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訪問

「に、二千二百万ベスタ!!!?」


 俺とオリオンはラインハルト城、城下町にあるなじみの鑑定士を訪ねていた。

 タキシードを身にまとい右目にモノクルをつけた、壮年のナイスミドルは、はいとほほ笑みながら頷く。

 カウンター越しの男が嘘をついているのではないかと思い、今回鑑定してもらったゴーレムの心臓と男性を見比べるが、にこにことほほ笑んでいるだけで、全く嘘かどうか見破ることはできない。


「二千二百万ベスタと申しましたが、あくまで買い手が現れた場合の目安ですので」

「咲、これ売ればあたし達遊んで暮らせんじゃないの!?」

「遊んでくらすのは無理だが、城の大幅な補修工事ができるぞ!皆にも良い飯が食わせてやれる」

「お待ちくださいませ」


 はしゃぐ俺とオリオンを見て白髪の鑑定士は注意を口にする。


「わたくしが先ほど言いました通り、あくまで買い手が現れた場合でございます。こちらの水晶はアイオーン文明で使われていた、ドールと呼ばれる兵器の核でございます。核にも小さいものから5等級、4等級、3等級、2等級、1等級と分かれており、こちらの核は3等級に分類される中規模核となっております」

「なんかあんまり凄そうじゃないね」


 オリオンが率直な感想を漏らすが、俺もそう思う。一番大きいのならともかく中規模でこれぐらいの値段がつくとは。


「いえいえ、3等級と言っても、人型を動かすものとしては最大のものです。上に2等級と1等級がございますが、それはどちらも巨大な施設を動かすものや、浮遊大陸として有名なガリア国の核として使われているもの。他には大昔に存在したとされる空を飛んで移動する為の乗り物に使われるものでして、今は失われた技術ばかりですので正直値段のつけようがございません」

「じゃあ値段がつくのは5から3等級までなのか?」

「この大陸ではそうでございます、別大陸では2等級核の研究が進んでいるとのことらしいですが、我々の大陸にその技術が入ってくるのは何年先かわかりません」

「そうなんだ。やったじゃん咲、値段がつくもんで」


 全くだと頷く。


「しかしですね、その3等級ですら現在は謎の部分が多く、利用されている方が少ないのが現状です」

「あぁ、つまりは買い手が見つかる可能性が低いと」

「はい、恐らく王との取引になると思われますが、アイオーン文明を使われているところはそこそこあるのですが、5等級で十分という方が多いのです。街に電気を使用している店がいくつかあると思いますが、それは全て5等級未満の、ほんの欠片ほどの核で十分なのでございます」

「でも、3等級を使ってもいいんじゃないのか?別に大きすぎて困るってことはないんだろ?」

「いえ、大きすぎると困るのです。核のエネルギーはコントロールするのが非常に難しく、昔梶様と同じ考えの方が4等級クリスタルを使用し、エネルギーを分散させ個人で使うのではなく街の人間で使おうとしたことがあるのですが」

「発電所みたいな考えだな」

「エネルギーをコントロールしていたアイオーン文明に精通した学者がコントロールを誤り、その街が壊滅したという話もございます。3等級ですと、恐らくこのラインハルト城下街を半分くらい焦土にできるかと」

「えぇっ、めっちゃやばいやつじゃん!それ爆弾だよ!」


 俺が大声をあげると、核を持っていたオリオンが驚いて核を落としてしまう。


「あっ……」


 脳裏に惑星と、コントのような大爆発シーンが浮かぶ。


「うわぁぁぁぁぁっ!」


 俺とオリオンは二人でダイビングキャッチして、核の落下を防いだ。


「大丈夫でございます、ハンマーで叩こうが魔法で焼こうが外殻と呼ばれる外装が全ての衝撃を無効化しますので、爆発はいたしませんよ」

「そ、そうなの?」


 ずさぁぁっとキャッチした核を見てホッとする。


「あくまでアイオーン文明を使用することができる人間が核にアクセスし、エネルギーを引き出そうとした時におこりえる事故でございますので」

「そうなのか、良かった」

「逆を言いますとアイオーン文明を使用できない人間にとっては無用の長物でもありますので。それと取引の際にはそういった使い方もできるということを念頭に入れてお取引下さい」

「そう言ったって?」


 オリオンが全然わからんと首を傾げる、お前はほんとにバカ可愛いな。


「取引するってことはそいつはアイオーン文明が使えるってことで、それが使えるってことは爆弾として使用される可能性もあるってことだ」

「えっ、それお金もらっても爆発されて死んだらどうしようもないんじゃない?」

「つまりはそういうこと、お金は手に入るけど、相手に超強力な爆弾あげちゃうってことだ」

「なにそれ怖い」

「爆弾としての例をあげましたが、しっかりと使えば暮らしを豊かにしてくれるものですし、核を動力とした兵器を使用されている方ならばパワーアップされることは間違いないでしょう」

「なるほどな、アイオーン文明を使ってる奴ならそれぐらい金をだすだろうってことだな」

「おっしゃるとおりでございます。3等級のコントロールですと、EXクラスのアイオーン文明に精通されている方とお取引されることをお勧めします」

「なるほど、ありがとう」


 俺達は鑑定士にお礼と鑑定料を支払って店から外に出た。


「どうするのそれ?」

「どうすっかな」


 バッグの中に強力な爆弾が入ってると思うと落ち着かない気分になってくる。


「まぁ俺が知ってるEXでアイオーン文明に精通した人なんてエーリカさんくらいしかいないからな」

「あたしエーリカはいいけど、王が嫌い」

「そう言うな、あれでも俺の数少ない知りあいの一人なんだ」

「咲、友達って言わないところがミソだよね」

「確実に向こうは俺のことを友達とは思ってないからな」

「そんな感じする、なんか見下されてるよね」

「そう言うのは気にしちゃ負けだ。乾の様子も気になってたし、あいつの城に行ってみるか」

「あいつに売るの?」

「かなり状況がきついみたいだしな、エーリカさんが使用するならそれもありだと思う」

「絶対爆弾にするよ、あいつ」


 オリオンの言葉に苦い顔をする。俺もその可能性を否定できない為言い訳することができなかったからだ。


「あいつなら爆弾で殺すのも、エーリカが殺すのも同じって言うだろうな……」


 そう思いながら、俺達は乾の城近くまで行く馬車に乗って移動をした。




 移動中、城が近くなってくると対ドロテア同盟軍と言う兵達が、馬車の荷物検査をしていた。

 俺達も調べられたが、特に何か言われることもなく、検問をパスして乾の領地へと到着した。

 乾の領地は奥に見える城から、近くにある小さな町一帯で、領地内には領民の姿が見られる。


「咲、なんかやばくない?」


 馬車から見える風景にオリオンがもらす。

 領民のほとんどが畑や、商売をしておらず、だらりとやる気のない感じで座ったり寝そべったり、昼間から酒を飲んでいるものもいる。


「領民ってこういうもんなの?」

「いや、普通はもっとちゃんと仕事してるぞ」


 かろうじて商売しているところもあったが、腐った作物を売り出しており客が寄っている様子はない。

 しばらくすると、大荷物を荷車に乗せて押している家族連れの領民の姿があった。


「引っ越しかな?」

「引っ越しというよりは逃げ出してきたって感じだがな」

「そうだね、兵隊に捕まってるよ」


 見ると荷車を押した父親らしき人物が必死に兵士に何か説明しているようだ。それを後ろから母親と、息子達が見守っている。


「あっ、殴った」


 見ると説明は兵士に通じなかったのか、兵士は怒りながら領地に戻れと言っているようだった。


「戦争になりそうだから、どこもピリピリしてるな」


 しかしあれが戦争から避難する為に引っ越ししているのか、それとも別の理由で逃げ出そうとしているのかはわからないが。

 家族連れは恨みがましい目をしながら兵隊から離れ、領地の方に戻って行った。ありゃ絶対夜逃げするな。


「ラインハルト城から結構遠いね、お尻痛い」

「俺の城とは真逆だからな、……しかし」


 俺と同じタイミングで、この世界に来たとは思えないほどの城のデカさである。

 ウチの古城ではなく、ちゃんとしたレンガ造りの城で大きな門があり、敷地内には女神の彫像が手に持った水瓶から水を流す噴水がある。

 城は中央に大きなとんがり屋根があり、その隣に時計塔が一つある。城をぐるりと城壁が覆い、城壁なしのノーガード城なウチとは大きな違いだった。


「ディーとソフィーも連れてきたら良かったのに」

「あんまり戦争前の王を刺激したくないからな。EX二人も連れて外に出たら、開戦かと思われても仕方ない」

「そりゃあたしがR娘だからいいってことか、こんにゃろめーっ!」


 駄々っ子パンチをするオリオンの頭を押さえて、はいはい悪かったと悪びれない謝罪をする。

 城門をくぐると違和感があった。


「あれ、こここんなに人少なかったかな?」


 以前一度だけ来たことがあるのだが、その時は門番が二人いて、引き留められた覚えがある。中も兵隊だけじゃなくて庭師や、メイドなんかが歩いていたのだが、今はその姿が見えない。 


「誰もいないね」

「そうだな」


 俺達は城の入り口にすら誰もいない、巨大な扉をノックしてみるが誰かが出てくる様子もない。


「留守かな?」

「そんなことはないだろう、あいつ戦士を召喚以外にも雇用してるはずだから誰かしらいるはず」


 大体戦争間近なのに、ここまで入り込めてしまうのはどうなんだ? と思いながら扉をノックし続ける。するとしびれを切らしたのか門の隣にあった大きな鎖が動き始め、金属がきしむ音をたてながら扉が上に上がっていく。

 扉が全て開くと、そこには猫族の少女の姿があった。確か名前はリリィだったかな。

 どうやら開けてくれたのは彼女のようだ。


「こんにちは、入ってもいいかな?」

「君たちかにゃ、構わないけど王には会えないと思うにゃ」

「そうなのか? エーリカさんにも会えない?」

「エーちゃんはもっと無理にゃ、あれはそろそろぶっ壊れるにゃ」


 ぶっ壊れるってただ事ではないと思う。


「遠路はるばる来て、追い返すのもなんにゃ。リリの愚痴でも聞くにゃ」


 そう言ってリリィは元気なく尻尾を垂らしながら城の中へと入っていく。


「なんか疲れてるね」

「同盟軍と打ち合わせが続いてるのかもしれない」


 恐らく乾の軍も同盟軍に加入はしているのだろう、意思を統一してどうやってドロテア軍に立ち向かうかを考えているのだろう。

 俺達が通されたのは一階ににある来賓用の部屋だったが、ソファーと小さな机以外には窓しかない部屋だった。


「派手好きの乾ならもっと内装こってると思ったが、そうでもないんだな」


 俺が素直な感想を言うとリリィが答える。


「売れるものは全部売っちゃったにゃ。ここも元は金ぴかだらけだったにゃ」

「えっ、そうなの?やっぱり召喚石なしで戦争が始まってお金が足らなくなった感じかな?」

「違うにゃ、自爆にゃ」


 そう言ってリリィはソファーに寝転がる。


「あの偽EXが来て全部狂ったにゃ」

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