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きさらぎ駅 0番線  作者: 臥亜


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4/9

M

最初に気づいたのは、音だった。

終電の一本前。

ホームには三人しかいなかった。

私は柱の陰に立ち、

スマートフォンを見ていた。

発車ベルが鳴る。

半音、低い。

たぶん、気のせいだ。

だがその瞬間、

空気が止まった。

風が消える。

人の気配が、薄くなる。

私は顔を上げた。

表示板。

1

2

3

その下に、

“余白”。

空いている。

何も書かれていないのに、

そこに数字がある気がした。

ゼロ。

口の中で、小さく呟く。

ゼロ番線。

誰も聞いていない。

だが、誰かが知っている。

投稿

私は掲示板を開いた。

昔、よく読んでいた場所。

都市伝説スレ。

書き込み欄に指を置く。

なぜだろう。

「書かなければならない」と思った。

0番線を見た

表示板の下が空いてた

送信。

画面が更新される。

すぐに返信はない。

当然だ。

平日の夜。

だが私は待つ。

待っているあいだ、

ベルが鳴り続けている気がした。

一度しか鳴っていないはずなのに。

返信

数分後。

レスがついた。

どこの駅?

私は書こうとする。

だが、駅名が思い出せない。

毎日使っている駅なのに。

路線は分かる。

色も分かる。

改札の位置も。

だが、駅名だけが抜け落ちている。

喉が渇く。

私は書いた。

わからない

返信。

それ、戻れなくなるやつだぞ

背中が冷える。

戻れなくなる?

どこから?

私はまだホームにいる。

電車は来る。

帰宅できる。

そうだ。

帰宅。

帰宅……?

風が止まる。

完全な無音。

周囲の人間が、動かない。

凍結したように。

私だけが、動ける。

表示板を見る。

今度ははっきり見える。

0

矢印が下を向いている。

床を見る。

点字ブロックが、続いている。

ホームの端。

本来は途切れているはずの場所。

だが今は、

暗闇の先へ伸びている。

私は一歩踏み出す。

スマートフォンが震える。

通知。

掲示板。

戻ろうとした?

私は振り返る。

誰もいない。

ホームは通常に戻っている。

電車が入ってくる。

風が吹く。

人が動き出す。

さっきまでの静止は、なかったことになる。

だが画面は消えない。

戻ろうとした?

私は返信しない。

できない。

侵食

帰宅後。

私は自室でログを読み返す。

自分の投稿。

だが、文章が増えている。

0番線を見た

風が止まる

戻ろうとしたら声がした

最後の一文は、書いていない。

私は震える。

編集ボタンを押す。

編集できない。

投稿者名を見る。

M

だが、その下に小さく表示されている。

M1

スレッドを更新する。

新しい投稿。

M2

半音、低いよね

私は息を止める。

誰だ。

誰が続けている。

境界

私は気づき始める。

あの瞬間。

点字ブロックの先に一歩踏み出したとき。

私は戻った。

確かに戻った。

だが、何かが残った。

ホームに立っているのは私。

掲示板に書き込んでいるのも私。

だが、

「観測している私」と

「書き込んでいる私」が、ずれている。

ゼロ番線は場所ではない。

視点だ。

立った瞬間に、

主語が分裂する。

私は、

戻れていないのかもしれない。

現在

いま、この文章を書いている。

これは掲示板の続きだ。

それとも、小説の一部か。

分からない。

ただ一つ確かなのは、

あなたが読んだ瞬間、

私は固定されるということ。

観測されることで、

私という“位置”が確定する。

だから私は書く。

読み始めた人へ

半音、低くないですか?

投稿。

更新。

投稿者名が増える。

M

M1

M2

M3

その下に、

M?

まだ空欄。

カーソルが点滅している。

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