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邪教の館Ⅳ

 死体だらけの場所に不釣り合いなガチャマシーンは、俺の知っているものと少し違い筐体は真っ黒で中にどんなカプセルが入っているか覗き見ることはできない。


「どうすんのこれ?」

「…………回したくねぇ」


 このまま放置して帰るか? と思いながらも近づくと、真っ黒いカプセルケースにボヤッと文字が浮かび上がる。


[期間限定魔人型モンスターガチャ]


「字面だけだとすげぇバカっぽいんだけどな」

「なんて書いてあんの?」

「期間限定魔人型モンスターガチャって」


 この期間限定ってなんなんだ。それで射幸心をえているつもりなのだろうか。こんな死体だらけのモンスターハウスに来てガチャ回すサイコパスなんかいねぇよと思うのだが。


「魔人って確かすんごい強いモンスターじゃなかったっけ?」

「前にラインハルトで聞いたことある気がするな」

「でもガチャから出てくるなら仲間になるってことじゃないの?」

「いや、俺は召喚石を使ってないから、このガチャマシンは無対価で出てきてる。ガチャで召喚される戦士は召喚石を使って契約が行われるから、この場合俺との契約は行われていない」


 ただし、召喚石のかわりとなるものを捧げられてたら知らん。

 というか状況を見るに生贄の魂が捧げられ召喚準備は完了していたが、ガチャを回す人間がいなくて召喚待機状態になっていた可能性が高い。


「そうなの? あたし回していい?」

「あっ、コラそんな簡単に回すんじゃ」


 オリオンがレバーに手をかけるがレバーはびくともしない。


「ん……なにこれ、回んないよ?」

「なんだそれ、お前回す方向間違ってるんじゃないか? 時計回りだぞ」


 ちょっとかわれと俺がかわってレバーを回すとガリガリと普通に回る。


「ほら、回るじゃんか」

「あれ? 時計回りって右回し? 左回し? わかんなくなってきた」


 ほんとにお前はバカだなと笑っていると、景品口からコローンと音をたててカプセルが排出される。


「しまった、回しちまったバカは俺だーーー!」

「なにこれ、真っ黒いね」


 オリオンが真っ黒のカプセルを拾い上げる。

 通常のガチャカプセルは白、緑、銀、金、虹とレアリティによって色分けされており、黒に該当するレアリティは存在しない。


「はい、これ咲のだから」


 オリオンにカプセルを手渡される。


「あけたくねーーー!」


 この色の黒さは総司をガチャで引いた時を思い出す。あいつも確かこれくらい黒かった気がする。


「ほら、どうせ開けるんだからはよはよ」

「やばいもんが出てきたら即逃げるからな」


 意を決してカプセルを開くと、予想通り人間は登場せず中から数えるのもバカらしくなるくらいのコウモリが空を舞う。


「うわ、なんじゃこりゃ!?」

「コウモリ、コウモリ! バット! バットマン!」

「バットマンは関係ねぇ!」


 二人でバカなことを言っていると、目の前にコウモリが集まり闇色の球体を作り出す。

 やがてその闇色の球体は人型を形作っていく。

 青っぽい肌をした女の悪魔で、頭部に二本の角、凄まじく色気のあるボディをボンテージのような衣装がきつくしめあげ、腰からコウモリのような羽が生えている。

 金色の瞳に本来白いはずの白目が真っ黒になっており、少しだけ黒川のサキュバスに似てるなと思ったが、プレッシャーは比較にならない。


「なにあれ……」

「魔人ガチャって書いてあったから魔人だろ。見た目完全にウェハースチョコに出てくる悪魔将軍だが」

「なにそれ……美味しいの?」

「あぁ……チョコは美味い」


 無駄にシリアスな雰囲気を出しているが話している内容はウェハースの話である。

 魔人と言うやばそうな奴を目の前にして一体何の話をしているのか。

 問題はこいつが敵か味方かである。

 ガチャから出てきたということはオリオンの言うように仲間である可能性が微レ存ではあるが、見た目完全に魔王軍の幹部である。


「えーっと、こんばんはでいいのかな?」


 なんとか接触を試みてみるが、魔人は二度三度首をかしげると、不意にオリオンに向けて手をかざす。


「アレ何やってんの?」

「さぁ、こっち来いって言ってるわけでもなさそうだが」


 ただ、なんとなく嫌な感じはする。

 俺たちは魔人がやっている行為の意味がわからず、しばらく眺めていると魔人の手に何か赤い肉塊のようなものが現れる。それと同時にオリオンの胸から、血のように赤い糸がその肉塊とつながっている。


「咲、これ何? 運命の赤い糸的な?」

「んーなんだろうなあの肉。ビクビク動いてるようにも見え…………!!」


 俺は奴が手に持っているものの意味に気づき、即座に黒鉄を引き抜いてその赤い線を断ち切る。


「えっ、どしたの?」

「オリオン動け、止まるな! さっき奴が握っていたのはお前の心臓だ!」

「はっ!?」

「原理は知らねぇが、あいつは外からでもこっちの心臓を引きずり出して握りつぶせる!」


 俺の言葉を聞いて、オリオンは即座に地下室を駆けまわる。

 意図に気づかれた魔人は、ニヤリと笑みを浮かべると一瞬で俺の目の前に移動してくる。


「なっ!? 早いとかそういう次元の話じゃねぇ!」

「咲、しゃがめ!」


 言われた通り俺はしゃがむと、俺の頭の上をオリオンの光の剣が過ぎ去る。

 魔人は跳びあがって剣をかわすと一瞬で背後に回り込む。


「ちょっとぉ、あの獣人たちどうしたらいいのよ」

「モォー」


 その時最悪のタイミングでフレイアとシロ、クロが地下室に下りてくる。


「やばい逃げろ!」

「はっ?」


 魔人はターゲットをかえてフレイアに迫る。だが、シロとクロが立ちふさがりバトルアックスを交差させて魔人を受け止める。


「嘘だろ……」


 しかし、あれほどの怪力を誇っていたシロとクロの力を魔人は一人で圧倒していく。


「モォ……」

「やばい腕が折られる!」


 ホルスタウロス二頭でパワー負けしている。

 俺は一気に跳んで魔人を後ろから斬りかかる。

 背中を袈裟切りにすると、青い血が飛び散り口の中に入る。


「ギィィィィィッ!!」


 さすがに今のは痛かったのか低い声で叫び声をあげ、シロとクロを力任せにオリオン達に向けて分投げ動きを封じると、俺の目の前に瞬間移動し拳の滅多打ちを放つ。


「攻撃が……早すぎて見えねぇ」


 圧倒的スペック。ただただ単純に強い。力も速さも。恐らく芳美がこいつほどのスペックを持っていたら、現実世界での結末はかわっていたと思えるほどの強さだ。


「ふざけんじゃないわよ。好き放題しくさって!」


 フレイアは拳を胸の前に構え、炎を纏わせる。

 彼女の所持している火の結晶石が輝き、増幅器ブースターの役割をはたす。


「ファイアーバード、行きなさい!」


 フレイアの腕から炎の翼をもつ、鳥のような魔法が放たれる。

 ファイアーバードは翼をはためかせると、魔人へと直撃し、地下が大爆発を起こす。


「まずい崩れる!」


 俺はシロとクロを担ぎ、オリオンはフレイアを担いで、急いで屋敷の外へと飛び出る。

 直後、地盤が崩れ屋敷が音をたてて崩壊していく。


「とりあえず……皆生きてるな?」

「おー」

「「モォー」」

「生きてるわよ」

「フレイアさん、少々やりすぎなんじゃないでしょうか」

「ちょっと火加減間違っただけでしょ。倒せたんだからいいじゃない」


 フンっとそっぽを向くフレイア。

 あいつ多分腹の呪いが進行するから後でスペルリリースでおさえないとな。

 そう思っていると、崩れた屋敷を突き破ってコウモリのような羽をたなびかせた魔人が、星空の下俺たちを見下ろしている。


「無傷……」

「嘘でしょ」

「こいつチャリオット全員でかかっても倒せるか怪しいぞ……」


 魔人はフンとこちらを一瞥すると、闇の中へと消えていった。


「見逃された……か?」

「多分」


 一気に気が抜け、俺たちはその場にへたり込んだ。


「超こえーーー、二度と戦いたくねーっ!!」

「依頼達成したんだから帰りましょ、あいつ戻ってきたら嫌だし」


 フレイアの言うことに大きく賛同し、俺たちは衰弱した獣人たちを連れてラインハルト城下町へと帰還した。




エピローグ


 後日、俺達はギルドから五等級の火の魔法石と六等級の水の魔法石を受け取ると、屋敷でおきたことをレポートにして提出することを命じられたので、ありのまま家主がサイコパスだったことと、地下室での拷問、邪教アモンの目の存在、生贄にされかけていた獣人族を助けたことを細かに書き、最後にガチャから出てきたことはふせたが、恐らく魔人と思われるモンスターに遭遇したことを書き加える。

 そのレポートを見たギルドは蜂の巣を突いたかの如く大騒ぎになり、更に数日後ラインハルト城に事情聴取を行われるまでの大騒ぎとなった。


 そして今日も城で同じことを何回も何回も聞かれて疲れた俺がギルドに戻ると、オリオンとフレイアが蜂蜜酒を片手に待っていた。


「お疲れ」

「疲れた。城には何回も呼び出されるし、ディーの奴超怒るし」

「魔人と戦った!? 何言ってるんですか!? 魔人は国家レベルで警報がだされたり、たった一体で戦争扱いになる災厄クラスのモンスターですよ! って超驚いてたわね」

「そんなこと言われたってガチャから出て来たんだから知るかよ」

「そのことラインハルトに報告したの?」

「ラインハルト王には言った」

「どうだった?」

「頭抱えてた」

「やっぱり」

「ただ別にガチャ自体は回しても回さなくても結局は出て来たらしいから、俺はあんま関係ないみたいだったけどな。しばらくラインハルト城は警戒態勢でいるそうだ」


 まぁ何が出てくるか決めたのは俺だそうだが。


「ウチにも魔人出現警告の手紙来てたよ」

「思った以上にやばい奴だったみたいだな」

「そういえば助けたアリスやマルコが、お礼したいから家にきてくれって言ってたわよ」

「知ってる。でも行くのはしばらく後にしよう」

「それよりいい話しようよ、さっきペイルライダーの討伐報酬でたよ」

「なぬ、いくらだった」

「個体が大きかったみたいだから400万出たって」

「そりゃいい話だ。ディーさんの機嫌を直す材料にしよう」

「その前に飲もうよ」

「そうだな」


 俺も何か注文しようかと思ったが、何やらギルドの前が騒がしい。


「なんだ?」


 首を傾げていると、いつものぽっちゃりギルド職員がそろりそろりとムーンウォークしながら近づいてくる。


「なんですか、また嫌な話ですか」

「嫌っていうか……嫌な話かな」

「やっぱ嫌な話じゃないですか! 聞きたくないですよ」

「そう言わないでよ。魔人の第一発見者でありながら生き延びた英雄だよ」

「逃がしてもらっただけです」

「魔人の第一発見者で今まで生き残った人って一人もいないんだよ?」

「魔人のいるところにまさかぶち込まれると思ってなかったので」

「ハッハッハッそのことは水に流そうじゃないか」

「まったく都合のいい。それで、なんなんですか?」

「一応君にも関係あるんだけど、君が助けたたくさんの獣人族、医療期間が過ぎて病院から外に出されたんだよ。でも彼ら元々奴隷として売りに出されてたわけでね、元から帰るところがなくてギルドに詰め寄って来てるんだ。仕事と住めるところを紹介するか、自分たちを買ってくれる主人をくださいって」

「あれ結局何人いたんですか?」

「212人」

「うわ、結構いたな」

「それでここからが相談なんだけど」

「やだぞ、ウチは引き取らないぞ。確かこういうモンスター等の被害にあった人たちは管轄の中立城とギルドが面倒見ることになってるって聞いたぞ」

「それがねぇ、やっぱり数が多すぎると、もう難民扱いになっちゃってさ。そうなると放り出されちゃうんだよね」

「助けてなんだが、もうその辺は自分達で解決してもらうしかないだろ。なんで助けたんだとか逆ギレされても知らん」


 俺はギルドの中にまで入って来た獣人族を見やる。

 デミが多く、ぱっと見は人間とさしてかわらないが、頭の猫耳や爪の長さなどが違う。

 リリィと同じ種族の猫族ミューキャットがメインのようだ。

 どの子も怪我をしており無傷な者は一人もいないと言っていい。

 幼いケモミミ少女から、元は美しかったであろうが今はやせ細ってしまった女性の獣人も多い。


「獣人って言っても尻尾と耳くらいであんま人間とかわんないんだな……」


 しかし……それにしてもメスが多い。

 なんだこれ、ほぼ全員メスじゃないか。


「あれ、助けた中にオスっていなかったっけ?」

「全員メスだね。生き残った人たちに話を聞いたら、男の獣人は優先的に殺されたらしい」

「あーそっか、あのペイルライダー男の人狼に尋常じゃないくらい恨みもってたんだった」

「ねぇ咲、可哀想だよ。ウチ連れてったら?」

「そんな捨て犬拾ってくるみたいに、200人超える獣人族連れて帰って見ろ。今度こそディーさんキレて殴りかかって来るかもしれん」


 多分助走つけてジャンプしながら殴りかかって来ると思う。

 絡まれませんようにと思っていると猫族の少女がトテトテとこちらにやって来る。右目を怪我しているらしく、少女の頭は包帯で巻かれている。

 これは多分俺を王として、領地に入れてくれないかという交渉をしにきたのだろう。

 しかしそれをこんな小さな少女にやらせるのはいかがなものか。

 きっと同情を誘ってくる作戦で……。


「お兄ちゃん、助けてくれてありがとぉにゃ」


 猫族の少女はお礼だけをすると、傷だらけの顔を笑顔にして獣人族の群れに戻って行った。


「…………………………」


 いや、既に病院に見舞いに行ったとき皆からお礼はされてるんですよ……。

 こう、なんというかさ、あるだろ、この胸のモヤモヤ。

 事件は解決したのに、困ってる人がいっぱい残った、このすっきりしない感じ。




「…………王よ、一応聞きますがこの大量の獣人族はどうなされたのですか?」

「……領民になりました」

「お、怒らないでディー、咲は」

「オリオンあなたは黙っていて下さい」


 獣人族を大量に連れて帰って来た俺を見て、ディーは深いため息をついた。


「理由をお聞きします」

「住むところがなくて、怪我もしているのに支援も受けられなくて、可哀想なので連れて帰って……きました」

「…………」


 素直に答えたが、ディーは腕組みしたまま険しい顔で立っている。いい加減ディーさん辞表とか出してくるんじゃないかと思い冷や冷やしていると、ほんの少しだけ頬が和らぐ。


「いいでしょう。メスだけというのが少し気になりますが、話はフレイアから先に聞いています」

「じゃあ」

「はい、元は私もこうやって受け入れられたのです。あなたがそういった方を見捨てておけない人だとはわかっています」

「姉さん、仮宿はできやしたぜ」


 カチャノフが木材を担ぎながら姿を現す。


「個人宅ができるまではしばらく大部屋に寝てもらうことになりますが、それでも構いませんね」


 ディーがそう言うと獣人族たちの顔が笑顔になった。


「いやーほんと良かった良かった、めでたしめでたし」

「それとは別に王よ、私は執務を放り出してギルドの依頼を受けに行ったことは許していませんからね」

「…………すんません」


 ちなみにペイルライダーの報酬は獣人族の衣類、住まいの建設費に消えた。




 邪教の館編                      了 

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