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ガチャ

 翌日、五星館に入るとブラジャーをアイマスクにしてすやすやと眠る爺を蹴り起こした。


「いったぁ! なにすんじゃい! ワシにこんなことしてタダですむと思うなよ! 一族郎党の首を役所の前に吊るしてやろうか!」

「うるせー、人を呼び出しておいて寝こけてんじゃねぇ」

「優しく起こせばいいじゃろが!」

「起こしたわ! 耳元で何回怒鳴ったと思ってんだ!」


 無駄に体力使わせやがって。それにしても口の悪い爺だ。


「おい、梶連れてこられたのはいいけど、なんなんだこの爺さん?」

「前学校で下着ドロしてたエロ爺だ。俺の記憶について何か知ってるらしい」

「あぁ、いじめをなんとかしろって言ってた」

「その実態は白銀カンパニーの総帥、揚羽の祖父だ」

「マジかよ!?」


 俺は爺に言われた通り、友人である茂木を連れて五星館に来ていた。

 爺はふて腐れながらキセルに火をつけるとプハーっと白い煙を吐く。


「ふん、青二才も青二才じゃが、そっちの眼鏡も冴えん顔しとるの。しかし彼女の一人もおらんのかお前は」

「例えいたとしてもここには連れてこねーよ」

「ふん、つまらん男め。青二才、黒乃ちゃんのいじめの件はどうなっとるんじゃ?」

「あぁ、それなんだが……」


 俺は現状を爺に全て説明する。


「いじめていたらしきクラスメイトは行方不明、共謀していたとおぼしき教師は不審死。黒乃ちゃんは不登校のまま。そんで青二才は灰色の不思議世界で包茎少年ととんでもバトル。そっちの冴えん奴は悪魔化したクラスメイトを見たと……お主らマンガやアニメの見すぎじゃな」

「信じられないかもしれないが本当だからな」

「そして犯人に共通する謎のアプリ、コネクトとID0000」

「唐突に普及したわけのわからんものだ」

「俺もID0000なんか聞いたことねーよ。百目鬼さんも知らないって言ってたし」


 そう、あのID0000を知っているのは、ウチの学校の生徒くらいで、揚羽や茂木の学外の友人に問い合わせてみたところ、知らないと回答がきたのだ。


「つまり限定的な場所でのみ流行しており、願い事を送れば叶うと言われておるのじゃな?」

「ああ、AIらしいが願望機的な扱いで使われてるらしい。コネクトを作ってる開発会社にも聞いたが、ID0000には検索エンジン以外の使い道はないと。そんで、一体いつこれを実装したのか聞いたが、不思議なことにわからないから調べておきますと」

「ふむ……開発会社が自分で作ったものをいつ頃実装したかもわからんというのもおかしな話じゃ」

「クラスメイトにも聞いたが、知名度は確かに高かった。だけど、願いが叶う平均確率は10回に1回叶えばいい方で、それも大した望みじゃないのと、送った願いと叶った内容に食い違いがあったりと精度は高くないらしい」

「じゃろうな、恐らくこれは魔法じゃからな」

「はっ?」


 唐突に爺からファンタジーな単語が出てきて俺と茂木は驚く。


「魔法だと言ったんじゃ」

「魔法って、あの炎や氷を出せるような?」

「おおまかにいえばそうじゃな」

「爺さん金持ちすぎてボケたのか?」

「やかましいわ!」


 と普通は思うが、俺も灰色世界で魔法みたいなの使ったしなと思う。

 それに美少年化するのも魔法で片付けてしまうことはできるが、でもそれって力技すぎないか? とも思う。


「バカもん、ワシが根拠なしの話なんかするか」

「じゃあこのコネクトのID0000ってのは魔法か何かで出来てるって言うのか?」

「そうじゃ。魔法と言うのはそもそも概念を捻じ曲げて結果を変える変化型と、工程をスキップさせる省略型に分かれる。今お主が言った炎や氷をだせると言った類は炎を起こす工程をスキップした省略型で、魔術と呼ばれるものじゃ。逆にこっちのID0000は願いや願望という概念を現実に引き起こす変化型に分類される魔法の分野になる」

「違いがよくわからんな」

「魔術はやろうと思えばできることを省略に省略を重ねて出来上がったもんじゃ。ガスコンロなんかはある意味魔術とかわらん。だが魔法は別じゃ、完全に無から有を生み出す。それは物質世界の理に反しとる」

「つまりID0000は魔法を実行しようとしているが失敗を続けていると?」

「そんでたまに軽いのが成功すると」


 俺と茂木は顔を見合わせる。


「その通りじゃ。そしてID0000には核となって魔法を実行するコマンドが存在する。お主にはいじめの件を解決したら教えてやろうと思っていた二つ目の記憶の鍵をやる」


 エロ爺は押入れの中からおもちゃ箱と書かれた、乱雑にガラクタがぶちこまれた箱を取り出す。

 ガラガラと音をたてながら取り出したものは手のひらサイズのカプセルだった。


「なんだこれ?」

「それはワシの口からは言えん、自分で思い出せ。誰でも知ってるもんじゃ」

「思い出せって、これはどう見たって”ガチャ”のカプセ……」


 唐突に酷い頭痛が襲う。これは思い出した記憶を無理やり消去する忘却だ。


「いってぇ……」


 くそ、頭の中ハンマーで殴られてるような強烈な痛みに目の奥がチカチカする。

 今回のは結構やばい単語を思い出したんじゃないか。

 脳が全力で忘れろと指示を出している。


「痛みから逃げるな、復元された記憶を逃がすんじゃない!」


 爺に言われ、必死に俺は記憶を繋ぎとめる。


「ムリムリ! 超いてぇ! マジでやばい死ぬ!」

「人間がそんな簡単に死ぬか! ええい、根性の足りん青二才め」


 爺は跳びあがると、キセルで思いっきり俺の頭をぶん殴った。


「いってぇっ! 何しやがるんだこのクソじじ……」


 あれ、頭痛やんだな……。

 そう思い俺は視線を握られたカプセルに落とす。


「ガチャ……だよな、これ」


 もう頭は痛まない。

 どうやらガチャという記憶が復元されたようだ。


「そう、ガチャじゃ。お主、これをここではないどこかで見覚えはないか?」


 言われてじっと見据えると、頭の中に大きなボロい城と、召喚陣、巨大なガチャマシーンが思い浮かぶ。


「……ある。俺はどこかでガチャを回して、何かを手に入れていた」

「そうじゃ、ガチャとは願望機じゃ」

「爺さん、あんたはなんでそんなことを知ってるんだ?」

「ワシも昔、異世界とやらに行っとったからな」

「なっ!?」

「お主を見た瞬間思ったんじゃ、ワシが別世界から帰って来たときとそっくりだと」

「てことは前言ってた異世界から帰って来た人間って爺さんの話だったのか?」

「それもあるが、異世界から戻って完全に記憶を無くしたワシに異世界の存在を教えてくれた人物はちゃんと別におる」

「なんでそのことを隠してたんだよ!」

「こんなこと言って誰が信じるんじゃ。魔法やガチャがどうだの言いだしたら完全に気の触れたボケ老人じゃろ」

「そりゃまぁ確かに」

「ワシもなんで自分が異世界に行ったかは覚えておらんし、未だ穴抜けになっている記憶は山ほどある。じゃがワシは異世界から帰ってきた時、山のような金を持って帰って来た。そしてワシはその金を元手に白銀カンパニーを作り上げたのじゃ」

「……まじかよ」

「まぁワシの話はどうだっていい。問題はここからじゃ。このコネクトにあるID0000なんかに似てると思わんか?」


 爺は自身のスマホを取り出してコネクトの画面を表示させる。


「なんかって……まさか」

「そうじゃ、お主もさっき言った通り、このID0000は願望機に近い。そして願いが叶ったり叶わんかったりする。それはまるでガチャシステムと似てるとは思わんか」

「それって……ガチャの当選システムで当たったり外したりしてるってことか?」

「その通りじゃ。このID0000はまさしくガチャシステムの亜種であり、魔法を具現化させる装置じゃ。ID0000の核となって実行されているコマンドはこのガチャシステムとみて間違いないじゃろう」

「でも、なんでこんなことが」

「それはお主の言った灰色の世界に関係しておるじゃろう」

「まさか異世界の穴が開きかかっている、あれか?」

「異世界の穴が開き、本来存在しないはずの魔力がこの世界に流れ込んできておる。今はまだ密度が低いからID0000の精度も出来ることも大したことはない。じゃがこの密度が濃くなれば、願ったことが叶ってしまう恐ろしい世界になる」

「それって人が絶滅すればいいとか、地球なくなれとか冗談で送っても……」

「ガチャに当選すれば、人は消えるし地球も消滅する。そしてなにより恐ろしいのは魔力の流入により、異世界とこの世界が融合してしまうことじゃ」


 おいおいスケールがでかくなりすぎてないか……。


「融合したらどうなるんだ?」

「女の子のパンツが自由に手に入る素敵魔法世界になる……と言いたいところじゃが、恐らくこの現実世界は異世界に侵食され、なくなるじゃろう」

「それ、どうすりゃいいんだよ」

「灰色世界の黒乃ちゃんが言ったのじゃろう、門を閉めてくれと」

「だからそれをどうやって閉め……駒を集めてって言ってたな」


 俺は一条の言っていたことを思い出す。


「駒を集めて……か」

「どうかしたのか爺さん?」


 爺は立ち上がると、押入れから上等な黒塗りの陶器で出来た箱を持ってくると、中から円錐状の駒を取り出す。


「それは……」

「アルファピース。ワシがこの世界に戻ってきた時、持っていたもんじゃ」

「それを集めればいいのか」


 しかし爺は浮かない顔をしている。


「青二才、このピースを集めず門を閉じる方法を探した方がええ」

「なんでだよ、一条が駒を集めろって言ったんだから、きっと駒を集めれば門を……」


 爺が駒に触れると、駒が淡く輝く。

 そして自分の口に拳をくっつけ、指の隙間に息を吹きかけると凄まじい炎が巻き起こる。


「うわああああぁっ!?」

「ウハハハハ火炎の術じゃ、なかなか良いリアクションをする」

「なんなんだよ一体!」


 俺と茂木は危うく黒焦げにされかける。


「この駒はな、異界の力が詰め込まれている。人知を超えた凄まじいモノじゃ。恐らくこれを集めれば、たとえ魔力の少ないこの地でも、魔法の真似事は出来よう。しかしじゃ」

「しかし?」

「この力を集め、門を閉じようとすれば、恐らくそのものは異世界へと取り込まれるじゃろう」

「なっ……なんでだよ?」

「強い魔力を持ったものが門の前に立つのじゃ。もし仮に青二才がその力を行使するのなら、異世界がお主を自分側の住人と認識して引きずり込むのじゃ。そして門を完全に閉じてしまえば、もう一度運よく戻って来られる保証なんぞありはせん。いや、むしろ更に帰還は難しくなり、最悪戻る方法はなくなる」

「…………」

「そして異世界側がお主を完全に住人と認識してしまえば、現実世界にいた時のお主の記憶はこの世から消えるじゃろう」

「…………それはあくまで、かもしれないってことだろ?」

「いや、恐らく確定じゃ。お主帰って来た時何日か日数が経っていたじゃろう? そのとき誰かが捜索していた形跡はあったか?」

「いや、なかった」


 確かに俺は二日間この世界にいなかったが、誰からも探された形跡はなかった。

 そういや真凛も同じはずだ。あいつは俺よりずっと育ちが良いみたいだから二日間もいなくなれば誰か気づくし、きっと捜索されるはずだ。

 学校に登校したときも特に何事もなかった。確かに何もないというのは異常だ。


「ワシ、こう見えて知り合いは多い方でな。ワシが異世界から戻ってきた時この世界では約一か月が過ぎていた。しかし皆ワシが一か月いなかったという事は記憶しているが、その間ワシのことをどうこうした形跡はなかった。つまりワシが異世界から帰ってきた後ワシの記憶が復元したとみて間違いない」

「つまり爺さんが異世界にいる時はみんな爺さんのことを忘れていて、帰ってきたら思い出したと」

「左様。ワシが異世界に行っていたのは数年じゃから、時間概念にも歪みが生じておる」

「それ、もし異世界で死んだらどうなるんだ?」

「当然……誰もお主を思い出すことなく、お主の存在は消える。記憶の死は生命の死よりも辛い。お主は誰からの記憶からも消え去ることになるのじゃ」

「ちょっと待ってくれ」


 そこで今まで黙って聞いていた茂木が声をあげる。


「なんだよ、さっきから聞いてりゃ梶は実は異世界からの帰還者で、異世界の魔力が流れ込んできてID0000が魔法で願望を叶えてるとか、それを放置すると異世界と現実世界が混じって無茶苦茶になるだの、魔力の流入を止めようと門を閉じようとすれば梶は異世界に連れて行かれるだの、異世界に連れて行かれたら、俺達は梶の記憶を全部なくしちまうだの、ちょっとファンタジーすぎるだろ」

「よくまとめたな」

「その通りじゃ。ワシらの話は一体なんじゃったのかと言うくらいまとめよったな」

「この際駒がどうだの手段はどうでもいい。別にそれは梶がやらなくてもいいんだろ? 誰か異世界に行きたがってる人募集して、やってもらったらいいんじゃないのか? 世の中異世界行きたい人~って集めたら山ほど集まってくるだろ?」

「それはそうかもしれないけど」

「無理じゃな。門を閉じることができるものは王の資格があるものだけじゃ。青二才、貴様のピースはキングの駒じゃろう?」

「ああ、そうだ」


 俺は王冠のついた駒を取り出す。


「王は召喚を意味する駒。それは即ち異世界と現実世界を繋ぐ役割を果たす。ただもう一人門の役割を果たすものはいる」

「一条だな」

「左様、あの子にも門を閉めることはできるじゃろう」

「あいつがやるくらいなら俺がやる」

「ちょっと待て。俺の推測で悪いが、その門が開いてるのって一条が悪いんじゃないのか? あの子を媒介にして門が開いているように聞こえる。このID0000が限定的な場所でしか発現していないのも、一条を中心に魔力が展開しているからじゃないのか?」

「冴えん男と思っていたが、なかなか鋭いの。恐らくお主の予想で当たってるはずじゃザコ眼鏡」

「誰がザコ眼鏡だ。ならやっぱりこう言っちゃ悪いが一条に閉めてもらうのが一番いいんじゃないのか?」

「そりゃダメだ。一条が異世界に連れて行かれちまう」

「お前はアホなのか。可哀想だからかわってあげようって話じゃないんだぞ! 同じ空の下どこかに行くなら納得は出来るが、異世界に吹っ飛ばされるツレを見過ごせるか」


 あっ、この爺話の流れがこうなるってわかってて友人か彼女を呼べって言ったな。

 爺の策にはまったなと苦い顔をする。


「でもしょうがないだろ。俺か一条にしかできないなら俺がやるしか」

「一条かお前かってところがタチ悪ぃよな。お前絶対譲らないじゃん」


 茂木はガリガリと後頭部をかく。


「まぁこれが俺かお前だったら、どうぞどうぞって譲るんだけどな」

「嘘だね。お前は土壇場になったら俺と入れ替わるタイプだ」

「俺そんな聖人君子じゃないぞ」


 茂木は「はーっ」と深くため息をついて頭を抱える。


「くそー、五星館行くぞって言うからゲーセン行く軽い気持ちで来たのに、いきなり地球滅亡の話とか異世界はありまーすとかそんな話聞かせんなよ」

「理系女に怒られるぞ」

「くそ、なんで俺の方が真剣に悩んでんだよ」


 茂木はわりかし能天気な俺に恨みがましい目を向ける。


「一回行ってるせいか、あんまし焦りってないんだよな。しかも俺両親も兄弟もいないし」

「そのへんフットワーク軽くていいよな。いや、よくねぇ。春から一人暮らしする社会人みたいなこと言ってんじゃねーよ」

「フフフフ」

「何わろてんねん、お前のことやろうが」


 あーーーーっと雄たけびを上げながら、茂木は頭をかきむしる。


「まぁ爺さん俺がやるよ。何か他の手段を探すにしても最悪の状況を回避する方法は必要だろう」

「そりゃまぁそうなんじゃが。ワシラブ&ピースで生きてるから、あんま誰かを犠牲にとかそんなん嫌いじゃぞ」

「ま、なんとかその時になれば不思議な力が解放されて異世界の門は勝手に閉じて全て上手くいくかもしれないしな」

「やめろ、そういう絶対うまくいかないフラグたてんのは」


 茂木に一発でフラグを折られる。

 爺は真剣な眼差しでこちらを見据える。


「……ふぅ……持ってけ」


 爺は自身の駒を俺に放り投げる。


「ワシ記憶には自信ないが、なんとか頑張って覚えといてやる」

「そいつはありがたいな」

「恐らくじゃが異世界の門を閉じるには強大な力が必要。ピースはそれを含めて、最低でも五つは必要じゃろう」

「多いな。後三つか」


 いや、確かあの灰色世界で会った殺人鬼が一つ持ってたはず。


「もう一つは恐らく黒乃ちゃんが持っておる」

「そうか、それは妥当なところだな」

「言いそびれたが、もう一人のクロノちゃんをゲームセンターで見たじゃろう」

「ああ、もしかしてあれが?」

「恐らく黒乃ちゃんが所持してる駒じゃ。お主の話じゃと門を守るゲート―キーパー的な役割を担っている。相当強力なものと見て間違いない。忘れるなよ青二才、もう一人のクロノちゃんも黒乃ちゃんの一部、いや本質的にはクロノちゃんの方が本物と言えんこともない」


 黒乃がいっぱいでてきて段々わけわかんなくなってきたなと思う。


「なに、別に殴って取り上げようってわけじゃないさ」

「そんなことしたら、ワシお前殺すからな」

「おぉこわっ。一条以外に持ってそうなのは?」

「持ってそうというか、そもそもこのピースがこの世界に五個もあるか微妙じゃ」

「本末転倒じゃないか」

「しかし、異界の力を使えば精製することも不可能ではないじゃろう。その行方不明のクラスメイトとやらを追えばなんとかなるかもしれん。ワシの推測でしかないが、このID0000絶対に使うなよ」

「なんだそれ、使えってことか?」

「違うわい。魔法を生み出すには対価が必要じゃ。異世界ならば空気中に魔力が満ちておるから、それを媒介にすることもできるが、ここは現実世界魔力が存在しない状況で魔法を行使し続ければ、対価の請求は必ず実行者に跳ね返ってくる」

「川島が悪魔になったってのはそれの可能性があるな……」


 有料ガチャを無理やり無料で回し続けてたら悪魔になったとか笑えないぞ。


「青二才気をつけるのだぞ。異世界の門を閉じることができるアルファピースじゃが、閉じることができるということはその逆に開くこともできるということじゃ。その灰色世界であった男は必ずやお主を狙ってくる」

「一条が狙われないですむなら逆にラッキーだな」


 それに俺がもし異世界に連れて行かれれば、あの殺人鬼は完全に門を開く方法をなくす。

 ならやっぱり、俺が一条の駒を持って異世界に行っちまった方が安全だ。


 俺はやれやれと息を吐き、茂木と共に五星館を出た。

 俺は握られた爺の駒を見やる。ガラス細工のような駒はキングの駒と違い上部に何も装飾がされていない。

 

「お前マジでやる気なのか? ていうか、俺には今の話まだ信じられないんだが」

「お前だって川島が悪魔みたいになった姿見たんだろ」

「見たけどさ……自分で言うのもあれだが、もしかしたらただの見間違いって可能性も」


 茂木はそう言って立ち止まった俺を見やる。


「何やってんの?」

「見て見て」


 俺は指先にマッチほどの小さな火を灯す。


「えっ……なにそれ、どうやって火ついてんの?」

「なんかね、ガチャのこと思い出してから、いろいろ戻ってきてるみたいなのよ」

「戻ってきてるって、何が?」

「魔法の使い方?」

「嘘っだろオイ……」

「ちなみにこんなのもある」


 俺はパチパチと静電気程度の雷を指先に纏わせる。


「冗談きっついわ」

「すまんな」

「そのすまんには一体何が含まれてるんだ。お前さ……考えてることわかりやすすぎるんだけど」

「いや、今日連れてきたのがもっさんで良かった。揚羽とかならきっとうるさくてしょうがなかったと思う」


 曖昧に笑ってごまかすと、茂木は俺から爺の駒を奪い取る。


「何するんだよ」

「これは没収ートだ。お前が勝手に異世界に連れて行かれない為にな」

「大丈夫だ。駒集めなきゃいけないし、そんな早くには行かないって」

「軽い引っ越しみたいに言うな……お前ほんとにここに未練ないのか?」

「あるに決まってんじゃん。俺がこの世界をどんなに愛してると思ってるんだ」


 それに約束したこともある。


「よく言う。くそ、異世界ってもっと胸がワクワクするようなもんだと思ってたのに、すげー嫌な緊張感をもたらしてくるぜ」


 俺より落ち込んでいる茂木は遊ぶ気分でもなくなり、帰宅することになった。

 俺も今日は帰ろうかなと思った時にスマホが鳴る。

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