006 弱くてニューゲーム3
(異世界転生者……この姉上が?)
あの勇者と同じ。
世界に仇なす、侵略者。
レオにとっても、特別な響きを持つ存在の一人。
(……それは、だが……)
思考を進めようとして、レオは失敗した。急に気が遠くなってきたのだ。ぼんやりと頭の中に霞がかかっていくのが止まらない。
(……何だ、瞼が重くてたまらぬ……)
「ああ、またお昼寝の時間ですね。赤ちゃんは泣くことと、寝ることがお仕事ですから」
(……寝る? ああ、そうか……)
自分は眠いのだ。
これが眠いということなのだと、レオは知った。
魔族は基本的に睡眠の必要がない。肉体的な面から言えば、一生を不眠不休で過ごすことすら可能だ。不必要なことをやる道理はない。魔王時代のレオも横になることすら稀だった。
(……なるほど、これが休むということか)
「はい。お休みなさい、魔王さん。今はゆっくりと良い夢を見て休んで下さいね」
(夢か……それも見たことがないな)
何となく、楽しみな気もする。
考えるべきことも、やらねばならぬことも、たくさんある。
たくさんあるのだけれど。
手にかけるべき宿敵を横にしながら、レオは抗いがたい根源的な欲求に耐え切れず。心地良いまどろみの世界へと再び足を踏み入れるのだった。
魔王暦九二八年一三月四日。チュートが管理するクロニクルワールドに三つ子が誕生した。
そのうちの一人の名をレオ・リライトと言う。
彼が平和な時間を過ごしている間にも、世界は異世界転生者達によって予期せぬ方向へと絶えず書き換えられている。
そのことを知る者はごくわずか……。
ワイプ「めでたく初感想をいただきましたよ、魔王さん」
レオ「うむ。そうだな。実にめでたい」
ワイプ「大変ありがとうございました。本日は予定を変更してここでお礼申し上げます」
レオ「予定などというものが、この場にあったとは驚きだ」
ワイプ「内容としては、魔王さんのステータスについてのお便りでしたね」
レオ「特には幸運値ぐらいは、もう少しあった方が良いという話だったな」
ワイプ「神様の祝福があっても良かろうと」
レオ「確かにあのステータスを見たときは、余もカルチャーショックを受けたからな」
ワイプ「神様はスパルタですから。獅子は我が子を千尋の谷へと突き落とす的なあれですよ……魔王さんがレオなだけに」
レオ「……まさか、ワイプに初めて名前を呼ばれるのがこの場所だとは」
ワイプ「初感想ですからね!」