009 0歳児の憂鬱3
とりあえず、世の情勢は大まかには把握できた。
となると次に気になってくるのは、身近な事柄となる。
(……先程から姉上がこちらをずっと見ているな)
「大丈夫ですよ。こちらの声は届いていません。魔王さんの正体についてはばれていないはずです。でも、行動には充分気をつけた方がいいですね」
三つ子の姉であるユニは、自分の弟と妹を構いたくて仕方がないらしい。未だにレオがほとんど体の自由が利かないのに対し、ユニは隙あらば小さな両手で縦横無尽に他人を弄ろうとする。特に被害にあっているのが妹のヒヨであり、姉に頬を執拗に突かれて大泣きし、母親のマリアがあやすというのが一連の流れとして確立されていた。
(姉上も前世の記憶を持ちこしているのだな)
「はい。チュート様からの直通情報ですから確実です。ほぼ破損なく異世界の記憶を所持しているようです。ただ、その内容までは詳しくは判明していませんけど」
つまり、こちらがあちらを観察しているように、あちらもこちらを覗き見ているというわけだ。特にユニの方は、赤ん坊になった上に異世界に飛ばされたわけだから、関心事も尽きないだろう。
今、この赤子の体に異世界の魂を宿した少女は、何を思っているのか。
どのような世界からここに来たのか。
こちらの世界にどのような影響を与えるのか。
そもそも、異世界転生者と同じ家に生まれついたのは、どのような運命の悪戯が働いたものなのか。
この事態は誰にとって計算通りで、誰にとって計算外なのか。
レオにしても、ユニに対してとても無関心にはなれない。
(姉上も、余と同じように、世界の管理者とやらと取引をして生まれ変わったと考えて良いわけかな)
「うーん、それはどうでしょうね。チュート様の同業者の仕業には違いないと思いますけど。愉快犯的に異世界転生者を生み出す方も多いですしね。ただ一方的に、何の事情も一切説明なしで送り込まれてきた可能性も十分あります」
(もし、そうだとするなら苦労が多いことだろうな)
本人が知らぬところで無理矢理こちらの世界に転生されたとするなら、異世界転生者達も被害者と呼べるのではないか。
それはレオが生涯抱えていくことになる疑問の一つであった。
ワイプ「魔王さんは神様と何か取引したんですか?」
レオ「ああ。実はチュートとはウクレレ砲丸投げ事件の後も、色々と話しこんでいてな。そのときに少しな」
ワイプ「え、何かご褒美的なものを貰ったんですか、魔王さん」
レオ「ノーコメント。まあ、それは話す機会があったら、いつか話そう」
ワイプ「むー。思わせぶりですね、魔王さん」
レオ「さて、どうであろうな」