭をずぼっと引き抜く。


「お前はついでフランケンシュタイナーを仕掛けてしまうアホの子なのか」

「も、申し訳ありません」


 元から俺もそんなテンプレお前らにできると思ってなかった。

 もしも俺のチャリオットがテンプレ的美少女学園アニメだったらをやってみたが、結論主人公を殺そうとするという残念な結果が出てしまった。

 これでは美少女物はつとまらない。


 学園に入る前からすでに騒がしい俺たちの前に、マンマルコの乗った馬車が到着する。


「あっ咲さン、こんにち……なんでそんな土まみれなンですか?」

「テンプレの難しさって奴を体感していた」

「は、はぁ?」

「オリオンさんとこちらはどなたなンですか?」

「あぁ銀河っていう、俺の世話係にくどれいとニワトリとロボットだ」


 完全に見たままの説明をする。


「誰がニワトリであるか! いいかぁ、年金制度というものがなぜあるか今から教えてやるである」

「崩壊しかかって問題になってんだろうが!」


 バサバサくっついてくるドンフライを引きはがす。


「こ、個性豊かですね」

「変な奴なだけだ。それよりアリスは?」

「姉ちゃンは勝負下着の仕立て屋が遅れ……じゃなくて、諸事情で後日来ます」

「そ、そうか」


 俺たちが学園内に入ると学生たちはこちらに視線を向けながらも、マルコがいるおかげか不審に思われている様子はない。

 オリオンと銀河も制服を着せているし、見た目的にはそこまで違和感はないのかもしれないな。


[キュラキュラキュラキュラ]

「コケコケコケ」


 前言撤回。ロボットとニワトリ連れて違和感がないわけがない。

 しかしこれと言って奇異の目で見られている様子はない。


「意外だな。これだけ変な奴そろえてきたから、もっと不審がられるかと思ったんだが」

「このガルディア学園は頻繁に冒険者の先生をお招きしているンで、外部の方には慣れています」

「ほー、こう言っちゃなんだが金持ちの学校って感じだな」

「そうでもないンですよ。学費がかかるのは確かですが、地方から冒険者を夢見て入学してくる子もいますし」

「でも、こんなところで遊んでて冒険者になれるの?」


 オリオンの意見はもっともだった。どうにもこの学園、魔法使いっぽいのは多数見られるが戦士のような筋肉質な人間が見られない。

 その魔法使いも優雅に紅茶を飲んでいたりと、勉強や訓練をしている様子はない。

 これが普通の学園なら理解できるのだが……。


「戦士科はあまり人気が無くて、魔法科や神官科が人気で……」

「なんで戦士人気無いの? 難しい魔法とか覚えなくても剣さえあればできるよ?」


 オリオンは心底不思議だと首を傾げる。

 確かに戦士は冒険者として一番ハードルが低いはずだが。


「や、やっぱり戦士さンって一番前じゃないですか」

「あぁ、やっぱモンスターに殴られるのが怖いのか?」


 でも、そんなんじゃ冒険者は務まらないぞと言いかけるがマルコは否定する。


「いえ、違うンです。戦士さンって大体先頭を歩くのでパーティーのリーダーだと思うンですよ。皆リーダーをやりたがらなくて……自分の判断ミスで危機に陥りたくないンですよ」

「なんだそれは、つまり判断ミスで誰かが死んだ責任を負いたくないと」

「若いもんは己が生死さえ他人にゆだねてしまうとは、なんとも嘆かわしいであーる」


 俺もドンフライの言うことに賛成だ。つまり、リーダーがミスって自分が死んでしまっても文句はないということだろう。冒険者の意識的には致命的だ。

 まとめ役は必要だろうが、全員がひよこのようについていくだけではリーダーが死んだ時、間違いなく全滅する。


「咲さン。戦士はどこも足りてないので引っ張りだこでモテますよ」

「なに、それはいい話だ。女子生徒にモテモテになろう」


 そう言うと、いつもジトっとした視線を向けてくるオリオンの姿が見えない。


「あれ、あいつどこ行った?」

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