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事の始め
校舎の端にある図書室は行き交う者は沈黙を持っていなければならない。そんな静寂も本というものに好む一因だった。
書というものに魅せられて久しく、彼女は暇さえあれば文字で構築される世界に没頭せいていた。だから朝夕に加えて昼の長い休みもいつもそこに足を向けていた。
そのしんとした空気を破くような上ずった高い声で呼び止められえたとき、嫌な予感はした。
まあ群れずに一人だったことは褒めても良いだろう。その代わり階段を背にして話が始まったときに 不味いなという確信に変わった。いわく、誰某のことをどう。思っているのか。近づかないで欲しいという事を滔々と訴えられてもその誰某すら分からない現状で話が弾むはずもない。
曖昧に頷く態度に苛立ったのか案の定相手が突き飛ばしたと認識した時は既に自分は宙に投げ出されていて、驚いたような被害者ぶった相手の表情と反転した校舎の天井だけが切り取られたように脳裏に焼きついている。
その時予想した身を切るような痛みは最後までなかった。