表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/56

25 暴走魔法とお買い得品・前編

神様から書いた文字が具現化するルーンマスターの能力を授かった主人公・リュウセイは、魔法が勝手に発動するため、小説家になれないと知って絶望していた。

そこで彼に恩のある令嬢・エリスは、獣人の侍女・フェレスと共に、魔法を制御する方法を探そうとしていた――

 次の日、俺はエリスに連れられて外に出た。俺が寝かされていたログハウスは、てっきり森の中にあるのかと思ったら、すぐそこに普通の民家があった。

 意外だな、と口にすると、街の中なんですからお店も近いですよ、とフェレスが補足してくれた。

 ギルドマスターのジイさんは、仕事があるからと先に帰っている。


 深呼吸すると、初秋の空気が肺を満たした。まだ日差しは暑く、服も半袖(はんそで)で間に合うくらいだ。時折、涼しい風が吹いてきて、肌に心地良い。

 しかし、すぐに馬のいななきと、ガラガラという車輪の音が聞こえてきた。


「どこへ行くんだ?」

「うむ、これから馬車に乗ってのぅ、少し遠出をしてもらう。お主と出会ったのが街の外を東側に行ったところ。今から行くのは、その逆で西側じゃ」

「街の外? 何をしに行くんだ?」


 するとエリスは、バカ者、と閉じた扇で俺のおでこを叩いた。


「お主のルーン魔法のことじゃ。お主の話では暴走することがあるそうじゃが、白虎のおじ上の話では制御できている様子だ、とも言う。そこで、どちらが正しいのか確かめに行くのじゃ」

「なるほど、街の外なら暴走しても誰かの迷惑にならないもんな!」

「それに一石二鳥だしのう」

「ん? 何か言ったか?」


 エリスはニヤニヤ笑って答えない。最後に彼女が呟いた言葉は、よく聞き取れなかった。


 馬車は4人掛けの座席で、2人ずつ向かい合って座るようになっていた。まず後方奥の席にエリスが座り、隣にフェレスが座って腕に絡みつく。俺が前方の席に座ってドアを閉めると、馬車はゴトゴトと出発した。


「さてリュウセイ。目的地に着くまでの間、ルーン魔法の基礎について解説しておこう。この世界のことは、なにも知らないのであったな?」


 そうだ、と俺がうなずくと、エリスはうなずいて解説を始めた。


「ルーン魔法には5つの属性がある。木、火、土、金、水。総合して木火土金水(もくかどこんすい)と呼ぶこともある。これは良いか?」

「ああ」

「これに古代より伝わる特別な紋章を加えたものを、ルーン文字と呼ぶ。逆に、5つの属性に含まれない文字を単独で書いても、魔法的な効果は生じない。それでも全ての文字は大切なものとして、娯楽に使われることはない。まあ、これは以前に話した通りじゃ」


 馬車が速度を(ゆる)め、止まった。どうやら関所に着いたらしい。御者が役人と会話しているのが聞こえてくる。

 気にせず、エリスは話を続ける。


「さて、ルーン魔法にはエンチャントとクリエイトの2種類がある。思うに、お主が暴走させるのはクリエイトで、エンチャントなら制御していると考えられるが、どうじゃ?」

「どういうことだ?」


 馬車が再び出発した。俺は舌をかみそうになって、ちょっと(あわ)てた。エリスは気にした風もなく話を続ける。


「エンチャントは紙以外のモノに文字を書き、それを強化すること。記述者が精神力を消費すると、木火土金水(もくかどこんすい)の5属性に応じた特定の効果を表す。後から変更はできない。文字を消すことで、破棄はできるがのう」


 甘えた猫のように――実際、猫耳が生えているわけだが――頭をすりつけるフェレスを、よしよしと()でてやりながらも、エリスはしゃべるのをやめない。


「クリエイトは紙にルーン文字を書いた場合、本来そこにないモノを生み出す効果じゃ。記述者が精神力を消費して発動するのは同じ。ただ発動させずに待っておくこともできるし、文字を削除するなど、後から変更することもできる。無論、破棄も可能じゃ」

「どうして、そういう仕組みなんだ?」

「それは誰も知らぬ。この世界ができたときより、神が定めたもうた決まりなのじゃ」


 エリスは、子供から「どうして空は青いの?」と聞かれた親のように、苦い顔をして答える。


「さて、お主の言う暴走じゃが、完全に制御不能ではないな? コロシアムで白虎のおじ上と戦ったとき、お主はエンチャントされた武器を意図的に発動させたり、止めたりしていたはずじゃ」

「いや、控室で暴走したよ? 最初の1回は決まって暴走するんだ」

「なんと!? では、なぜ誰も気づかなかったのだ?」


 なるほど、まだ誰にも説明していなかった。

 セスタスに触発(しょくはつ)と突風の文字を書いたとき、控室では嵐のような衝撃波が荒れ狂った。

 前の日に、ムカつく先輩冒険者と戦っていなければ、俺は生き埋めだっただろう。


「服に無って書いてね、他のルーン魔法を吸収したんだ。無っていう属性は聞いたことない?」

「知りません! お姉さまに向かって、デタラメこいてんじゃねーですよ!」


 イーッと歯を見せてくるフェレスを、落ち着けとエリスがなだめる。


「なるほど。ではエンチャントであれ、クリエイトであれ、書くと即座に発動してしまうということじゃな?」

「ああ。けれど確かに、戦ってる間は制御できていた。最初の発動を封じれば、あとは制御できるのかも知れない」


 いつしか馬車は坂道を上りだしていた。街からはだいぶ離れたはずだが、周囲の木々が伐採(ばっさい)されているところを見ると、道が整備されているらしい。こんな山の中に、なんで道なんてあるんだろう?

 よそごとを考えていると、エリスに「これ!」と呼びかけられた。俺は現実に意識を戻す。


「ちなみに、お主はどこでルーン文字を覚えた? この世界に来るとき、神から知恵を授かったのか?」

「いや、日本語――元々住んでた世界の言葉で書いてる。この世界の文字は、読めるけど、書いたことなかったな」


 するとエリスは、ハロウィンの日の子供のような笑みを浮かべた。


「なるほど。ニホン語とやらを書いたとき、最初の一度に限って強制発動するらしいの。お主、今から妾が教えるゆえ、ルーン文字を書いてみてはどうじゃ?」

「なるほど! この世界の文字を習えば暴走しないかも知れない!」


 これは思いがけない発見だった。やった、小説家への道に希望の光が見えてきたかも!

 エリスが、バサッと扇を開いて、窓の外を指した。


「ちょうど目的地についたようじゃ。人払いをしてあるゆえ、思う存分、ルーンマスターの能力を使うがよい」


 つられて外を見る。見渡す限り砂利(じゃり)が広がっている。奥のほうには鉱山の入り口のようなものが見えた。

 ――なんだろう、ここ廃鉱なのかな?

 少し気になったが、浮かれていた俺は、意気揚々(いきようよう)と馬車を降りたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ