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004   弱くてニューゲーム1

「魔王さん、おはようございます。起きて下さい」


 永遠に続くかと思ったまどろみのなか誰かの声に導かれる。耳朶をそっと甘噛みするような優しい囁きがあまりにもくすぐったくて。レオはゆっくりと目を覚ました。


「あ、やっと起きてくれましたね。二回目の人生へ、ようこそです」


 声の主は、蝶と同じくらいの大きさの少女だった。背中の羽根が淡い光を放ちながら、ふわふわと目と鼻の先で浮かんでいる。

 この少女が俗に何と呼ばれる存在なのか、レオは知っていた。

(妖精か。どことなくチュートに似ているな)

「あ、そうですか? へへへ、なんだか照れちゃいますね」

 妖精の少女はこの上ない絶賛を受けたかのように頬を赤く染める。

 もじもじとする小さな姿の向こう側には見知らぬ木組みの天井が見えた。ぼんやりした焦点が、徐々にはっきりしてくる。気になることが色々と目に付くがレオは特に慌てる気にもなれず、必要なことを一つ一つ確認していく。


 魔王流心得の一つ。

 世界征服もそれ以外も小さなことからこつこつと。

 第二の人生でも、指針にしていきたい安心保障の魔王学だった。


(うむ。まずは察するにお主はチュートの使いか)

「はい、そうですよ。私はサポート妖精のワイプと申します。チュート様から魔王さんのお世話を仰せつかりました。まだまだ新米ですが、よろしくお願いしますね」

(うむ。よしなに)

 可愛らしく一礼するワイプに、レオも胸中で返した。

「それでは最初のご報告です。転生プログラムは全て正常に終了しました。今回は特例で魔王さんの記憶情報も持ち越しされています。どこか肉体的な不調や、ご気分が悪いなどの変調はありますか?」

(ああ、そのことなのだがワイプよ――)

「はい」

(先程から喋ろうとしても口が上手く動かないし、体が言うことを聞かぬのだが)

 どうやらどこかの家屋内のベッドで寝転んでいることだけは分かるのだが、起き上がろうとしても指先一つとして自由にならない。別に拘束されているわけでもないのにだ。

 薬物でも盛られたか。何か怪しげな魔法でも施されたか。はたまた肢体不自由の状態異常にでもなったのか。冷静に可能性を分析していたレオだが、ワイプは花が咲くような能天気な笑顔でさらりと解答を明かした。


「それはそうですよ。魔王さん、今は生まれたての赤ちゃんなんですから」


(……)

「ハイハイしたり、片言でも話せるようになるには、まだ少し時間がかかりますよ。だから、今は魔王さんの心の声を念話で読み取って会話しているんです。ああ、ちなみに私の姿や声はデフォでは魔王さん以外に見えないし聞こえないように設定されていますので安心してください」

(……ワイプ、大至急何か鏡になるものを持ってきてくれ。出来るか?)

「はいはいー。それではスクリーンを出しますね」

 ワイプが羽根をはばたかせて円を描いて旋回する。するとその軌跡に合わせて光の膜が現れて宙に浮かぶ姿見となった。

 揺れる光の鏡に、レオは己が姿をまじまじと認めた。

(……覚悟はしていたが、何とも一番恐るべき事態だったか)

 黒髪黒目の人間の赤子が悩ましげな顔をして映っているので、睨めっこしてみた。結果はより変な顔になってドローに終わる。

(しかし、そうか。これが人の子というものか。うむ、何というか……何ともたどたどしく頼りないな)

「魔王さんは前世では超絶美形男子でしたから、きっと今回もイケメンさんになりますよ」

(これが成長すると、前の余のようになるのか? 到底信じられんが)

 顔の話というよりは体の作りの話として、レオにはこんな野生動物のような物体がきちんと知的生命体として活動できるようになるのか果てしなく疑問だった。

「人間の子供はゆっくりと成長していくんですよ」

(そういうものなのか)

「そういうものです」

 生まれつき最強だったレオにはいまいち分からぬ感覚だった。

「ちなみに、今の魔王さんの基本ステータスはこんな感じになります」

 念話によってレオの頭の中へと情報が直接流れ込んでいく。 


 名前:レオ・リライト

 性別:男

 職業:勇者

 装備:なし

 状態:正常

 レベル:1/15

 HP:3/5

 MP:0/5

 筋力値:1/5

 耐久値:1/5

 敏捷値:1/5

 器用値:1/5

 魔力値:1/5

 幸運値:1/5

 所有スキル:なし


(……弱っ)

「まあ、赤ちゃんですからね」




ワイプ「満を持して! 私、初登場です!」

レオ「ああ、この頃のワイプは素直で可愛らしかった」

ワイプ「そんな魔王さん、褒めても何も出ませんよー」

レオ「……それが、こちらでは何でこんな風になってしまったのか」

ワイプ「ははは、照れちゃいますねー」

レオ「最初声を聞いたときには、妖精の歌声を聞いているようだと思ったものだったがなあ」

ワイプ「うん、私は妖精なので間違ってませんけど」

レオ「冗談抜きで、余はワイプの声のおかげで目覚めることができたと思っているぞ。お主の声には何というか、不思議な力がある」

ワイプ「ふふう。さすが魔王さんはお目が高い。私の中の人は優秀ですからね」

レオ「……何だろうな。意味は分からんが、何か台無しな台詞を言っているのだけは分かるぞ」

ワイプ「そう言えば魔王さん、鳥類で生まれた直後に見たものを親だと認識するって話があるじゃないですか」

レオ「刷り込みのことか。それがどうした」

ワイプ「魔王さんが最初に見たのって私の顔になるわけですけど、どうでした? 何か少しでも本能が疼いたりしました?」

レオ「そうだな。何も感じなかったと言えば嘘になるかもしれんな」

ワイプ「おお、意外な御言葉が。魔王さん、ご希望があるなら私のことをママと呼んでもらっても構いませんよ?」

レオ「うむ、ではこれからワイプのことはクソババアと呼ぶことにしようか」

ワイプ「……ごめんなさい、反抗期バージョンはちょっと勘弁して下さい」



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