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帰って来た朝Ⅰ

 聖十字騎士団、総本山モンサンロード


 美しい女神像とステンドグラス、荘厳な空気の漂う巨大な教会の中で肥え太った神父が聖ミネア像を下から眺めていた。

 この男こそが聖十字騎士団大教皇レッドラムである。

 信仰心の欠片もないが、信徒の前に出るのは彼の重要な仕事であった。

 彼は葉巻を口にくわえると、吹き出した煙をミネア像に吹きかける。

 罰当たりな行為であるが、彼を注意できる人物は教会の中には一人としていない。

 懐から蒸留酒の瓶を取り出すと、そこに修道衣に身を包んだ長髪の青年がやってくる。


「教皇様、信者より天使の準備が全て整ったと」

「……ふむ、ようやくか。これで騎士などという古臭い制度は終わり、全ての人間が教会にひれ伏す。そうなればクククク」

「もう一つ騎士団たちが反旗を翻そうとしていると諜報部より報告が上がっています」

「予定通りだ、構わん、そのまま泳がせろ。領民の信者化はどの程度進んでいる?」

「ローエンベルク、リドラ、ゼスティンの三都市で約58%です。ゼスティンは騎士団の古巣とあって他都市と比べると格段に低いです」

「椿は?」

「あちらはそもそも別の神を信仰していました。それを急にかえよというのは無理があります」

「生ぬるいことをするな、奴らの信仰する像を全て破壊しろ」

「そこまですると椿で反乱が起きませんか?」

「力のない椿など反乱したところで恐れるに足らん。むしろその方が好都合だ」

「……かしこまりました」

「騎士団が襲ってきたところで捕えよ。そして姫、及び親衛隊騎士団を全て解体する。並びに姫に加担するものは全て反徒と見なせ」

「親衛隊と姫たちの持つセラフは強力ですよ」

「必要ない。アークエンジェルの量産化ができる以上、個の強さなどもはや重要ではない。ドロテアと赤月に怯える必要もないわ」

「姫たちの処遇はいかがなさいますか?」

「全員奴隷送りだ。騎士団長は全員ペットにしてやる。コロシアムの建造を急がせろ。騎士団同士の殺し合いは金がとれるぞ」


 レッドラムは金の匂いに心躍らせるのだった。



 ちゅんちゅんと小鳥の囀る声と、日の光によってまどろんだ意識が徐々に覚醒していく。

 俺は寝返りをうつと、ベッドから落ちて硬い石畳に頭を打ちつけもんどりうつ。


「いってぇぇぇぇっ!」


 くそ、ふざけんなよ、なんでフローリングじゃなくて石畳なんだよ。

 危うく頭かち割れるところだったじゃないか。

 たんこぶになった頭をさすりながら周囲を見渡す。

 窓ガラスがなくカーテンしかない吹き抜けの窓。

 相変わらずボロい内装だが、ベッドだけは新調されダブルベッドになっている。

 これで落ちなくてすむと思ったのだが、どうやら相棒に蹴り飛ばされて落ちたらしい。

 当の本人はロールケーキみたいに布団にくるまって寝息をたてている。

 いつものことなのだが、そのいつもの光景に戻れたことが嬉しい。


「帰って……来たんだな」

「ぐががが、もう食べれない」

「…………」


 ベッタベタ寝言ほざきやがって。

 俺はオリオンを起こしてやろうとケツを持ち上げて、木を薄く切って柔軟性を持たせた寺の和尚が肩パーンするときに使うあれで、思いっきりオリオンのケツを叩くと、パーンと快音が響き渡った。


「いっだぁっ!!」

「グンモーニン」

「何がグンモーニンだよ! 普通に起こせよ! アホなのかお前は!?」

「いや、なんか幸せそうに寝てるの見たら腹立ってきて……」

「お前は幸せそうに寝てる奴がいたらケツパーンして回るのか!?」

「いや、お前は特別腹立ったから」

「くっそ、咲のバカおたんこなす。やっと帰って来たと思ったらケツパーンしやがって」

「おい、コラ寝るな。何しれっと二度寝してるんだ」

「昨日バカ騒ぎしたからまだ眠い。寝かせて。昼過ぎには多分起きる」

「おいバカ、それは大体夕方まで起きんやつだぞ」

「起きる起き……ぐー」

「のび太みたいな奴め」


 仕方ないとオリオンを放置して、久しぶりの朝の仕事に入る。


「さて、とりあえずやることいっぱいあるけど、まず最初は」


 俺は城の一角を改造して作られた牛舎へと入る。

 そこにはホルスタウロスたちが伸びをしていたり、まだ寝ていたりとくつろいでいる。


「あれ……なんか数増えてる気がするな……」


 1,2,3,4と指折り数を数えている最中、ホルスタウロスの一頭がこちらに気づき、凄まじい勢いで体当たりをしてくる。

 そしてそれに気づいた他のホルスタウロスたちが殺到してくる。


「おいバカやめろ、お前らのショルダータックルはわりかしシャレにならん威力が---」


 そんなこと知った事かと、次々に体当たりしてくる。


「モォーモォー」

「おぉ、しばらく留守にして悪かったな」

「モー」


 ホルスタウロスの搾乳を終え、朝食分の大量のミルクバケツを持って厨房へと入る。

 そこにはエプロン姿のクロエが甘い匂いを漂わせてパンを焼いていた。


「あぁ~いい匂いだ。このパンだけは異世界の圧勝だと思う」

「あら王様、おはようございます」

「おはよう」


 彼女が朝の光を浴びながら料理をする姿は母を思い起こさせる。

 いや、多分俺の母ちゃんこんな美人じゃないと思うけど。

 俺はなんの前触れもなくクロエの胸に手を伸ばす。

 その瞬間、誰かが俺の股間が蹴り上げる。


「はうあっ!!?」


 俺はピョンピョンと飛び跳ねながら涙目で後ろを振り返る。


「誰や! これでもワイはこの城の王様なんやでぇ!」


 そこには白い眼をした炎の魔術師ことフレイアさんの姿があった。

 ちなみに彼女はクロエの実の娘である。彼女らはハーフエルフなので見た目と年齢が全く釣り合っておらず、クロエとフレイアは姉妹にしか見えない。


「…………」

「朝から楽しそうね、王様ぁ」

「……ちゃ……ちゃうんやでぇ」

「何その喋り方」


 そりゃお母ちゃんのおっぱい揉まれかかってるの見たら娘としては殺すだろう。俺が逆の立場なら多分殺すもんな。


「なんや、お前も揉まれたかったんか、ええんやで、ワイは来るもの拒まずやからな」


 ワキワキとフレイアの胸に手を伸ばす。

 するとボンっと厨房が爆発し、俺は頭をチリチリのアフロにされて吹っ飛ばされた。


「くそ、ひどい目にあった。あいつには冗談というものが通じない」


 どこに愚痴っているのか、城の外に吹き飛ばされると、カチャノフが俺がぶっ壊したスターダストドライバーを修理していた。


「あっ、兄貴、おはようございやす!」

「おはよう。修理してくれてるのか?」

「へい、兄貴すいやせん、ちょっとこれは時間がかかるかもしれやせん。イカれてんのが内部魔術回路みたいでやして。変形機構の刻印が熱ダレで消えかかってると見えやす」

「そうなのか……カチャノフ魔術師じゃないもんな」

「へい、バート商会を通じて腕のいい魔術師に依頼しておきやす」

「すまない、ありがとう」

「いいんでやす。これを見てわかりやした、兄貴別世界でも激しい戦いに巻き込まれてたんだなって」

「それだけが俺の命綱だったからな。持ってて良かったよ」

「あっしのせいで兄貴を別世界に飛ばしちまったわけですから、ほんとなんて詫びればいいのか」

「いいさ、楽しい別世界だったから。それよりカチャノフもう一つ依頼したいものがあるんだが」

「へい、なんでやしょう」

「実は――」


 カチャノフと話していると、酒場フェアリーエンジェルの店主リカールが酒樽を持って城にやってくる。


「あらん、王様お帰りなさい。あらやだ本当に超イケメンじゃない」


 ん~まっと投げキッスをされて、俺は反射的にかわす。


「これは?」

「王様の帰還祝いよ。派手にやってちょうだい」

「昨日も派手にやったところなんだけどな。そうだリカールさん、今晩ウチの城に出張してきてよ、みんなで飲もう」

「あら素敵、女の子にも伝えておくわ」


 そう言ってリカールは酒場に戻っていく。


「よし、俺も他周るよ」

「へい、また後ほど」


 さて次は。


「あっ、王様おはようございます!!」


 いきなりやかましいのはコボルト族のサイモンだった。

 顔の見た目は完全に柴犬なのだが、これでも立派な猟犬の類らしい。

 めちゃくちゃ弱いけど。


「王様見て下さい、僕剣の腕が上達したんですよ!」


 そう言ってサイモンは持っていたリンゴを天高く放り投げ、剣を構える。

 恐らく落ちてきた瞬間リンゴを斬りたいのだろう。

 しかしリンゴはそのまま落ちてきて、ゴロゴロと地面を転がる。

 そしてサイモンは剣を振った。


「いや、遅いよ! 遅すぎるよ! 完全に落ちてるし!」

「おかしいですね」


 サイモンはリンゴを拾い上げると、そのままムシャムシャと食べた。


「食うのかよ!」


 一体何がしたかったのか……。


「王様、城の裏に植えといてくれって言われた木の苗植え終わりましたよ!」

「おっ、そうか見てみよう」


 サイモンと一緒に城の裏に行くと、そこには神ドラゴンから渡された、世界樹だかユグドラシルだか、そんな名前の木の苗が植えられていた。

 これが成長すれば元の世界に帰れるとか言っていたが、はたしてどれぐらい大きくなればいいものか皆目見当もつかない。

 だが、俺は違和感に気づく。


「なぁサイモン、昨日俺が渡した苗、こんなでかかったっけ?」

「いえ、足元くらいしかありませんでした!」

「だよなぁ……」


 俺は木の苗、というよりすでに俺の身長を超え2メートルくいらいに成長したユグドラシルを眺める。


「すげぇスピードででかくなってんな……」


 確か神ドラゴンが人々の幸福度で成長するって言ってたし、恐らくその幸福度ででかくなってるんじゃないかと推測する。


「あっ王様、言い忘れてました! 地下のレイランさんが今日はお寝坊してます。レイランさんから王様に起こしにきてほしいと言ってました!」

「あれ、あの子ら朝は温泉に入って体温上げてるんじゃなかったの?」

「いつもはそうしていますが、今日はなんででしょうね? わかりません!」


 まぁいいか、深く考えず俺は城の地下にある棺が並ぶレイランの寝室へ向かう。

過激表現の修正を行っています。


その為、文が多少おかしくなっているかもしれません。

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