24 そして役者は揃う
神様から書いた文字が具現化するルーンマスターの能力を授かった主人公・リュウセイは、謎の2人組に襲撃を受ける。
激闘の末、相手を戦闘不能にしたものの、リュウセイもまた気絶してしまった。
そんな彼を助けたのは、冒険者ギルドのマスターと、偶然知り合った宰相の娘・エリスだった――
エリスが連れてきた「白虎のおじ上」は、なんのことはない、冒険者ギルドのマスターだった。彼は俺を見ると、よお、と片手を挙げて挨拶した。
「目を覚ましたか、若いの」
「ジイさん! どうしてここに?」
「ティグレン殿は、父上と旧知の仲での。リュウセイが野盗から助けてくれた後から、ずっと相談に乗ってもらっていたのじゃ」
フェレスが椅子を運んできて、エリスとジイさんを俺の隣に座らせた。
席に着くとジイさんは、よっこらせと大げさな声を上げてから、話を切り出した。
「崩壊したコロシアムで、ルーン魔法の撃ち合いをしている者がおると、近所の住民から通報があってな。行ってみると瓦礫の中から赤い光が射していて、お前さんが倒れていたというわけじゃ」
「あっそう」
じゃあ、ジイさんに助けられたってことか。あの、ろくでもない冒険者ギルドに借りができたのだと思うと、ちょっとムカついた。
「なんじゃ若いの。不満そうだな」
「べつに。助けてくれて、どうも」
「2人ともどうした、リュウセイは冒険者ギルドとは仲が悪いのか?」
「べつに」
エリスが心配そうに、俺とジイさんを交互に見やる。ジイさんは、ふぅむとアゴひげをなでた。
「若いの、ワシが気に入らんか?」
「そんなんじゃねえよ」
「構わんぞ。この歳になって、万人に好かれようとは思っておらんからな。ギルドも抜けたければ、抜けていい。ただし!」
ジイさんはズイッと顔を近づけると、低く、有無を言わせぬ声で言った。
「お嬢様を泣かせたくない、という気持ちは共通だろうて。今はワシの話を聞け。いいな」
「お、おう……」
「……話し合いを始めても構わんかの?」
あまりの迫力に俺がビビっていると、遠慮がちにエリスが口をはさんだ。
するとジイさんは目を閉じ、黙ってうなずいた。
「ではワシが調べた限りのことを話すぞ。若いの、お嬢様を狙ったのは奴隷賛成派の連中じゃ」
「奴隷賛成派?」
なんだ、また歴史の教科書に載っていそうな言葉が出てきたぞ……。
「状況証拠しか無いがな。宰相殿は、この国の工業生産を増やそうと考えておられる。だが、そのためには奴隷たちに高度な技術を伝えねばならん。ここまでは良いな?」
「ああ」
「だが、奴隷商たちは商売ができなくなってしまう。そこで彼らは奴隷制存続のために、魔法連盟に助力を求めた」
「魔法連盟? どうして魔法使いが奴隷を欲しがるんだ?」
俺が目を丸くすると、エリスが代わりに説明を始めた。
「リュウセイ、この街で『文字が書ける』ということは、それだけで商売になる程の技術なのじゃ。魔法連盟はそれを、半ば独占することによって利益を得てきた」
「文字を、独占……」
「しかし父上の考える工業化が実施されてみよ。機械を――純粋にカラクリ仕掛けのものから、ルーン魔法が仕込まれたものまで色々あるが、いずれにせよ――使いこなすには説明書を読まねばならん」
「あっ」
「つまり、この街の識字率が上がってしまう。そうすれば、魔法連盟は己の優位を失ってしまうのじゃ」
待て! 俺は両手で待ったをかけると、今の言葉の理解につとめた。おそらく、この街は奴隷商と魔法使い、それに農業の既得権益で回っている。
背筋を寒いものが駆け上がった。奴隷解放。識字率の上昇。聞こえは良いが、エリスの父は現状を、自分に都合の良い方向へ転覆させようとしているのではないか。
だとすれば、この先、待ち受けているのは単純な悪党だけではない。こちらと違う価値観を持った、ある意味で正義の味方たちではないのか?
その場にいる全員が、俺に視線を注いでくる。
やめろ。俺を見ないでくれ。そんな大事なこと、ノリで決められるほど能天気じゃない!
不意にエリスが立ち上がると、いたずらっ子の表情で俺に密着してきた。
つつっ、と指先が俺の頬から顎先までをなぞる。
「ひうっ!? エ、エリスさん、一体なにを!?」
「のう、リュウセイよ。これは、お主にとっても良い話ではないのか?」
「俺にとって? どうして?」
「小説家とやらになりたいのであろう? ならば、文字を読める人間を増やさねば、商売にならぬのではないか?」
……言われてみれば!
さらにエリスは俺の顔を両手ではさむと、まっすぐに目を見つめて言った。
「リュウセイ、なぜ夜中に1人で妾の守り刀を探しに行った?」
「それは……あのギルドの連中を頼りたくなくて……」
「なればこそ、妾を頼れ! リュウセイ、もう1人で夜中に探し物をするな。周りを頼って、昼間にやれ。お天道様の下なればこそ、見つかるものもあろう」
「……俺は、」
――リュウセイくんは、どんな話が書きたい?
今ならその答えが言える気がする。
「俺は、」
「なぁにをモタモタしてるんですか!」
フェレスが、俺の頭をスリッパで叩いた。さらにエリスを俺から引き離して、ほっぺたをスリスリする。
「お姉さまがこんなに頼んでいるのに、なんで断るんですか!? 信じられない!」
「断ってないだろ! やるよ、俺も仲……仲間に入れて、くれ……」
口に出してみると恥ずかしくて、語尾が弱々しくなってしまった。
「決まりじゃな」
エリスが、満面の笑みを浮かべた。きっと、俺も同じ表情をしていたのだろう。フェレスが口をとがらせた。




