表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/56

4 冒険者ギルドへの道のり

 勢いに任せて走り回った俺だったが、すぐ息が上がって立ち止まった。……そうだ、こんなことをしている場合ではない。今夜の泊まる場所を確保しないと。

 転生前は、ろくな人生を送ってこなかった俺だが、流石(さすが)に屋根のない場所で寝泊まりしたことは無かった。


「なんとか暗くなる前に宿が取れるか……?」


 空を見上げると、太陽は西に傾きつつあった。時刻は16時くらいだろうか、青空と夕暮れが入り混じって、美しいコントラストを描いている。

 それを見ていたら、だんだん色々なことが、どうでも良くなってきた。


「最初は『暗くなる前に、街に入れるか』って悩んでたんだ。それに比べたら、よっぽどマシな状況じゃないか」


 そうだ。俺の人生なんて、どうせロクでもないじゃないか。幸せなんて、とっくに諦めたはずじゃないか。泊まるところが無いくらい、どうってことない。

 俺が自嘲(じちょう)して歩き出した、そのときだった。


 ドスン!


「きゃっ!」

「うわっ!?」


 何か小さいものがぶつかってきて、俺はたたらを踏んだ。逆に相手は、俺の体に弾き飛ばされて尻もちをつく。

 声のしたほうを見ると、ボサボサの黒髪の上で、大きな猫耳が揺れていた。さらに視線を下げていくと、みすぼらしい服装をした少女の姿があった。


 ……猫耳の、少女である。


 猫がよくやるように、ピコン!と耳を震わせると、彼女は俺に話しかけてきた。


「いったぁ……ごめんなさい、大丈夫でしたか?」

「俺は大丈夫だけど、そっちこそ大丈夫? 立てる?」

「だ、大丈夫です!」


 俺が手を差し伸べるより早く、彼女はパッと身を起こす。それはまるで、野良猫が人間を警戒しているかのような素早さだった。

 ――人に甘えるな。借りを作るな。

ちくり、と心のどこかでトゲが刺さった。こうすることで、逆に人を遠ざけようとする行動パターンを、俺は知っている。


「それじゃ、私はもう行きますので」

「あのさ!」


 行こうとする少女を引き留めようと、俺は自分でも意味の分からない言葉を発していた。

 少女が、いぶかしげに振り返る。


「なんでしょうか」

「えっと、その」


 この子に気を遣わせろ(、、、、、、)! たぶんこの子は俺の同類だ。理由も無しに善意を向けられるのに慣れていない。だから……心配させるようなことを……


「どこか、泊まれる場所を知らないかな?」


 とっさに出た言葉は、これっぽっちだった。少女を救える言葉なんて――自分が救われてもいないのに――出てきやしなかった。


「それならシスターに頼んで……」

「シスター?」

「あっ」


 少女は何か言いかけてから、しまったという顔になった。


「ううん、何でもないです。あの、冒険者ギルドに行くのはどうですか? そこの通りまで行って、人が集まっていく方向に流れていけば、自然に到着できると思います」

「冒険者ギルド?」


 ギルド。社会の教科書に書いてあった単語だっけ?

けれど、そんなことより俺は少女との会話を引き延ばせないかと考えていた。今、引き留めないと、この子は遠くへ行ってしまうような気がした。

 ――だというのに。


「それじゃ私、もう行きますね」

「あ……」


 少女は猫耳を揺らしながら、俺が歩いてきた方へ歩いて行ってしまった。

 俺はその様子を黙って見守るしかなかった。


「……何を考えている、俺。他人と関わってもロクなことなかっただろうが!」


 パン!と自分の(ほほ)を叩いて、迷いを振り払う。

 とりあえず冒険者ギルドというのに行ってみることにしよう。互助会(ギルド)というくらいだ、運が良ければ寝るところぐらい確保してくれるかも知れない。


 俺は最後に、もう一度だけ振り返って少女の後ろ姿を探した。それは夕暮れの人波に埋もれて、もう見つけることは出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ