表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/56

24 そして役者は揃う

神様から書いた文字が具現化するルーンマスターの能力を授かった主人公・リュウセイは、謎の2人組に襲撃を受ける。

激闘の末、相手を戦闘不能にしたものの、リュウセイもまた気絶してしまった。

そんな彼を助けたのは、冒険者ギルドのマスターと、偶然知り合った宰相の娘・エリスだった――

 エリスが連れてきた「白虎のおじ上」は、なんのことはない、冒険者ギルドのマスターだった。彼は俺を見ると、よお、と片手を挙げて挨拶(あいさつ)した。


「目を覚ましたか、若いの」

「ジイさん! どうしてここに?」

「ティグレン殿は、父上と旧知の仲での。リュウセイが野盗から助けてくれた後から、ずっと相談に乗ってもらっていたのじゃ」


 フェレスが椅子(いす)を運んできて、エリスとジイさんを俺の隣に座らせた。

 席に着くとジイさんは、よっこらせと大げさな声を上げてから、話を切り出した。


「崩壊したコロシアムで、ルーン魔法の撃ち合いをしている者がおると、近所の住民から通報があってな。行ってみると瓦礫(がれき)の中から赤い光が射していて、お前さんが倒れていたというわけじゃ」

「あっそう」


 じゃあ、ジイさんに助けられたってことか。あの、ろくでもない冒険者ギルドに借りができたのだと思うと、ちょっとムカついた。


「なんじゃ若いの。不満そうだな」

「べつに。助けてくれて、どうも」

「2人ともどうした、リュウセイは冒険者ギルドとは仲が悪いのか?」

「べつに」


 エリスが心配そうに、俺とジイさんを交互に見やる。ジイさんは、ふぅむとアゴひげをなでた。


「若いの、ワシが気に入らんか?」

「そんなんじゃねえよ」

「構わんぞ。この歳になって、万人に好かれようとは思っておらんからな。ギルドも抜けたければ、抜けていい。ただし!」


 ジイさんはズイッと顔を近づけると、低く、有無(うむ)を言わせぬ声で言った。


「お嬢様を泣かせたくない、という気持ちは共通だろうて。今はワシの話を聞け。いいな」

「お、おう……」

「……話し合いを始めても構わんかの?」


 あまりの迫力に俺がビビっていると、遠慮がちにエリスが口をはさんだ。

 するとジイさんは目を閉じ、黙ってうなずいた。


「ではワシが調べた限りのことを話すぞ。若いの、お嬢様を狙ったのは奴隷賛成派の連中じゃ」

「奴隷賛成派?」


 なんだ、また歴史の教科書に載っていそうな言葉が出てきたぞ……。


「状況証拠しか無いがな。宰相(さいしょう)殿は、この国の工業生産を増やそうと考えておられる。だが、そのためには奴隷たちに高度な技術を伝えねばならん。ここまでは良いな?」

「ああ」

「だが、奴隷商たちは商売ができなくなってしまう。そこで彼らは奴隷制存続のために、魔法連盟に助力を求めた」

「魔法連盟? どうして魔法使いが奴隷を欲しがるんだ?」


 俺が目を丸くすると、エリスが代わりに説明を始めた。


「リュウセイ、この街(ジャルダン)で『文字が書ける』ということは、それだけで商売になる程の技術なのじゃ。魔法連盟はそれを、半ば独占することによって利益を得てきた」

「文字を、独占……」

「しかし父上の考える工業化が実施されてみよ。機械を――純粋にカラクリ仕掛けのものから、ルーン魔法が仕込まれたものまで色々あるが、いずれにせよ――使いこなすには説明書を読まねばならん」

「あっ」

「つまり、この街(ジャルダン)識字率(しきじりつ)が上がってしまう。そうすれば、魔法連盟は己の優位を失ってしまうのじゃ」


 待て! 俺は両手で待ったをかけると、今の言葉の理解につとめた。おそらく、この街(ジャルダン)は奴隷商と魔法使い、それに農業の既得権益(きとくけんえき)で回っている。


 背筋を寒いものが駆け上がった。奴隷解放。識字率の上昇。聞こえは良いが、エリスの父は現状を、自分に都合の良い方向へ転覆(てんぷく)させようとしているのではないか。

 だとすれば、この先、待ち受けているのは単純な悪党だけではない。こちらと違う価値観を持った、ある意味で正義の味方(、、、、、)たちではないのか?


 その場にいる全員が、俺に視線を注いでくる。

 やめろ。俺を見ないでくれ。そんな大事なこと、ノリで決められるほど能天気じゃない!


 不意にエリスが立ち上がると、いたずらっ子の表情で俺に密着してきた。

 つつっ、と指先が俺の(ほほ)から顎先(あごさき)までをなぞる。


「ひうっ!? エ、エリスさん、一体なにを!?」

「のう、リュウセイよ。これは、お主にとっても良い話ではないのか?」

「俺にとって? どうして?」

「小説家とやらになりたいのであろう? ならば、文字を読める人間を増やさねば、商売にならぬのではないか?」


 ……言われてみれば!

 さらにエリスは俺の顔を両手ではさむと、まっすぐに目を見つめて言った。


「リュウセイ、なぜ夜中に1人で(わらわ)の守り刀を探しに行った?」

「それは……あのギルドの連中を頼りたくなくて……」

「なればこそ、妾を頼れ! リュウセイ、もう1人で夜中に探し物をするな。周りを頼って、昼間にやれ。お天道(てんとう)様の下なればこそ、見つかるものもあろう」

「……俺は、」


 ――リュウセイくんは、どんな話が書きたい?

 今ならその答えが言える気がする。


「俺は、」

「なぁにをモタモタしてるんですか!」


 フェレスが、俺の頭をスリッパで叩いた。さらにエリスを俺から引き離して、ほっぺたをスリスリする。


「お姉さまがこんなに頼んでいるのに、なんで断るんですか!? 信じられない!」

「断ってないだろ! やるよ、俺も仲……仲間に入れて、くれ……」


 口に出してみると恥ずかしくて、語尾が弱々しくなってしまった。


「決まりじゃな」


 エリスが、満面の笑みを浮かべた。きっと、俺も同じ表情をしていたのだろう。フェレスが口をとがらせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ