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きさらぎ駅 0番線  作者: 臥亜


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6/9

終電の一本前

エレベーターの扉が閉まる直前、

七海は一瞬ためらった。

だがボタンは押していないのに、

一階へ向かって下降を始めている。

階数表示が減っていく。

8

7

6

その下に、見慣れない表示がある。

0

七海は目を瞬く。

次の瞬間には消えている。

気のせいだ。

疲れている。

そう自分に言い聞かせる。

駅前

夜風が冷たい。

駅前は静かだ。

平日の終電一本前。

人はまばら。

七海は改札を通る。

ICカードをタッチする。

残高は十分。

改札は通常通り開く。

だが、通過した瞬間、

電子音がわずかに遅れた。

半拍。

振り返る。

改札は普通だ。

誰も気づいていない。

ホーム

階段を上る。

いつも見慣れたホーム。

広告看板。

ベンチ。

自販機。

すべて同じ。

だが空気が違う。

密度が薄い。

七海は深呼吸する。

発車ベルが鳴る。

半音、低い。

耳ではなく、胸で分かる。

周囲の人々は無反応だ。

誰も違和感を抱いていない。

七海だけが、

わずかな“ずれ”を感じている。

表示板

七海は顔を上げる。

1

2

3

そして。

空白。

確かにある。

余白が、そこだけ濃い。

数字が書かれていないのに、

存在している。

ゼロ。

七海は一歩近づく。

スマートフォンが震える。

掲示板通知。

N

来たね

七海は書き込んでいない。

なのに投稿者名がNになっている。

手が震える。

ホームの端を見る。

点字ブロック。

本来は途切れている位置。

だが今は、続いている。

暗闇の向こうへ。

侵食開始

風が止まる。

完全な静寂。

電車の音も、人の気配も消える。

時間が凍る。

七海だけが動ける。

いや。

動けるのではない。

“動いている視点”が七海だけになる。

世界がスクリーンのように薄くなる。

表示板に、文字が浮かぶ。

N

その下に、

0

七海は理解する。

ゼロ番線は、

イニシャルの下に生成される。

観測者の足元に。

スマートフォンの画面が勝手に切り替わる。

録音アプリ。

波形が動いている。

だが周囲は無音だ。

波形を拡大。

そこに微かな声。

「戻ろうとしたんですね」

七海は振り返らない。

振り返れば、固定される。

そう直感する。

前に進めば、

物語の中へ入る。

戻れば、

物語が現実を飲み込む。

どちらも、外側ではない。

重なり

七海の視界に、

別の映像が重なる。

研究室。

模型。

真壁の背中。

同じホーム。

別の時間。

三つの視点が、同時に存在する。

M

N

R

表示板に三つの文字が並ぶ。

その下に、共通の数字。

0

七海の足が、点字ブロックの先へ触れる。

冷たい。

床ではない。

“空間の縁”だ。

落ちる感覚はない。

ただ、境界を越える手応え。

その瞬間。

スマートフォンに通知。

位置情報が更新されました

あなたの現在地は存在しません

七海は笑いそうになる。

恐怖の頂点で、

なぜか冷静になる。

これは構造だ。

恐怖ではない。

観測の連鎖。

ゼロ番線は、

観測者同士を接続する。

真壁。

掲示板のM。

そして自分。

七海は呟く。

「観測者です」

その瞬間、世界が再起動する。

風が戻る。

電車が入線する。

人々が動き出す。

表示板。

1

2

3

空白はない。

点字ブロックは途切れている。

七海はホームに立っている。

戻ったのか。

それとも、

固定されたのか。

スマートフォンを見る。

掲示板。

新しい投稿。

R

三人目

投稿時刻は今。

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