13 潜入開始! 正義のヒーロー!
奴隷商の集まるオークション会場は、商店街から南に離れた場所にあった。ちょうど街に入るための門に近く、捕らえてきた奴隷をその場で売れるように――あるいは街の中央で生臭いやり取りを見ずに済むように――工夫した結果ではないかと思えた。
しかし、俺はどうもこの話が気に食わない。整理してみよう。まず政府が貧民救済のため「救済小屋」という、そのまんまな施設を作った。ここまではいい。
次に俺の先生――のそっくりさん、修道女アエスタが施設長に就任。予算外で孤児たちを保護するようになった。これも分かる。
問題はその次。保護されていた少女フェレスが、自ら志願して奴隷となり、売り上げを救済小屋に寄付すると言い出した。
これがおかしい。まず、自分を奴隷にする動機が分からない。聞いた話によれば、日本で世界史の時間に学んだ奴隷の扱いと、そう大きな違いはないようである。
世話になったアエスタに恩返しをしたいという気持ちは想像できるが、だからと言って奴隷になる契約書にサインなどするだろうか?
どうもこの話には裏がありそうだ。
半歩先を行くアエスタの顔を見やる。ただでさえ薄い唇は、真一文字に引き締められ、並々ならぬ決意が感じられた。
……これはヤバイ。もし、この一件が誰かの仕組んだ罠だとしたら。冷静さを失ったアエスタはカモにされるどころか、裸にひん剥かれるだろう。
俺は彼女の緊張をほぐそうと、適当な話題を振った。
「基本的な質問なんだけどさ、奴隷っていくらぐらいするものなの? 金貨10,000枚とか?」
「金貨!? 銀貨じゃなくて、ですか!?」
アエスタは大きな瞳がこぼれ落ちるのではないかと心配になるほど、目を見開いた。
「普通の人なら金貨10枚もあれば1か月暮らせますよ! リュウセイさん、自分でお金を管理したことないんですか!?」
「ああ、そうなの……ごめんなさい」
あまりの剣幕に、とっさに謝ってしまう。
そして今、知りたくもない事実が判明した。金貨10枚が月収ってことは、日本の金にして約20万ってところだろう?
1枚2万円相当として……ギルドマスターのじじい、俺に金貨10,000枚なんて払う気なかったな! 大方、自分が勝つに決まっているとでも思っていたに違いない。
おっと、そんなことを考えている場合ではない。俺は自分が振った話題に集中した。
「フェレスって子は、ぶっちゃけ、いくらぐらいで取引されると思う?」
この問いかけに、ようやくアエスタは歩くペースを落とした。
「どんなに高い奴隷でも金貨500枚程度です。フェレスはまだ子供ですし、おそらく50枚。高くても100枚以下に収まると思うんですけど」
「ふぅん……ちなみにご予算はいくら?」
「45枚――いえ、48枚です!」
……これは正攻法で競り落とすことは無理そうだ。しかし、ひとつ分かったことがある。この競りを仕掛けた人間は、一回の取引で利益を出そうとはしていない。何か別の“付加価値”を狙って競りを仕掛けている、そう感じた。
アエスタも気づいただろうか?
「あれ……これ、奴隷商の皆さんにとっては少額でも、それなりの値段ですよね。どうして売り上げを救済小屋に寄付するなんてこと許したんでしょうか?」
良かった。どうやら冷静さを取り戻してくれたらしい。Vの字に固まっていた眉が、本来の柔らかなカーブを描いてくれていた。
「あっ、あれがオークション会場です!」
アエスタが指さしたのは前方、右手の建物。裕福そうな人が集まっていくのが見える。係員らしき男が、大声で案内を出していた。
「ご入場の方は、こちらで紙と鉛筆をお受け取りください! 競りの最中は、この紙に大きく数字を書いてください。その時点で支払いの仮契約が結ばれたことになります!」
「アエスタさん、俺ちょっと……」
「はい、何か考えがあるんですね?」
アエスタは、にっこりと花のような笑みを浮かべた。俺の意図を察してくれたらしい。
「……そうだよ。やっぱり先生、笑ってる顔が似合うってば」
「え?」
「ううん、なんでもない! 競りが始まったら、ギリギリまで時間を稼いで!」
「分かりました。リュウセイさんも、お気をつけて」
俺は紙と鉛筆を受け取ると、この競りの裏側を調べるべく、奴隷商の控え室を目指した。




