29 チート金策と卵ソース・中編
神様から書いた文字が具現化するルーンマスターの能力を授かった主人公・リュウセイは、偶然知り合った宰相の娘・エリスにかくまわれていた。
エリスは金策に炭鉱を買ったのだが、思ったより掘れる量が少ないと知り、頭を抱えていた。そこでリュウセイが知恵を貸そうをするのだが――
余談だが、ここでの料理当番はフェレスが一手に引き受けている。
論理的な理由を述べれば、エリスはお嬢様で料理なんてできないし、俺はこの世界のことをよく知らないので、なにを買えばいいのか分からなかったから、こうなったのだ。
しかし実際はもっと感情的な理由があって、俺のことを「お姉さまにたかる悪い虫」と断じているフェレスが、無理やり台所を占拠したという経緯なのである。
今日もフェレスが料理を作ろうとしたのだが、アエスタが「私が作る」と言って聞かず、結局2人で一緒に作ることになったのだった。
彼女らが昼食を作っている間、俺とエリスは金策について話し合っていた。
金がないと言うエリスだが、炭鉱を購入して、採算が取れるまで待つだけの資力はあるわけだ。もしかしたら、俺が提案する金策を採用してくれるかも知れない。
俺は思い切って、金儲けのアイディアをぶつけてみた。
「マヨネーズを作って売るのは、どうだろう」
「まよねーず? まよねーずとは、どんなものじゃ?」
「ソースっていうか、調味料だよ。白くて、トロッとしていて、野菜にかけて食べるんだ」
「なるほど、異世界の料理か……目の付け所は良いぞ、リュウセイ」
エリスは、パンッと扇を閉じた。どうやら俺のアイディアに興味を持ったらしい。
――しめしめ。俺は心の中でガッツポーズを取った。
もしかしたらマヨネーズが食べられるかも知れない。どうも、この世界の料理は全体的に薄味で、地球の料理が恋しいのだ。
「それで、材料はなんじゃ? 簡単に揃うものであろうな?」
「もちろん! 油と、酢と、卵だよ!」
「なるほど、簡単に揃うな! さっそくフェレスに作らせてみよう、味次第では大量生産もやぶさかではないぞ」
おお、なんと頼もしい答え! がぜん希望がわいてきた。
マヨネーズ量産のあかつきには、味の濃い料理をガツガツ食べてくれるわ。
そうだなあ、たとえばチャーハン! マヨネーズ入りのチャーハン作ろう。あれなら俺でも作れる。
そんなことを考えていると、アエスタがフェレスを連れて、台所から戻ってきた。
「はい、まずはサラダですよ。今日は奮発して卵ソースを作りましたからね、たっぷり食べてください!」
「おお、かたじけない。姉上の手料理、ありがたく頂くとしよう」
そんな姉妹のやり取りと共に、回されてきた器には――白くて、トロッとした調味料がかけられた、サラダが乗っていた!
「たまご、そーす?」
「ん? どうしたのじゃ、リュウセイ」
フェレスの持つバスケットからフォークを抜き取り、おそるおそるサラダに突き立てる。
――シャクッ、シャキ、シャキ……
「おいケダモノ、お姉さまより先に食べ始めるとは、いい度胸ですね」
「そう言えばリュウセイさん、異世界から来たんでしたっけ。初めて食べる味だったりしますか?」
「まさか」
エリスが、頬を引きつらせて聞いてくる。
「リュウセイ、もしやお主の言う『まよねーず』とやらは……」
「これだよ! マヨネーズ! ちょっと味薄いけど、うん、マヨネーズだよ!」
俺とエリスは、脱力してテーブルに顔を突っ伏した。なにも知らない後の2人が、追い打ちをかけてくる。
「リュウセイさん、卵ソースが食べたかったんですか!? なら、もっと材料を買ってきましょうか?」
「卵ソースなんて、救済小屋でもお金のあるときは食べていたのに……ケダモノの住んでた世界って、卵が高かったんですか?」
やがて、エリスが俺の肩を優しく叩いた。顔を上げると、まるで女神のような慈愛にあふれた笑顔があった。
「リュウセイ、その、気を落とさずにな?」
「違う! 違うんだ! そんな目で俺を見るな! うわあぁぁあん!!」
俺はマヨネーズの味が消えたフォークをかじりながら、部屋の隅で、ひとり泣いた。




