21 コロシアム跡地での死闘
神様から書いた文字が具現化するルーンマスターの能力を授かった主人公・リュウセイは、偶然助けた宰相の娘エリスと行動を共にすることにした。
リュウセイがもらった短剣を失くしたことを告白すると、大事な紋章が書かれたものだから回収するようにと言われる。仕方なく以前崩壊させたコロシアムの跡地に来たリュウセイだったが、何者かが待ち伏せていた――
星が綺麗な夜だった。転生前、日本の都心部では見られなかった煌めきが、空一面を彩っている。チカチカまぶしすぎて気持ち悪いくらいだ。
月は――この世界にも新月という概念があるのだろうか――出ておらず、足元がおぼつかない。ランタンのかすかな明かりを頼りに、俺はコロシアム跡地の瓦礫の上を、ヨタヨタ歩き回っていた。
俺が歩いている下は、戦士たちの控室があった場所で、復旧作業もここを中心に行われた。下に大量の――由緒ある――武器が埋まっているからだ。
何重にも倒れ、重なっていた石組みは取り除かれ、もう少しで武器が掘り出せる場所まで来ている。だから俺は、靴の裏に「金属探知機」と書いてきた。武器は一部屋にまとめて置かれていたから、一度見つけたら「触発」のセスタスで爆破し、まとめて掘り返すつもりでいた。
――カツン。
足元で小さな音がした。最初は、瓦礫を蹴ってしまい、音が立ったのかと思った。
だが違う。「ピーピーピー!」と「金属探知機」の文字が反応を示している。カツンという音を立てたのは、金属だ。
「武器は、この辺か?」
俺はランタンを足元に置くと、慎重に音の発生源を見極めようとした。
後から思えば、俺の行動はのんき過ぎた。コロシアム跡地は、夜間人気がないだけで、現代っ子の俺ですら入ろうと思えば入れてしまうのだ。
カツンという音は、下から金属が出てきたのではなく、上から金属が降ってきた音だと気づくべきだったのだ。この油断が、敵に大きな隙を晒してしまった。
俺は屈みこみ、金属片を拾い上げた。それはダートとかクナイと呼ばれる類の、鉄製の凶器だった。
――ガチャン!
「何!?」
地面に置いたランタンが割られる。2発目のダートがランタンを割り、炎を消したのだ。明るさに慣れていた目は、周囲の暗さに適応できず――新しい文字を書くことができない!
まずい。俺は左手にはめたセスタスの「突風」の文字を発動させる。ダートが飛んできたと思える方向へ、でたらめに風圧を押し付ける。
しかし、それは突如、空中に現れた金属製の傘によって吹き散らされた。
さらに、傘は俺めがけて飛んでくる。とっさに右手の「触発」のセスタスで受け止め、弾こうとした。しかし右手から生まれた衝撃波は思ったより弱く、セスタス自体が破れてしまった。
「突風のルーン……木属性の使い手に間違いないな」
「諦めろ、木のない場所で大したルーンは使えん。石が豊富なこの場所で、我々、金属性の使い手に勝てるわけがないのだ」
なんだ、こいつらは!? 俺を殺す気で来ている……殺気が痛いほど伝わってくる。
目くらましにしようと、足元を「突風」のセスタスで殴った。大量の砂ぼこりが舞い上がる。これが刺客から俺の姿を消してくれることを期待した。
だが現実はそう甘くなかった。
「まずは足を封じる」
砂ぼこりを引き裂いて、ダートが飛来したのだ! その先には「鋲」と書かれた紙が刺してある。それは足元の瓦礫に接触すると、まきびしのような鉄製のトゲを大量に発生させた。
「マジかよ、なんで石から金属が生えてくるんだよ――!?」
悪いことは重なる。「金属探知機」がピーピーと音と立て、俺の居場所を相手に教えてくれたのだ。
ザッザッと足音が近づいてくるのが聞こえる。連中、さっき金属性の魔法がどうの、と言っていた。ギルドマスターがやったように、トドメは近距離から武器で刺すつもりなのだろう。
自分でも、顔から血の気が引くのが分かる。俺の強さはルーン魔法あってのもの、接近戦では分が悪い。どうする……ここは控室の上……潰れた控室の上!
「いっけえ! ありったけの突風!」
俺は左手のセスタスを、トゲトゲの地面に叩きつけた。露出している指の部分にトゲが刺さり、血が出るが構っていられない。
わずかに、その場を静寂が支配した。
「バカめ、無駄なあがきを……!?」
一瞬遅れて、足場が崩れた。おそらく廊下の跡か何かが空洞になっていたのを、俺が潰したのだろう。
「うあっ……!」
暗い中、足を取られて転げ落ちる。あちこちに打ち身を作りながら、下を目指す。
そう、コロシアムが崩壊した日、控室には紙と鉛筆を置いてきた。俺にとって武器になりそうなものは、それくらいだ。
書くのは自分の名前。「天草龍生」と書いて、ドラゴンを召喚して勝つ! 暗い中で、素早く正確な文字が書けるかは不安だが、これが俺に思いつく精一杯の戦術だった。
そして――1枚の紙が、潰れた木製の戸棚の中から、はみ出しているのが見えた。
ついているぞ、エリスにもらった短剣も顔をのぞかせている。あれで指先を切って血文字を書こう。
だが、敵はそんな悠長な行動を許してはくれなかった。
右肩に熱い感覚が走る。ダートが肩口を切り裂く。血飛沫がエリスの短剣に描かれた、紋章を赤く汚した。
口から悲鳴がほとばしる。痛くて先に進むどころではない。
仰向けになると、フードを深くかぶった2人の男が、刀を振り上げるところだった。
「トドメだ」
死ぬのか。俺は。こんな面白そうな人生の途中で、訳もわからず死ぬのか。
ふざけるんじゃない。死ぬのはこいつらだ。殺すのは俺だ。そのための武器を、手に取るんだ!
自由な左手を伸ばし、エリスの短剣をつかむ。俺の血で濡れた紋章が、手のひらに赤く反対写しの文様を描く。
次の瞬間、俺の体を白い光が包み込んだ――!




