第1話[少年の出会い]
――僕は、怪人に遭った。――
「少年Aよ、この世界は護られる程に価値が在ると思うかい?」
長い白髪を靡かせた喪服の少女が少年に問う。
「・・・そんなの分かんないよ」
詰襟の学生服を着た少年は言葉こそ強気に出ているが、内心では目の前の少女に恐怖している。
と言うのも、先程まで苦手な地理の授業を睡魔と闘いながら教師の話を聞いていた。
前の席では友人が教師に居眠りを正されていた処までは記憶にある。
――その後は?
(嗚呼、そうか)
友人は彼女に殺されてしまったのか。
いや、友人どころかこのクラス――僕以外の全員が皆殺しにされたのか。
と、少年は頭の隅で冷静を装うのと同時に今までの経緯を整理していた。
――殆どは理解しがたい内容ではあるが・・・。
「考えるのを放棄するのか?」
・・・・・・?
どういう事だ?
まだ中学二年生になったばかりの少年は少女の「考える事の放棄」と言う意味が分からなかった。
単にまだ混乱している状態だからというのもあるが、少年は頭の回転が鈍いという欠点があった。おかげでクラスメイトから「鈍い」だの「少し抜けている」だの文句を言う奴らが多い。むしろ、お前らの方が酷い短所が多いぞとこちらも大声で叫んでやりたいが、その文句を言う奴らは少女に殺されてしまった。少し悔しい。
「どうした、少年A。応えないのか?」
・・・いや、こんな状況でそんな事を言われても物凄く困るんだが。
「あの・・・僕は“少年A”なんて名前じゃなくて神社 夜月って言うんですけど・・・」
Aって何だ。どういう意味だ?
「名前など個々を区別するだけのものに興味は無い。この部屋に居た奴らを皆殺しにして生き残った君一人をたちまち“少年A”と呼んでいただけだ。それ以外何がある?」
――・・・成る程、つまりあれだ。この少女にとってぼくは『村人A』となんら変わりがないらしい。・・・自分で解釈して少し凹んだ。我ながら情けない。
「話を戻すよ。少年A、この世界は護られる程に価値が在ると思う?」
最初に訊いてきた時より柔らかい声で少女は少年――夜月に問う。
「・・・あ、あるんじゃないでしょうか?・・・多分」
大分自信が無い答えになってしまった。
いや、しょうがない何せトイレから帰って来たら教室が絵の具でもぶちまけたのかと内心で呟くほどの状態だったのだ。しかも、教卓には教師ではなく――右目から薄ら紫がかった白い花が咲いた美しい人形が随分とグロテスクな頭部の被り物を持っている大惨事が目の前にはあったのだ。
しかも人形だと思っていた美しきそれは動くし、被り物に至っては教師の頭そのものだった。何より少女はその頭をパペットのように口をパクパクさせて、「生き残りを発見!」と裏声で言ってきたのだ。
・・・思い返すと可笑しいところしかないが、夜月を恐怖させるには十分なエピソードだ。
――事前に用を済ませてよかった。漏らす事は無かった。本当によった。
「・・・そうか、君はそう思うんだな。」
――!?何かマズイ事でも言ってしまったのだろうか!?返答が心成しか怖い!
震える足が更に震える。
「ん?何だか産まれたての小鹿のようだ。そんなに震えると筋肉痛になるよ。」
余計なお世話だ!!誰の所為だと思ってるんだコイツはッ!!
「いや、別に君の返答に不満がある分けではない。ただ、彼らと同じ事を言うのかと思っただけ。」
「・・・彼ら?」
「私を使役している政府の事だよ。」
――なんということだ。国のお偉いさん方は僕らを――既にだが、僕以外全員――殺そうとしていたらしい。となると・・・。
「僕も、こ、殺してしまうんですか?」
言葉がおかしくなったが今はそれどころではない。
「予定では。」
実際に頭を鈍器で殴られた事はないが、まるで殴られたような感覚がした。
――どうやら僕達はいらない存在だったようだ。
「あ、勘違いしないで欲しいんだけど。別に『絶対』って分けではないの。ただ、口止めするのがめんどくさいからいっそ『校内大量殺人事件』で隠蔽しようってなってね。」
「全然、意味が分かりません!?」
話が唐突過ぎて分からない!
「えっとね、だからこの校内にいる・・・いや“いた”生徒数名が【怪人】を見ちゃって、その【怪人】を何所かに隠した――まあ手助けしちゃったのよね。あの姿成りだからしょうがないと【上の人間】はいっていたんだけどね。私としてはどうでもいいんだけど。」
「えっと、つまり?」
「『一度、人類を裏切った人間はまた裏切る可能性が非常に高いから即刻処罰すべし』・・・だって。」
夜月の身がぶるりと震えた。
――そも、【怪人】とは「生れながらにして高い戦闘能力と身体再生及び甦生を有した危険な存在であり、それらは別名【花魅人】とも言う。【怪人】は必ず身体の一部に花が咲いておりヒトの社会に溶け込むためにわざと花を萎ませ、“擬態”を行う」
「“擬態”とは【怪人】の特殊機能であり所謂カメレオンやハナカマキリと同じヒトを捕食する他、人間社会に馴染みその身を隠すことで今日を生きている」
そして――それらは皆、至上の“美”を宿した女人である。




