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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~ブルーバード編~  作者: バニラ味一択


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第4話:開示



 学園での聞き込みは、徒労に終わっていた。

 過去にルナが、ワクと共に死力を尽くして異形化から救ったはずの生徒たち。その生徒たちの記憶にも欠落が出ていた。今日その生徒らの教室を覗けば、彼らはまるでルナのことなど最初から知らなかったかのように、冷淡な一瞥をくれるだけだ。


「……ワク。どうしてなのかな。あんなに必死に戦って、傷ついて。やっと、救えたと思ったのに。みんな、私のこと、綺麗さっぱり忘れてる」


 ルナは、自分の体から色が少しずつ剥がれ落ちていくような感覚に、屋上のフェンスを強く握りしめた。


「……異形と戦った記憶、私にとっても大変で辛いものだった。でも、消えていいものじゃない。あの日があったからあの子と仲良くなれたし、私も強くなれたのに……。世界がそれを無かったことにするのが、私はたまらなく怖い」


「……ルナ。個人の記憶と世界の整合性は、必ずしも一致しないものだ」


 ワクの返答はいつも通り無機質だ。正論だが、今のルナが求めている温もりではなかった。


「お疲れ様、ルナ。これ、飲みなよ」


 背後から声をかけたのは、ルリだった。彼が差し出したのは、冷えたジュース。

 屋上を包むオレンジ色の夕日が、彼の寂しげな横顔を照らしている。


「……ルナ、僕も同じだよ。友達は、僕と一緒に馬鹿やったこと、全く覚えてない。……あはは、僕がここにいた証拠なんて、どこにもないのかもね」


 ルリの自嘲気味な笑いは、ルナの心の一番脆い場所を正確に突いた。


「……ルリ、君もなのね」


「ねえ、ルナ。君がそんなに必死なのって、きっと、頑張った自分の行いまで消されちゃう気がするからだよね?このまま、誰も自分のことを思い出せなかったら、自分が存在している意味、あったのかなって。……ルナ、僕は知りたいな、君のこと。……お互いになら……覚えていられるんじゃないかな?」


「……ルリ」

 ルナの心の鍵が外れた。

「……本当は、誰にも言っちゃいけないことなんだけどね」


 ルナは夕日に目を細め、絞り出すように言葉を繋いだ。


「私、ワクと一緒に戦っていたの。ヒナコやヤリス、他の人達も……心が壊れて、怪物(異形)になっちゃった時に。必死に戦って、やっとの思いで人間に戻したんだよ」


 背後でワクが動く気配がした。


「……ルナ、それ以上の機密情報の開示は――」


「いいの、ワク! ルリは信じられる人だから」


 ルナはワクの制止を振り切り、ルリの瞳に吸い込まれるように言葉を重ねる。


「あの日、ヒナコが異形化した時の叫び……。あれは本当に辛かった。でもね、それを乗り越えて、またヒナコと仲良しに戻れて、私、とても嬉しかったの。……私たちの大切な思い出が無かったことにされて、忘れ去られたら……私はそれが……たまらなく怖い」


「……そうだね。君が必死に守った思い出なんだよね」


 ルリの優しい相槌に、ルナは今まで誰にも言えなかった自分の原点さえも、彼に預けてしまいたい衝動に駆られた。


「私は……外地から来たの……」


 ルナの視界が、オレンジ色の夕景から、もっと暗くて、埃っぽい、けれど温かな記憶へと溶けていく。




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