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001   LV99の魔王が死にました1

「ではではー。チュートちゃんが、転生作業の前にお兄さんの身元を確認するよー。間違いがあったら指摘してねー」


 名前:レオルード・エネミー・ハードモード一三世

 性別:男

 職業:魔王

 装備:魔王の剣、魔王の盾、魔王の兜、魔王の鎧、魔王の指輪

 状態:正常

 レベル:99/99

 HP:999,999,999/999,999,999

 MP:999,999,999/999,999,999

 筋力値:999/999

 耐久値:999/999

 敏捷値:999/999

 器用値:999/999

 魔力値:999/999

 幸運値:999/999

 所有スキル:計9999種(全てレベル99) 

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 死因:勇者に胸を貫かれ死亡

 


 長々と表示されるステータスには一点の間違いもない。


「ふむ、我ながら見事なカンスト具合だ」

 レオルードこと通称レオ(生前は誰も通称で呼んでくれなかったけど)は、とりあえず思い切り偉そうに胸を張ってみた。

 魔王流心得の一つ。

 魔王たる者、常に偉そうに堂々とすべし。

 徹底した魔王学を叩き込まれた彼は、常に魔王たることを忘れないのだった。


「はっはっはっ! なんだい、このデタラメなパラメータ! これでどうやったら死ねるのか本当不思議だよねー。お兄さんったら、うっかりさんだ!」

 レオの横ではチュートと名乗った女の子が笑い転げている。

 頭には光る輪。背中には白い翼。着ているものは何故かアロハシャツに黒ニーソの組み合わせという出で立ち。手にはウクレレを装備。色々な意味でタダモノではない。


 どうやら、ここは本当に死後の世界というやつらしい。

 周りには実に平和な風景が広がっている。

 典型的な南国のビーチ、常夏の楽園である。

 照り付ける太陽、白い砂浜、エメラルドブルーの静かな海は寄せては返すを繰り返す。

 生涯、ほとんど魔王城を出たことがないレオにとってはどれも縁のないものだ。 


「ふむ、チュートとやら。もう一度確認したいのだが」

「うん。何だい、魔王のお兄さん」

「余は本当に死んだのだな?」

「うん、見事に勇者にやられたね。歴代最強の魔王なのに」

「で、ここは死した者が転生するための場所であると」

「うん、お兄さん達の言うところの天国みたいなところかな。命あるものは、魂を次の肉体に移して生まれ変わる。世界はそうやって回っているのさ。こうやって死者の魂の行方を決めるのもチュートちゃんのお仕事なのです」

「となると、そなたはやはり我らが神なのか?」

「うん、チュートちゃんはお兄さんのいた世界の創造主であり管理者をやってまーす! お兄さん達流に言うなれば神様的な存在だね。ひゅーひゅーひゅー!」

「……ふむ」

 チュートは手に持つウクレレをご機嫌かつ下手くそに鳴らす。それは演奏というより、ほとんど騒音の域に達している。

 だが、レオにはそれが何故かとても心地良く聞こえた。

「お兄さんは冷静だね。ここに来る人は皆、大なり小なり騒ぎ出すものだけど。驚かないの?」

「十分驚いている。ただ、昔から顔に出にくくてね。良く何を考えているのか分からないと言われてきたものだ」


 魔王流心得の一つ。

 魔王たる者、どんなにビビッていても内心を悟らせてはならない。

 王とは孤独な生き物なのだ。


「しかし、そうか。余は死んだのか」

 目を閉じる。せっかく死んだのだから、己の過去を順々に振り返ってみることにした。

 

 魔王として生を受け、生まれつき最強の力を授けられた始まり。

 歴代最強の魔王として輝かしい業績の数々。

 魔族内での奴隷制の撤廃に始まり悪しき慣習は廃し、聖域なき改革を繰り返した日々。

 稀代の名君と呼ばれてきた。

 バラバラになっていた部族をまとめ上げ、創り上げた最高の魔王軍。

 戦って、戦って、戦って、勝って、勝って、勝って……。

 誰も彼もが彼についてきた。

 手に入らぬものなど一つもない。叶わぬ望みなど一つもない。

 まさに、大魔王時代の到来だった。

   

 ……やがて、レオは一つの結論に到達する。


「思えばつまらぬ人生だったな」


「あれあれ? お兄さんは、世界で一番偉い王様だったじゃないか。何もかも自分の好き放題に出来たのに、それでも不満なの?」

「そうだ。全てが余の思い通りになった。だからこそ、余は心の底から退屈していた」

 何もかもが自分の思い描いた通りに進む。

 何一つとして予想を超えたことが起こらない。


「果たしてそんな生に何の意味がある?」

 

 レオの生涯の疑問に、あっさりと神を名乗る女の子は答えた。  


「あはは、それは何の意味もないね」


 少女の答えは、妙に腑に落ちた。

 穏やかに晴れ上がった空に、陽気なウクレレのメロディが溶け込んでいく。

 

「でもさ。一つ、お兄さんの思い通りにならなかったことがあるんじゃないかな?」

「ふむ?」

「せっかく人間側との和平政策を進めていたのに、最後には空気の読めない勇者に騙し討ちされちゃったじゃん。これは予想外のことだったんじゃないかな?」

「おお、確かに!」

 ここでレオは初めて子供のように笑った。


「そうだな! 無意味な人生だったが、最後だけはそう悪くなかった。余を見事に討ち取った勇者には惜しみない賞賛の声を送りたいものだ! まさか、脆弱な人間ごときの中に余を凌ぐ者が存在するとは予想もしなかった! ああ、あのような者がいるともう少し早く知っていれば! こうして死してなお、何故、余が負けたのかさっぱり分からん! 彼の者はどのようにして余を打倒したのだろうか? 考えるだけでワクワクするな!」


 今までと打って変わって目を輝かせて興奮冷めやらぬレオを、チュートは変わらずにこにこと見守った。

 

「自分を殺した相手をベタ褒めするなんて、お兄さんは変わった魔王さんだなあ」


ワイプ「ぱんぱかぱーん。魔王さん、『LV99魔王の転生先はLV1勇者で、異世界転生者を狩るのが仕事だと言われたけど、そのためには主人公補正が足りないと思うクロニクル』が始まりましたよー」

レオ「うむ、長過ぎて早口言葉みたいなタイトルだ」

ワイプ「略し方をまず考えた方が良いですね」

レオ「それより、ワイプよ。お主はまだ未登場ではないか。こんなところに出ていて良いのか?」

ワイプ「何を言っているんですか、魔王さん。ヒロインたる私が出なくて、誰が出るっていうんです」

レオ「初耳だな。お主がヒロインだったのか」

ワイプ「むしろ、私が主役といっても間違いではありませんね」

レオ「なんと」

ワイプ「魔王さんは主役というより、語り役的なポジションでどんどん私の活躍ぶりを呟いてください。名探偵に対するワトソン的な感じで」

レオ「名探偵? ワトソン? なんだ、それは? 新しい職業か?」

ワイプ「はー、これだから異世界文化に疎い人は困ります」

レオ「うーむ。世界には余が知らぬことがまだまだあるのだな」

ワイプ「しかし、魔王さんは初登場から落ち着いていましたねー。神様の言葉も普通に聞き入れていましたし。普通、もっと疑ったり騒いだりすると思うんですけど」

レオ「うむ。余は基本的に人の言葉は否定せずに素直に聞き入れることにしている。それが支配者としての度量というものよ」

ワイプ「つまり、いきなり幼女が神様を名乗っても一片の疑惑も抱かずに受け入れると?」

レオ「うむ」

ワイプ「フル装備の勇者が友好的にお茶しに来たと言っても信じると」

レオ「うむ」

ワイプ「……長らく会ってない親類から連絡があって、人を轢いたんで金を送ってと頼まれたら?」

レオ「うむ。無論、すぐさま送る」

ワイプ「……駄目だ、この人。早く何とかしないと」


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