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邪教の館Ⅰ

 その言葉を聞いた冒険者が、どれ話だけでも聞いてみるかと立ち上がろうとするが、次の少年の言葉で上がりかけた腰は再び落ちる。


「ペイルライダーが出たンです!」


「咲、ペイルライダーって何?」

「ちょっと待て」


 俺はスマホを開いてギルド指名手配ハンティングブックからペイルライダーを検索する。


「ペイルライダー、甲冑を纏ったゴースト種であり、青い炎のような馬に騎乗しているのが特徴で、厄介な呪い等を仕掛けてきた実績はないが、ステータスが高く、ギルドではSRクラスの冒険者四人でも壊滅させられる事案を確認している危険なモンスター。凄まじい突進力は重戦車を思わせる為、一部ではブルーフレイムチャリオットなどと呼ばれている。現在ペイルライダー種には一律として懸賞金200万ベスタが賭けられ個体によってはそれ以上の支払いも検討されている」

「200万って凄いじゃん」


「僕ちゃん本当にペイルライダーがでたのかい?」


 びびってしまう冒険者が大半の中、腹に傷のある筋肉質な女戦士が立ち上がり声をかける。


「はい、甲冑を身にまとった青い炎を放つ馬でした!」

「ペイルライダーには懸賞金がかかってるよね?」


 女戦士が問うと、ギルド員は懸賞金が書かれたペイルライダーの手配書を用意する。


「200万ベスタね。それに、この子から依頼金をたんまりもらえば、しばらくは遊んで暮らせるじゃない。ゴリアテ行くよ!」

「へい」


 バイキングヘルムを被った大男が、女戦士に連れられて外へと出る。

 依頼者の制服姿の少年も一緒に外へと出る。


「咲、200万だって」

「やめとけ、100万超えてるモンスターは異次元クラスで強い。そしてそれの倍額となるとシャレにならんくらい強い」


 俺が虎穴に入るのはいいが、虎穴で死んではやっぱり意味がないと話していると、ギルドのふとっちょ職員が首を傾げながらこちらに近づいてくる。


「おかしいね」

「どうかしたんですか?」

「ペイルライダーくらい強力なモンスターなら、普通すぐに城が気づいて警告の報せを出すはずなんだよ」

「最近すみついたんじゃないですか?」

「猛獣系ならそれもあるんだけど、ゴースト系はふらっと居つくようなものじゃなくて、徐々に力を大きくしていくタイプが多いんだ。ただ、今回依頼した場所には別にそう言った悪魔がよってきそうな、悪い話があったわけでもないんだよね」

「ふむ」

「そこで梶王相談があるんだけど」

「やだぞ」

「まだ何も言ってないじゃないか」

「絶対見て来いって言うんだろ」

「まぁ端的に言うとそうなんだけど、実はさっき助けを求めてきた男の子いるでしょ」

「あのピザ体型の」

「あの子実はロメロ侯爵っていう凄く偉い人のご子息でマン・マルコ君って言うんだ」

「すげぇ名前してんな」

「ギルドに死なないように警護をつけてくれって依頼がきてたんだよね。でも、そのことうっかり忘れててアレン君を斡旋しちゃったんだ」

「完全にそっちの不始末じゃねぇか!」

「そうなんだよね。ロメロ侯爵は冒険者や王を応援してくれる、数少ない有力貴族でさ、冒険者の不手際で息子が死んじゃったら敵に回っちゃうかもしれないんだ」

「いや、冒険者の不手際というよりギルドのずさんな管理体制が問題だと思うんだが」

「だから、お願い! 彼お姉さんのアリスさんとパーティー組んでたみたいだから、彼らを助けてあげてほしい」


 完全に貧乏くじな気がする。

 しかし、ギルドに貸しを作るのもありなのか? と思っているとオリオンが口を開く。


「報酬は? 結局あたしらその辺で動くから。それに依頼自体はあの間抜けアレンが受けたから、あたしらにはお金入らないじゃん。そうなるとペイルライダー倒して懸賞金貰う以外ないよね?」

「お前……意外ともの考えてたんだな」


 俺が感心すると、オリオンはガルルルルルと噛みついてくる。どうやらバカにしていることがバレたようだ。


「それなら五等級の火の魔法石でどうだい?」

「五等級魔法石か、村や小さな町くらいなら補えるくらいの魔力がある石だな」


 水や火の魔法石は非常に有用で、魔力が尽きるまで火や水を供給してくれるエネルギー資源だ。領土が拡大すればするほどこのエネルギー問題にぶちあたるとディーが言っていた。


「今ならこの六等級水の魔法石もつけよう」

「六等級は微妙だが、両方合わせれば60万ベスタくらいはするな」


 それならディーへの言い訳もたつかな? と考える。


「ケチなギルドがポンッとそんだけ出すってことは相当切羽つまってんじゃない?」


 フレイアが核心をつき、職員は汗だくになる。

 あ、こりゃロメロって人相当怖い人だな。


「か、彼らを生かして返せば、ロメロ侯爵にコネもできるだろう。むしろこっちの方が大きいと思うよ」

「有力貴族に名前が売れるわけか。よし、いいだろ。引き受けよう」


 俺たちは立ち上がり準備を始める。


「フレイアも行くか?」

「行くわ。楽器を修理するのに結構お金かかったし」


 よし、じゃあ一緒に行くかと俺、オリオン、フレイア、シロクロの五人だと気づく。

 大規模ギルドの依頼独占を防ぐために、緊急依頼や特別危険指定モンスター討伐以外の通常ギルドの依頼は四人でフルパーティーであり、五人で依頼を行うことはできない。


「おじさん、モンスターってギルド的にどういう扱いなの?」

「モンスターを連れていくのかい? ん~モンスター使いっていう職はあるから、多分モンスターは武器扱いだと思うよ。別の国ならちゃんとモンスターの登録とかしなきゃいけないだろうけど、モンスター使いの存在自体が稀有だからね」

「よし、ならシロとクロはノーカンだから問題なしだ」



「絶対アリスさんとマルコ君だけは死なせないでね!」


 ギルドの外に出ると、必死な表情で職員は声を上げている。


「あの言い方聞くと、逆にそれ以外の奴らはどうなってもいいって感じだよね」

「ロメロって貴族が相当の権力者なんだろうな」

「先に行った強そうな女戦士に任せとけばいいんじゃないの? ゴーストくらい素手で殴り殺せそうじゃない」

「あいつらの目的はペイルライダーを倒すことだからな。捕まった冒険者たちの素性については知らないから、いざやばくなったら尻尾巻いて逃げ出すだろ」


 俺たちはギルドが用意してくれた馬車に乗り、依頼された廃屋敷へと向かった。



 かなりのスピードでやってきたが、到着したのは1時間ほどの時間が経っていた。

 完全に日は落ち、辺りは薄暗さと周囲には教会以外何もないところから不気味な雰囲気が漂っている。

 野犬の遠吠えが近くで聞こえて、嫌な空気だった。


「結構遠かったよね」

「あのふとっちょが助けを求めに片道1時間でやってきたとして、既に2時間以上が経ってるわけか」

「ゴブリンなら手遅れね」


 ゴブリンにさらわれたことのあるフレイアは冷静に状況を述べる。

 俺たちは豪華な装飾のされた扉を開き、洋館の中へと入る。

 洋館は人がいなくなってまだそんなに経っていないのか、ほこりはあるが蜘蛛の巣などは張っておらず、備品も綺麗なままだ。

 エントランスには真っ赤な絨毯が敷かれ、目の前には二階に続く大階段、真正面には女性の肖像画が飾られている。


「ここの嫁か、娘か?」


「ギギギギ……」


 早速ゴブリンの声が聞こえて振り返る。だが、そこには何の姿もない。


「気配はするのにいないって時は大体」

「上か下だよね」


 俺たちは上を向くと、赤い目を光らせたゴブリンたちがシャンデリアの上にぶら下がっている。

 小鬼たちはここは俺たちの縄張りだと言わんばかりに、雨のように大量のゴブリンが降り注ぐ。

 俺は即座に黒鉄を引き抜いて構える、が


「モォッ!!」


 シロとクロが手にしたバトルアックスを扇風機の如く振り回すと、ゴブリンたちは次々にミンチにされていく。


「うわ、すげぇ……」


 なにが凄いかと言うと、シロとクロには一切の手心というものがなく、動くものは全て叩き潰し殲滅していく。

 クロがアックスを振り下ろすと、一瞬だが屋敷が揺れた。

 あぁ、こら人間なんか余裕で殴り殺されるわと理解した。

 さすがはメスでもミノタウロス種である。完全なパワーファイターだ。

 戦士四人のキャスター一人とファイアーフォーメーションパーティーで来てしまったから、まずいかなと思ったが、火力は強さだとよくわかる。


「エントランスはシロとクロで十分だな。オリオン、俺たちは一階の部屋を探そう。フレイアは二階を」

「オッケー」

「えっ、アタシ一人?」

「ゴブリンくらい飛び出してきても大丈夫だろ?」

「ま、まぁそうなんだけど、この屋敷暗いし不気味だから---」

「そんじゃ何か見つかったら教えてくれ」

「えっ、ちょっちょ……もぉ!」


 俺とオリオンは一階にある部屋をしらみつぶしに探していくが、アリスやアランの姿は見つからない。


「ゴブリンはそこそこ残ってるから、そんなに遠くには行ってないと思うんだが」

「スキル使ったんじゃない? ゴブリンとか低レベルモンスターには見えなくなるやつあるでしょ?」

「シャドウスキンな。俺もあれほしいんだけどな、確かあれSレアスキルなんだよ」

「そういや咲この前スキルガチャ回してたよね? なんか出た?」

「家事スキルと流し目がうまくなる謎のスキルを手に入れた」

「なにそれゴミじゃん。ゴミ野郎」

「俺をゴミみたいに言うな」


 俺たちは1階奥にある、家主の寝室らしき部屋へと入った。

 そこには大きなダブルベッドとドレッサー、壁には家族の肖像画がかけられていた。

 肖像画にはちょび髭の父親と、少し目つきの鋭い母親、エントランスに飾られていた女の子が描かれている。


「家族は三人だったのか」


 俺はドレッサーの上に置かれた日記のようなものを見つける。

 どうやらこれは夫人が書いたもののようだった。

 娘の11歳の誕生日から書き始めたらしく、日付は飛び飛びであったが、当時の様子が細かに書かれている。


「なんか書いてあった?」

「んー……わりかし幸せな家庭だったみたいだけどな」


 特に怪我や病気もなく。近年まではごくごくありふれた貴族の幸せな生活をしていたようだ。

 だが、一昨年の夏辺りで内容が急変する。

 娘が人狼ワーウルフにさらわれ行方がわからなくなったと記されている。

 夫はギルドや有力貴族、自警団、傭兵、様々なところに依頼を出し娘の帰りを待つ日々が続いたようだ。

 それから半年後、娘は自分自身の足で帰宅を果たした。

 彼女の手には数匹のワーウルフの赤ん坊が抱かれていたらしい。


 人狼は人間とも交配する為、娘は人狼の母親にされていたのだ。

 娘は母性に目覚め、これが自分の赤ちゃんなのだと狼の子供を見せた。

 夫人はショックで倒れ、もともと名門貴族だった夫は激怒し、モンスターに孕まされた娘がいるなんて知られたら、もう表を歩けない! と怒鳴り、娘の産んだワーウルフをその場で皆殺しにしたのだった。

 夫はそれから娘を、誰の目にも触れない地下へと監禁した。

 しかしその数日後、娘は地下室で割れた瓶を喉に突き刺し自殺していた。

 夫人は夫に監禁はやりすぎだったと口論になり、以後喧嘩が絶えなくなってしまう。

 話のやりとりの中で、夫は[死んだあの娘は自分たちの娘ではなかった。本当の娘は既に人狼に喰い殺されている]と現実逃避することを何度となく口走っていたようだ。

 夫人も心を病んでいるようで、日記の内容もかなり攻撃的になっている。

 娘の死から夫は獣人族に強い憎しみを持つようになり、商人から獣人の奴隷を仕入れては地下室に連れて行っているが、帰って来たものは誰もいないと不気味な内容が書かれてる。


「リアルサイコパスじゃねぇか……」


 それから少しあって、屋敷に宗教関係の人間が訪れたという。

 その宗教徒は自身をアモンの目と名乗ったそうだ。

 アモンの目は心の弱った夫婦に近づき、娘を生き返らせる方法があると言葉巧みに操り、多額の寄付を行わせた。

 そして夫婦はアモンの目へと入信すると熱心な教徒となり、死者蘇生を願いながら人を捕まえては殺し、アモンへの供物にしたことが書かれている。

 もちろんその中で一番殺されているのは、やはり獣人のようだった。

 最後の方は夫人もかなり壊れており、娘が生き返ったかのような文が綴られていたり、早く娘を返してと怒り狂うような文が交互に並んでいて、心を病んでいたことがわかる。


「これ……やべぇな」


 日記は半年ほど前で切れており、この夫婦が今どうなっているのかわからない。


「あのギルド職員め、なにが悪魔はよりつきそうな話はないだよ。ばりばりあるじゃねぇか」

「そんでどうだったの?」

「娘が自殺して家主がサイコパスになったってことと、入りたくない地下室があるってことがわかった」

「なにそれ怖い」

「精神を病んだ人間はモンスターなんかよりよっぽど怖ぇ。気をつけろ、かなり強い怨念があるぞ」

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