20 お前、そういう趣味だったのか……
神様から書いた文字が具現化するルーンマスターの能力を授かった主人公・リュウセイは、小説家になると自分の能力が周囲に被害を出してしまうことに気づく。
希望の職業に就けないことに絶望しつつ、偶然知り合った宰相の娘、エリスとアエスタを狙う者に対処するため、三人で話し合いを始めたのだった――
それから俺たち三人は、互いのやるべきことについて話し合った。
小説家になりたいという話は、一旦忘れることにした。エリスとアエスタ――宰相の娘たち――を狙う連中のことも気になったし、自分の身の振り方も考えねばならなかった。
まずアエスタは異動に備え、私物をまとめる作業と後任者への引き継ぎ。
そして俺は当面、冒険者ギルドにお世話になることにしたのだが――大きな宿題を出されてしまった。
「たしかに、あれはお主に授けたものだ。どうしようがお主の自由だがな」
「ハイ、スミマセン」
「宰相ブローディア家の紋章が入った守り刀を、失くす愚か者がいるとは思わなんだ」
「ハイ、スミマセン」
「あの紋章の威光は、街に入ったとき分かったであろう? 異世界から来たとは言え、なぜ使おうと思わなかった!?」
「俺、人に頼るのって苦手で……」
「しかも失くした理由が『コロシアム崩壊に巻き込んだせい』じゃと!? 無茶苦茶にも程があるぞ!」
「はい、すみませんでしたーっ! なんとか見つけてきます!」
そう。エリスと出会ってすぐ、街に入ろうとして検問に引っかかったとき、通行手形の代わりにと彼女がくれたのが、紋章入りの短剣だったのだ。
すごいものなのは分かっていたが、イマイチ使いどころが分からず――分かるようになる前に、色々な事件に巻き込まれたとも言えるが――人に見せないように、背中に隠すように持ち歩いていたのだ。
今頃は……ギルドマスターとの戦いで崩壊した、コロシアムの瓦礫の下であろう。どうやって探せばいいだろう?
「そもそもブローディア家の紋章は、神の御使いである、獅子の頭を持つ戦士の姿。その由緒をたどれば神話にまでさかのぼり――」
「ハイ、スミマセン……ん?」
上目遣いにエリスを見上げた俺は、しゃべっているのが別人だと気づいて、目を丸くした。
いつの間にかエリスの隣に猫耳娘のフェレスが陣取り、頭を下げた俺に向かって説教を始めていたのだ。
「ちょ、ちょっと待て。フェレス、お前、奴隷オークションで契約が無効だって言われてたよな? なんでエリスの隣にいるの?」
「なんで? 私はお姉さまの愛の奴隷となったのです。おそばに控えているのは当然ではありませんか」
「はあ!?」
さらっと、とんでもないこと言い出したぞ。この娘、こんな趣味してたのか!?
俺があっけに取られていると、フェレスはぐいっと人の鼻を指で凹ませて、こう告げた。
「元はと言えば、このケダモノがお姉さまとくんずほぐれつしているのが悪いのです。本来ならお姉さまを汚す不届きな両手、この場で切り落としてやりたいところです!」
「ケダモノってなんだ!? スケベなのはエリスのほうだし、獣人なのはお前のほうだろ!」
頭をわしづかみにして引きはがす。するとフェレスは、ふんと鼻を鳴らして偉そうに宣言した。
「ケダモノではありませんわ。私、ネコですから!」
――ひゅうぅ……
扉から吹き込むスキマ風が、寒々しい音を立てた。
こほん、とエリスが咳払いをする。
「フェレス。ええと、リュウセイも反省しているようだから、そのくらいにしておけ。とにかく、守り刀は探しておくのだぞ」
「エリス、あなたはどうするの?」
「私は父上の元に戻る。姉上のこと、リュウセイのこと、ご報告せねばならぬことがたくさんできた」
そして、俺の耳元に口を近づけると、こうささやいた。
「お互い、楽しくなりそうじゃの?」
「フヒェッ!?」
温かい吐息が耳元をくすぐる。俺は思わず悲鳴を上げた。
「お姉さま!」
「よしよし、怒るなフェレス。それでは、三日後に会おう!」
かくして少しの間、俺たちは別行動を取ることになった。




