44 そう言えば、そんな人いましたね
神様から書いた文字が具現化するルーンマスターの能力を授かった主人公リュウセイは、異世界で宰相の娘エリスを助ける。
だが何者かの陰謀で、逆にエリス襲撃犯として指名手配されてしまう。
しかしリュウセイはエリスと共に、人質にされた獣人の娘フェレスを助けるべく、監獄塔に忍び込んだのだった――
「うぅっ。腕が折れるかと思った……」
「やだなぁ、リュウセイさん。もっと早く言ってくださらないと、キュッとヤッちゃうところでしたよ」
アエスタがコロコロと鈴を転がすような笑い声を上げる。
「それで、姉上はどうしてここへ?」
「あぁん、お姉さまぁ」
ゴロゴロと喉を鳴らしてすり寄るフェレスをあしらいながら、エリスが問いかける。
するとアエスタは、事も無さげにこう告げた。
「サハムさんがフェレスを売り飛ばしてしまう前に返して頂こうと思ったんですけれど、みなさん私の邪魔をするもので……仕方なく進路上の方々を、キュッと〆てきたんです」
アエスタは、なんてことない風に、倒れて積み重なった衛兵のオッサンたちを指さした。
アエスタさん、まじパネェっす!
「言いませんでしたっけ? 私、ルーン魔法は使えないんですけど、お父さん直伝の武術が特技なんです」
「逆に妾は運動がダメじゃ。ルーン魔法は使えるがのぅ」
「お父さんは両方得意なんですけどね。いつか負けないくらい強くなりたいです」
アエスタとエリスの姉妹は、各々の能力を解説してくれた。エリスがおびえたウサギのような目をしていた反面、アエスタは無邪気な瞳で物騒なことを言っていた。
……その目がとても怖かった。今後、アエスタだけは敵に回さないようにしよう。俺は心の中で、固く誓った。
「それで姉上、フェレスがここにいると誰に聞いたのじゃ?」
「白虎のおじ上から聞いたんです。サハムがフェレスを連れて行ったこと、リュウセイさんが指名手配されたこと」
「待ってくれ。『白虎のおじ上』って冒険者ギルドのマスターのことだよな? なんでそんな親切なの?」
「ああ、リュウセイさんはご存知ないのですね。白虎のおじ上は父上のご友人であると同時に、ナグム=サハムの親戚でもあるのです。私達が最初に知り合ったのも、おじ上のご紹介です」
「親戚ィ!?」
俺は開いた口がふさがらなかった。あのお調子者のジイさんが、あの陰険スケコマシ野郎とエリスの仲を取り持っただとぉ!?
あの頭が花畑でできているジイさんが、家族に囲まれて幸せそうなジイさんが、エリスをどこかへ連れて行こうとしている。ひねくれ者の俺が、初めて、す――好きになれた人を。
……ああ、そうだよ! 好きだよ、悪いか!? ここまで来たら認めてやるよ、ホレたんだよ!
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、エリスが辛そうな顔で打ち明ける。
「妾は最初からサハムが気に入らなんだ。おじ上は優しくて懐の深い方なのに、サハムはこう意地汚いというか、とにかく気に入らないのだ!」
「エリス、落ち着いて。この婚姻は父さんが決めたものでしょう?」
「しかし姉上、妾はいま――」
『待てよ、俺1号。その話、なんか変じゃないか?』
「なんだよ、いま立て込んでるんだよ!?」
「リュウセイ!?」
「リュウセイさん!?」
俺が大声を上げたため、エリスとアエスタが驚きの声を上げた。……いきなり思考に割り込んできた俺15号の発言に、思わず怒鳴り返してしまった。
ごめん、と謝って俺15号との会話に意識を集中する。
「なにが変なんだよ」
『だって、見ろよ、この契約書』
そう言って15号が視界に収めてくれた紙を見て、俺はハッと息を飲んだ。
「じゃあ、あのジイさんは――」
「リュウセイさん、誰か来ます!」
アエスタの忠告に、俺は目の前の現実に引き戻された。階段を複数の足音が上がってくる。
こうしてはいられない。
「ルーン文字を書くぞ。動くなよ」
俺は相手の返事を待たず「インク瓶」と書いた折り紙に指を突っ込んだ。
――やがてドアの外から聞こえてきた声は。
「エリスお嬢様、アエスタお嬢様、いらっしゃいますか?」
「エリス嬢、先ほどは失礼した。無礼者が僕の家を襲ったものでね。しかし、もう大丈夫ですよ」
ギルドマスター、白虎のティグレンその人だった。隣にはサハムもいるようだ。
……来やがったな。
エリスが、ぎゅっと俺の手を握ってくる。俺もその手を、できるだけ優しく握りしめた。




