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愛してるぞ!

 コキュートスとのバトルが終わった後、帰る手段を黒乃のバイクしかなくしてしまった為、満身創痍な茂木を黒乃と一緒に戻らせて、その後迎えに来てもらうことにしたのだが、彼女が戻ってくるより早くサイレンを鳴らしたモノクロの働き者たちが先に到着してしまったのだった。


「サイレンの音聞こえんな……」


 突き破られたカードレール越しに、白黒パンダが団子になって赤い光を灯しながらこちらに向かってきている。

 逃げてもいいが、俺は報道のヘリに映像を撮られていたことを思い出す。


「一人生贄になった方がいいか」


 ふぅっとため息をついて、俺は黒乃に税金使って帰るわとメールを送り、到着したパトカーに乗せられて赤城岳を下山したのだった。




 翌日赤城署を出た俺は大きく伸びをする。

 結局丸一日警察のお世話になってしまった。

 警察の質問はほとんどわかりません、知りません、よく覚えていません、記憶にございませんと記憶喪失の悪徳政治家みたいな返答でかわし続けた。

 結局のところ警察もあの謎の怪物の存在も、魔法の力も到底信じていないので、俺がいくら魔法の力があってですねと説明したところで、危ないハーブでもキメているのか? と言われるのがオチである。

 テレビに映っていた黒乃、茂木のことも、ちょっとよくわかんないですと芸人のネタみたいなことを連発してかわした。

 警察としてはもう少し俺を拘留して話を聞きたかったみたいだが、どうやら揚羽の爺さんが圧力をかけたらしく、今朝方渋々解放された感じだ。

 警察署の前に包帯を巻いた真凛の姿があった。


「あっ、梶君解放されたん?」

「おぅ、どうしたんだ?」

「どうしたって酷いな、せっかく迎えに来たのに」

「そりゃありがたい、確かもっさんから怪我したって聞いたんだけど」

「うん、せやけど治った。というか治した」


 真凛がピラッと着ていたセーターをめくると、彼女の綺麗なへそが見えた。

 そこに何かしら傷がある様子はない。


「意外と大胆だな」


 ここ警察署なのに。


「ちゃ、ちゃうで、そういうんと!」

「わかってる」


 警察署の外は、昨日よりも濃くなったのではと思われる深い霧が出ていた。


「昨日より酷くなってるな」

「交通関係はほとんど全滅やで。在来線どころかバスすら動いてへん。そのおかげで学校は休校になってるし」

「電車通学もいるしな。企業戦士は悲惨だな、そんな状況でも会社行かなきゃならないし」


 警察署の前をスマホ片手にぺこぺこと頭を下げているスーツ姿の男性が何人も通る。


「サラリーマンじゃなくて良かったと思う」

「茂木君から聞いてるかわかれへんけど、ウチら昨日白銀病院に山田さんの様子を見に行ったんよ」

「あぁ、メールで聞いたな。山田の体が灰色の世界に行ったら別人にすりかわってたって」

「うん、明らかに女子高生じゃなかったよ。多分ウチらのお母さんくらい」

「女子高生がいきなり中年女性にか……それは誰なんだろうな?」

「わかれへん」

「問題は山田とすりかえられたってところだが、恐らくその女性が重要なキーになる人物でバレたくなかったんだろうな」

「顔のパーツを奪ったのはその為?」

「顔のパーツを奪って誰かわからなくしたかったけど、それだけじゃ不安だから結局山田っていう隠れ蓑を魔法か何かでつけて、その女性を隠した」

「じゃあ別に山田さんはたまたま”皮”にされただけ?」

「皮っていうと生々しいが、多分」

「じゃあ本物の山田さんは……」

「俺の予想じゃ、灰色の世界にぶちこまれて帰れなくなったんじゃないかと思う。人間を隠すならあそこから出さないのが最適だ」

「でも、あの灰色の世界って、一条さんのアストラルなんとかってやつじゃなかったの?」

「それがよくわかんねぇ。黒乃が関与してるかもしれねぇが、昨日黒乃は俺たちとずっと一緒にいたし、そういった怪しげなフィールドを展開している様子もなかった」

「じゃあなんやろうね?」

「仮説だが、あのアストラルフィールドを展開したのが、そのすりかわってた女性なんじゃないかと思う」

「一条さん以外にもそのフィールドが展開できるってこと?」

「あくまで仮説だけどな。まぁもしかしたら変貌した川島が展開したって可能性もあるけどな。ただ、もっさんが言うには変なタイミングで現実世界に帰って来たって言ってたから、川島が作り出したならそれはおかしい」

「あっ、それで思い出したんやけど、川島さん凍ったダムで見つかったって」

「人に戻れたのか……死んでたか?」

「それが氷の上で横たわってたって。ただ彼女も意識不明の重体らしいけど」

「そうか、警察の到着が早かったし、ダムの水が凍りついて溺れなくてすんだっていうのもあるんだろう。なんにしても命があったなら良かっ……よか、よか、あ、ああ、あああああ」

「ど、どしたん梶君?」


 唐突にろれつが回らなくなり、視界がぼやける。

 なんだこれはと抗う間もない。

 まさか、誰かからの攻撃なのか? 意識が掌握され……。


「梶君!? しっかり、しっかりして!」

「オレ、オレは……ザマス姉さんを……愛す!」

「……はっ?」

「今行くぞザマス姉さん! いや、香苗ーーーーーー!!」

「えっ、え、ちょっ、えーーーーーーーっ!!?」




 その数分前。学校があると思って登校してしまった制服姿のザマス姉さんこと小田切香苗は、もの憂いに熱いため息を吐く。

 それは別段学校が休校になったことに対する愚痴でもなければ、事前に確認しなかった自身の無考えさを嘆いているわけでもない。

 その原因は彼女の手に持ったスマホに写し出された写真にあった。

 そこには学校の教室内で撮られた、何の変哲もない風景が写されている。

 真ん中に写るのは自分と友人の女子だが、写真の端に勇咲と茂木の姿が写し出されている。

 彼女がこの写真を見て、ため息を吐くのはもう何度目だろうか。


「私には梶君という人がいながら、茂木君にまで恋してしまった。なんて罪深い女なの……」


 彼女は病院で戦う茂木の姿を目撃してしまい、それ以来茂木の姿が頭から離れないのだ。

 もちろん彼女はこのことを誰にも口外していない。こんなこと誰にも言えるはずがない。

 しかし、その秘密にしなければならないことが、より彼女の心を締め付けるのだった。


「こんなことなら……恋なんてしなければ良かった……」


 これが見目麗しい美少女なら絵になるところであるが、彼女の幼少期のあだ名はウルト〇ママと縄文土器であり、ハニワのような見た目の少女がそのまま高校生に成長しただけで、残念ながらお世辞にも可愛いにも、美しいにもステータスは振られてはいなかった。


「この切なる願い、叶わないものかしら……」


 彼女は情報通であり、言い方を悪くすれば耳年増でもあった。しかしそれは他人のことだから深く興味がわくだけで、自身がこういった当事者になることに慣れてはいない。

 そんな彼女が手を出したのは今流行っているオカルトであり、皆から話は聞いていたが実際使用したことはなかったコネクトのID0000の存在である。

 本来こういった類に手を出す人間ではなかったのだが、女子特有の占い好きの本能は彼女にも存在しており、誰にも打ち明けられない胸の内を機械でもいいから打ち明けたかったのだ。

 まさしく王様の耳はロバの耳というやつだ。

 だが、それは時として奇跡を引き起こす。


「梶君と茂木君に好きになってほしい……」


 ザマス姉さんは一度スマホに書いた文を照れくささから消す。だが、十回目にして送信ボタンを押す。


「送っちゃった……」


 送った願いの内容が叶うかもしれないアプリ、コネクト。

 もし叶ったらどうしようかと思うザマス姉さんだったが、所詮はオカルトである。神社に家内安全を願う程度のものであろうと理解している。

 だが、誰にも打ち明けられない心情を吐露することができて、少しだけ気が楽になった。

 ふぅっとため息をつくと、少しだけ肩が軽くなった気がする。それだけでもこのアプリの効果はあっただろう。

 だが、今異界の力が大量にこの世界に流れ込んできていると彼女は知らない。

 本来は叶わない願いも、当選確率は急上昇し0.001%程度しか叶わないはずの願いも大幅倍率アップとなり、願いは聞き届けられてしまう。

 彼女がコネクトに願いを送り、ほどなくしてID0000から返事が返って来る。


[梶勇咲と茂木剣があなたのことを好きになりマシタ。あなたのお願いを達成しマシタ]


 画面を見てザマス姉さんは「えっ?」 と唸る。


「これ、まさか……?」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ザマス姉さん!」

「「愛してるぞおおおおおお!!」」


 突如後ろから声が響き、ザマス姉さんは振り返ると、そこにはバラの花束を持った勇咲と茂木が走り込んできたのだ。

 そして彼女を二人は両サイドから抱え胴上げしたのだ。


「う、嘘でしょ。ヨホホホホホ、今日は人生最良の日よ!!」

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