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14 真のヒロイン登場です

神様から書いた文字が具現化する能力を授けられた主人公リュウセイは、修道女アエスタの頼みで、自ら奴隷となった少女フェレスを捜していた。

売られてしまうなら、せめて自分たちで買い取ろうと主張するアエスタだったが、リュウセイは裏にからくりがあると判断し、オークション会場の偵察を強行した。

「ここから先は立ち入り禁止です。他のお客様のご迷惑となりますので、開場までお待ちください」

「痛てぇ!」


 屈強な大男は慇懃無礼(いんぎんぶれい)な口調で断ると、ポイ、と猫でも投げるかのように俺を投げ捨てた。

 オークション会場の床に尻もちをついてしまい、腰が痛む。

 騒ぎを聞きつけたのか、アエスタが呆れ顔で寄ってきた。


「何やってるんですか、リュウセイさん」

「なぜだ、完璧な作戦だったはずなのに……」

「作戦って、その頭に乗せた折り紙がですか?」


 アエスタは白けた顔で俺を(にら)む。そう、折り紙で折った(かぶと)に「石ころ」と書いて、頭に乗せてみたのだ。

 これで俺の存在は、石ころみたいに無視されるようになるんじゃないかと思ったのだが……

 頭に違和感を覚える。兜を振ってみると、石ころが1つゴロリと出て来た。


「くそっ、融通の利かない文字め!」

「リュウセイさん。文字書き(ルーンマスター)の力は一度忘れましょう。何か他に、潜入の役に立つものはありませんか?」

「役に立つもの……うーん」


 苦し紛れに辺りを見渡す。すると、会場の入り口でわあっと歓声が上がるのが聞こえた。

 ――なんだろう?

 ひょいと背伸びをしてみると、なんと人垣(ひとがき)の向こうに見知った顔を見つけた。


 褐色肌の少女。長い白金の髪。瑠璃石から削り出したような、蒼い瞳。

 今日はワンピースに組み(ひも)や宝石をちりばめた、古代エジプトの王族のような服とハイヒールを合わせている。


「アエスタさん、俺、いい考えが浮かんだから! 打ち合わせ通りにやってよね!」

「えっ!? あ、ちょっと!」


 俺はアエスタをその場に残し、人混みに逆らいながら、少女の元へと駆け寄った。


「エリス! 俺だ、覚えているか!?」

「おお? お主は!」


 エリスは俺に気づくと、場が華やぐような笑みを見せてくれた。

 オークション会場の係員が、俺の扱いに困ったらしく、エリスに問う。


「お嬢様、この者は……?」

(わらわ)の恩人じゃ。共に通せ」

「かしこまりました」

「さ、共に参ろうぞ」


 エリスは靴音高く、さっき俺が追い出された立ち入り禁止のドアを越えてゆく。今度こそ俺も足を踏み入れた。


 立ち入り禁止になっていたのは、商品となる奴隷たちの控室だった。俺たちの他にも、幾人もの商人が忙しく歩き回り、奴隷の状態チェックや資金の運び込み、展示方法の打ち合わせなどを行っている。

 なるほど、これじゃあ邪魔になるな。開場まで入るなと言われたわけだ。


 いつの間にか俺と歩調を合わせたエリスが、すっと体を寄せてきた。ふわり、(みつ)のような香りが俺を包む。その甘さに一瞬、意識を失いかけた。


「妾の勘が当たったようじゃの」

「――え?」

「『お主とはまた会える』と申したはずだの?」


 エリスは扇で口元を隠し、いたずらっ子のように笑って見せた。


「お互い、自己紹介がまだだったの。お主、名前は?」

「リュウセイ。天草(アマクサ)龍生(リュウセイ)

「左様か。妾はエリス。エリス・デル・ブローディア。以後よしなに」


 エリスはそう言うと、何かを探るかのように、俺の顔をじっと見てきた。


「な、なんだよ?」

「ふむ。思ったより反応が薄かったので、つまらぬだけじゃ」


 そう言うなり、パチンと扇を閉じて、プイとそっぽを向く。ころころと表情が変わって、見ていて飽きない子だなと思った。


「それで? 今日は何をしにここへ来た?」

「大切な人の役に立ちたくて――フェレスという獣人の子供を捜している」

「……!」


 そう告げた途端、エリスは目を見開いて固まっていた。それこそ、大きな瞳がこぼれ落ちてしまうのではないかというほどに。

 既視感(デジャヴ)を覚えて呼びかける。


「エリス――?」

「あっ? ああ、すまん。実は妾も、大切な人のためにここへ来たのだ。これ、案内人よ」

「はっ」


 革鎧を着た、いかついオッサンが進み出る。


「フェレスという奴隷が売られるそうだが、相違(そうい)ないか?」

「お待ちください」


 オッサンはパラパラとリストをめくる。なんとなく物件を紹介する、不動産屋の営業さんを連想した。


「お待たせしました。確かにフェレスという名前の者は含まれております」

「話がしたい。会えるか?」

「本来でしたら、商品はお見せできませんが……お嬢様のお言葉とあれば」

「えっ!?」


 この展開には、さすがに俺も驚いた。こちらです、と先導するオッサンの後に続きながら、そっとエリスに呼びかける。


「なあ、いいのかエリス? その、お前も競りの前に用事があるんじゃないのか?」

「無礼者。妾は、妾の()したいように為す。いらぬ気遣いは無用じゃ」

「あいたっ」


 エリスに閉じた扇で額を打たれ、俺は黙った。どうも、この世界に来てから感覚が狂う。アエスタといい、エリスといい、理由もないのに優しくしてくれる。

 ズキン、と胸が痛んだ。けれど、それはいつもの虚無感ではなく、どこか心地よい痛みだった。

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