表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/56

38 俺がこの世で一番キライなこと

神様から書いた文字が具現化するルーンマスターの能力を授かった主人公・リュウセイは、偶然助けた宰相の娘・エリスと行動を共にしていた。

しかし逆にエリスを狙う犯人として指名手配され、監獄塔でエリスの父、宰相バハロフから事情を聞かれる。

ところが、そこにエリスの婚約者と名乗る男が現れ、話を聞かせろと迫ってきた――

 ナグム=サハムと名乗った優男(やさおとこ)は、じろじろと俺を値踏みするように見つめてきた。


「ふぅん、これがエリス嬢の想い人ねぇ……なんというか、あまり社交場では見かけないタイプの方だ」

「紳士らしくないって言いたいのか?」

「いやいや、エリス嬢には珍しかったんだろうと思っただけさ。だが残念なことに、僕は正当な婚約者なんだ。キミから聞く話によっては、このネズミと同じ運命をたどってもらう」

「ネズミ……?」


 そう言って彼が指を鳴らすと、屈強な男たちが、ぐるぐる巻きにされた人間を運んできた。


「こらーっ、誰がネズミですか!? 何度も言いますが、(わたくし)、ネコですから!」

「フェレス……? どうしてここに?」


 そう。スマキにされて運んでこられたのは、獣人の娘・フェレスだった。こんな状態になっても軽口は叩けるらしい。

 だが、そこまでだった。部屋の入り口に転がされた彼女を、サハムが土足で踏みつける。


「ぐえっ!?」

「おい、やめろ! なにをするんだ!?」

「獣人ごときが生意気な。南の大陸じゃあ勢力を伸ばしているそうだが、この街では別だ。エリス嬢にふさわしい所持品かどうかは、婚約者たる僕が決める。そして!」


 サハムは、背をそらして、見下すように問いかけてくる。


「エリス嬢を襲った犯人を尋問したところ、アマクサ・リュウセイという男に頼まれたと自白した」

「なんだって!? エリス、どういうことだ!?」

「……ずっと、父上から報せは受けておった」


 俺の質問に、エリスはサハムの隣に並んで、少しずつ話し出した。


「リュウセイがケガをして、ルーン魔法を使う刺客に襲われたと言ったとき。あのとき捕らえた刺客が、最初の目標は(わらわ)だったと言い出したのじゃ」

「はあ? それが、なんで俺を襲ったんだ?」

「最初の襲撃に失敗した後、報酬の支払いもなしに次の襲撃を要求され――つまり金の支払いで()めたので、殺そうと思ったと」


 そこまで言うと、エリスは黙り込んでしまった。代わりに、再び前に出てきたのが優男だ。


「僕は宰相(さいしょう)殿を通して、エリス嬢に戻ってくるよう、再三お願いをした。しかしエリス嬢は『リュウセイは信用できる男だから』の一点張りで、戻ってくる気配がない。そうこうするうちに、二度目の襲撃が起きた」

「まさか、そいつも同じことを自白したとか言うんじゃないだろうなあ?」


 するとサハムは無表情のまま、すぅっと俺に近寄ってきた。

 そしてエリスとその父から見えない角度を作ると、もはや(にご)っているとしか言えない目をしながら、ニヤリと笑った。


「往生際が悪いぞ、逆賊(、、)。自分がやったと認めたらどうだ」

「……テメッ」

「リュウセイ!」


 エリスが、いまにも泣き出しそうな表情で俺を見つめてくる。

 その瞬間、俺は理解した。コイツこそ、本当の黒幕だと。エリスも、コイツから逃げたがっていると。

 だが悲しいかな、俺はどうすればいいか分からなかった。


 ――いま、ここでコイツを殺す?

 やろうと思えばできるだろう。しかし、それをやったら犯罪者だ。


 ――逃げ出す?

 それだけはイヤだと考えたとき、沈黙を守っていた人物が動いた。エリスの父、宰相バハロフである。


「サハムくん、もういいだろう。キミはエリスをエスコートして、外で待っていてくれないかな。あまり犯罪者と同じ部屋に置いておきたくない」

「宰相殿の(おお)せとあれば」


 優男は、大げさに一礼すると、エリスの腕を取って会議室から退室した。

 バハロフは、それを見送ると、ぐしゃぐしゃ自分の頭をかきむしった。


「青年、なんなんだキミは!? 素直なのは美徳だが、行き過ぎると愚策でしかないぞ!?」

「なんですか、お父さん。俺を呼んだのは死刑にするためじゃないんすか?」

「だったら逃げるとか、なんとかしろよ! エリスから聞いた話が本当なら、簡単に出来るんだろう?」


 そう言うや否や、彼は近くの机からインク瓶を取り出して、俺に投げて寄こした。

 でもそれは、俺が一番聞きたくない言葉だった。


「逃げるって、なんすか」

「あ?」

「逃げろって簡単に言うけどさ、すげえ腹が立つんだよ! うちのクソ親どもみたいに、人に責任押し付けて、逃げ出せっていうのか!? 残された人間に苦労を背負わせろって言うのか!? それだけは、まっぴらごめんだ!」

「青年……」


 俺が息を切らして、まくしたてるのを、バハロフは目を丸くして見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ