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41 戦いは数である

神様から書いた文字を具現化するルーンマスターの能力を授かった主人公リュウセイは、転生した世界で宰相の娘エリスを救う。

だがエリスを狙う者たちから、逆にエリス襲撃の主犯として指名手配されてしまう。

エリスの父から娘を託されたリュウセイは、あらゆる文字を使って現状を打開すると誓う。その手には「分裂」の文字で無数に増えた紙とインクが用意されていた――

 ダブダブになってしまった服は、たくし上げるにしても限度がある。俺は着地点にたまたまあった、納屋(なや)の中を物色することにした。ホコリっぽい空気に、むせそうになるのを我慢する。

 もたもたしていると、後ろからエリスが顔を出し、こちらの様子を伺ってきた。


「リュウセイ、まだ終わらぬのか? 他の者は行ってしまったぞ」

「分かってる! でも服だけはなんとかしないと、目立って出歩けないよ」

「ルーン魔法で解決できないのか?」

「それだと文字が消えた時に裸になっちゃうから、ちょっと……」


 そんなことを話していると、納屋に積まれた荷物の中から、丈の短いマントが出てきた。フードもついていて、いざとなれば顔も隠せそうである。

 俺は短くなってしまった(、、、、、、、、、)腕で、うんしょとマントを羽織(はお)った。納屋から出て、くるりと回ってみせる。

 そう。俺は自分に書いた「看板娘」の文字で、かわいらしい男の娘に変身したのだ。


「お待たせ!」

「おお……まるで別人じゃな。これなら、お主が手配犯(リュウセイ)だと気づく者は居るまい」


 そう言うと、エリスは屈みこんで俺の頭を「いい子いい子」してきた。俺は――すごく恥ずかしくて――反射的に逃げ出してしまった。


「こら、リュウセイ! なぜ逃げる?」

「だって、そんなことされるの恥ずかしいだろ!」

「む~。お主、存外(ぞんがい)わがままじゃのう」


普段は下から響いていた彼女の声が、頭上から降ってくる。体が縮んだせいか、ボリュームも上がって聞こえた。

 それが、全然似ていないのに、あの人を思い出させる。俺は覚えている。ずっと前に、こうして頭をなでてくれた人がいたことを。なんだか困ったような、控えめな笑顔を。


 鼻の奥がツンと痛くなる。だが悲しい思い出に窒息してしまうより早く、エリスが小麦色の腕を差し伸べてきた。


「さあ。早く(わらわ)をエスコートせぬか」

「えっ」

「この手を離さないのであろう。しっかり致せ、文字書き(ルーンマスター)殿」

「お、おう! じゃあ行くぜ。やってくれ、俺2号(、、、)!」


 エリスの手を、ぎゅっと握る。この後の行動は決まっている。俺たちは監獄塔へと引き返し始めた。


 ※ ※ ※


 1号がエリスと移動を開始したのを確認して、俺も(、、)行動を開始した。木製の立派なお屋敷の、正面玄関に堂々と向かう。

 俺に気づいた、人相の悪い護衛たちが近づいてきた。


「待て、小僧。ここがどなたのお屋敷か知っているのか?」

「知ってるよ、ナグム=サハムの家だろう」

「おい! こいつ、指名手配の……!」

「遅せぇよ」


 俺は「突風」と書かれた紙に、最後の一画を書き加えて完成させた。護衛のオッサンどもが、殴りつけるような風に吹き飛ばされ、転がってゆく。


 そう、ここは俺たちが事件の黒幕と(にら)んでいる、サハムと名乗った優男(やさおとこ)の家だ。場所はエリスから聞いた。

 サハムは監獄塔にいる。ならば、家探ししてエリス襲撃事件に関係する証拠を探し出すには、うってつけの状況だ。


「野郎ども、カチコミだ! 門を閉めろ!」


 俺の背の2倍はあろうかという木製の立派な門が、ゆっくりと閉じられていく。木製の丸太を縦向きに何本も並べたそれは、直径50cmは厚みがあり、まるで小さな砦のようだった。

 さらには青いルーン文字が書き込まれている。水のルーンで、炎に対する耐性をつけているのだった。


「上から矢と魔法を撃て! 生かして返すな!」

「ふぅん。ちょっと文字書き(ルーンマスター)を甘く見てないかなぁ?」


 俺は意地の悪い笑みを浮かべると、手にした紙に「杭打機(パイルバンカー)」と書きつけた。そして門にピッタリと押し付けると、ありったけの力を込めた。


 ――ズドン!!


 腹の底に響く、重低音と振動。光で出来た5mほどの杭が爆発するように発射されたのだ。その威力たるや凄まじく、門どころか奥にある金属製の玄関までぶち抜いていた。

パラパラと木くず(、、、)が舞い落ちてくる。あまりの爽快感に、一瞬くらりと目まいがした。


「うわーっ!? なんだ、何が起こった!?」

「門と玄関が破られました! 凶悪犯がルーン魔法を使っています!」

「何をしている! 撃て、撃てーッ!」


 頭上から、門の向こうから、雨あられと弾幕が撃ち込まれてくる。しかし、それらは俺に届く前に弾かれ、地面に落ちた。

 ――そう、俺の背後には「障壁」と書かれた紙を持った、俺3号がいた。

 そこに、ちょうど俺1号からの伝言が入る。


『俺から分裂の文字で増えた皆さん(、、、)、聞こえますかー? えーと2号から16号まで! クソ野郎の家を根こそぎ調べ尽くしてください!』

「待ってました!」

「じゃあ派手に行きましょうかねぇ」


 口々に俺たちが返事をする。手に手に刀を、槍を、中には炎のような形のないモノまで武装した俺たちは、一斉に優男の家へと襲いかかった。

 ――ヒエッ、と護衛のオッサンが腰を抜かすのが見えた。

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