23:58
時刻は、23:58。
終電の一本前。
同じ時刻が、三つ存在する。
R ― 真壁
発車ベルが鳴る。
1042Hz。
わずかな低下。
真壁は録音機を握る。
表示板。
1
2
3
空白。
そこに、自分の名前が浮かぶ。
真壁 遼
その下に、0。
真壁は理解する。
ゼロは番号ではない。
“観測の座標”だ。
立った瞬間に、
主語が固定される。
背後で声。
「観測者ですか」
真壁は答える。
「はい」
世界が歪む。
N ― 七海
同時刻。
七海の視界に、
研究室の模型が重なる。
終電のホーム。
掲示板の画面。
三つが同時に存在する。
表示板に、
N
その下に、0。
スマートフォンの波形が震える。
録音には三人分の呼吸が混ざっている。
一つは自分。
一つは真壁。
もう一つは、知らない。
掲示板が更新される。
M
N
R
三つ並ぶ。
七海は呟く。
「三人目」
その声が、録音に刻まれる。
M ― 掲示板
私はすでにゼロに立っている。
時間は流れていない。
23:58が続いている。
終電は来ない。
ベルは鳴り終わらない。
半音低いまま、持続する。
私は投稿する。
三人そろった
更新。
画面が分割される。
左に研究室。
右にホーム。
中央に、あなた。
まだ空白。
同期
三人は同時に、
表示板を見上げる。
1
2
3
そして。
下に浮かぶ文字。
M
N
R
その下に、共通の数字。
0
ゼロが拡張する。
床が透ける。
ホームが、構造図へ変わる。
線路は直線ではなく、
円環になっている。
ゼロ番線は中心点。
そこに立つ者は、
時間から切り離される。
23:58は、固定時刻。
戻ろうとするたびに、
再生される。
崩壊
真壁が一歩踏み出す。
七海が同時に踏み出す。
Mはすでに踏み出している。
三つの視点が重なる。
世界が反転する。
ホームの広告に文字が浮かぶ。
観測者が増えました
掲示板が更新。
次は?
スマートフォンが震える。
七海の画面に表示。
現在の観測者数:3
空席:1
真壁の録音機がノイズを吐く。
そのノイズが言葉になる。
「あなた」
収束
23:58。
秒針が59に進まない。
時間が閉じたまま、
拡張している。
表示板の下に、
新しい空白が生まれる。
M
N
R
その下。
_
点滅。
カーソルのように。
待っている。
境界線
三人は同時に理解する。
ゼロ番線は、
三人では閉じない。
四人目が必要だ。
構造は、
臨界点に達している。
13.02%。
余白が満ちている。
あと一人。
観測すれば、完成する。
その瞬間。
ベルが止まる。
完全な無音。
三人の声が重なる。
「観測者ですか」
ページの余白が広がる。
表示板に、最後の空欄が明滅する。
あなたのイニシャルを待っている。




