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9 初任務は最強の敵!?

・これまでのあらすじ

異世界に転生した主人公リュウセイは、転生前に先立たれた先生そっくりの修道女アエスタと出会う。

そして彼女の頼みで、奴隷商から教え子の猫耳娘を買い戻すため、儲かる仕事を求めて冒険者ギルドを訪れたのだった。

「お主か。若くして冒険者に身をやつそうという、変わり者のルーンマスターは」

「変わり者?」


 ギルドマスターと呼ばれたジイさんは、俺の目をじっと見つめてきた。間違ってもアエスタのような優しい視線ではない。ガンを飛ばされている……そう思った。

 ――(にら)み返す! あんなロクでもない冒険者を率いている人間だ、どんな悪人か分かったもんじゃない。俺は、ありったけの殺意を視線に込めた。

 想定外だったのだろう。ジイさんがわずかに気圧されて、のけぞったように見えた。


「それでジイさん。俺に何の用だ?」

「あっ、テメェ! マスターをジイさんとは何事だ!?」

「黙っておれ!」


 外野からの野次を防いだのは、意外にもジイさん自身だった。


「若いの、ワシが気に食わんか?」

「……アンタは関係ないけど……ご親切な(、、、、)先輩連中に、ここの常識が通じない相手がいるってことを見せてやりたいとは思ってますね」

「そうか。しかしワシにはワシのやり方がある。序列を無視して、結果だけを得られては困る」


 要するに俺が先輩連中をシメちまったら、ギルドの序列が崩れて困るってことか。はッ、変なところで日本と変わらないな。

 ところが、俺の予想は意外な形で裏切られた。


「若いの。ワシからの命令を伝える」

「くっ!? また文字が……!」

「最初の仕事だ。ワシと戦え(、、、、、)。場所はコロシアム、勝てば金貨10,000枚だ」


 ――聞いたか。アイツ、マジで死んだぜ。

 さっきまでの野次が嘘のように、静かなヒソヒソ声が飛び交う。空気の読めない俺でも、このジイさんが只者(ただもの)でないこと、戦うには覚悟が必要なことが分かった。

 (つば)を飲み込み、受付嬢のほうを振り返る。


「……ねえ、お姉さん」

「はい、なんでしょう?」

「金貨10,000枚って、奴隷買えるかなぁ?」

「はあ!? 大抵の奴隷なら買えるんじゃないですか?」


 ――何を言いだすんだ、このトンチキは。


 受付嬢の目は、明らかにそう言っていた。

 そりゃお姉さんからしたら、ポッと出のもやし野郎がマッチョじじいに勝てるとは思えないんだろう。だが、俺は何も考えなければ、世界を滅ぼせるほどの力がある。この世界に来て日も浅いが、俺ランクの人間がそうそう転がっているとは思えなかった。


 大通りを北上して、この街の門と逆向きに進む。軒を連ねる商人や、買い物客たちが、ジイさんの顔を見てざわめき、道を開けた。まるで、ちょっとした行列だ。

 不意にジイさんが話しかけてきた。


「若いの。なぜ冒険者に志願した?」

「寝床を探していたら、親切な女の子が冒険者ギルドに行けって教えてくれたんだ」

「はぐらかすな。話は聞いた、お主は高位のルーンマスターだそうだな。青龍を呼べるほどの木属性の使い手、派生で炎も生み出せるとなれば一人前のルーンマスターだ。軍人でも研究者でも、飯の種はあったハズだ。それを断った理由が知りたい」

「そんなことを言われても……」


 俺はただ、優しかった先生そっくりなシスターに泣いて欲しくないから――そしてこの胸を吹き抜けるスキマ風が止むのなら――働こうと思っただけなんだ。

 気づけば、ジイさんは再び俺をじっと見ていた。今度は俺がひるむ番だった。どうしよう、素直に言ったところで信じてくれるようには思えない。


 しばらく考えて、


「女のためさ」


と極力つっけんどんに答えた。

 なんだよ、嘘はついてないぞ。あのシスターが先生そっくりなのがいけないんだ。先生に持っている気持ちは恋愛感情とは違うけれど、とにかく先生のために戦おうとしているんだ。俺は何も間違っていない。

 するとジイさんは破顔一笑(はがんいっしょう)、カラカラと笑い出した。


「なんだよ、笑うなよ。恥ずかしいだろ」

「いや、結構、結構! そのくらいの変わり者であれば、我がギルドに受け入れる価値も出るわ!」


 何か言い返してやろうと口を開きかけて、視界が開けたことに気づいた。道の正面に円形の建物――コロシアムが見えた。

更新が遅くてすみません。

次回は出来るだけ早いうちに書きます。

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