prologue
空には月が輝き。
眼下に広がる海は,静けさを湛えて。
「……やっと,見つけました」
断崖に立つ存在―女性というには早熟で,少女と呼ぶのは何か憚られる,そんな年頃の―そう,『少女』が振り返る。
「……見つかっちゃいました」
鈴を転がすような声で,笑みをこぼす。
海風になびく長い髪は,月光を受け淡く輝いている。一目でわかる華奢な体を包む服はどこか修道女を想起させ,彼女の
清廉さを際立たせていた。
「……よく,ここがおわかりになりましたね」
「……おや,いやみですか?」
「いえ,純粋に感心しておりますよ?」
与えられる言葉に,返される言葉に心がはねる。それほどまでに待ち焦がれた,追い続けた存在。
ついついまぜっかえしたりするのは,何のとはいわないが,経験不足のほかない。
「やっと,これました」
『少女』が一歩右によけると,そこには―。
「ええ,彼の方もずっとお待ちしておりましたよ」
白い石版一枚,白亜の墓標―。『少女』が供えたであろう華が戦ぐ。
「『お嬢様がお帰りになるそのときまで,この屋敷をお守りすることがわたくしたちの使命なのですから』,これが口癖です」
『少女』はたなびく髪を押さえ,微かに俯く。
「……そう,ですか」
小さく,震える声で。そう呟くのが精一杯だというように,口の端を噛む。
「……遅くなってごめんなさい,ばあや」
「……帰ってきたのですよね,『お嬢さま』」
「貴方様からそう呼ばれるなんて,くすぐったいですね」
「少女」は断崖へと振り返り,その表情はうかがえない。
「……この3年,お捜ししました」
「少女」の背へむけ,語りかける。
「あの方は?」
「……」
「お帰りになられたのですよね?」
「……」
「今までどこにいらしたのです」
「貴方様の役割は,【探偵】なのでしょう?」
ゆっくりと振り返る彼のヒトは,
「そうだというのならば,」
年相応の―無邪気で,純粋で―笑顔を魅せて。
「……解いてみせて?」
誰よりも哀しい存在だと感じた―。