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吾妻夏寿高校1年16歳。
長かった夏休みもあっという間に過ぎ今日から学校が始まる。
夏休み中は溜め込んでいたアニメを観たり、漫画を読んだりと自分にとって充実した日々を過ごしていた。
ニュースでは観光地やら夢の国では人で溢れ返っていたらしいが、もちろん僕には関係はない。友達がいたらなぁとか、誰か誘ってくれたりしないかなぁなどとは…まぁ、思っていない訳ではない。
だがそんな考えも、その後の関係性や話のネタなどを考えると、一気に面倒くさくなり、一瞬で終わった。
午前6時、鳴り響くアラームで目が覚め、学校へ行く支度をし、朝食を済ませ家を出た。
僕は普段早めに学校へ行く。
理由はただ一つ、学校で朝から誰とも顔を合わせたくないのだ。
学校に着き靴を履き替え、階段を上る。
誰もいない静かな校舎に足音が響く。
教室に着き扉を開け、窓際から2列目の一番後ろの席に向かう。そこが僕の席だ。
後ろの席というのは本当に気楽でいい。
席に座ろうとした時、僕はある事に気がついた。
『あれ…隣に机なんてあったか?』
夏休み前は隣に机なんてなかった。ということは誰か転校してくるのだろう。できれば静かなやつだといいのだが。そしてできれば関わりたくもない…。
学校に着いてしばらくすると、次々と生徒が登校してきた。さっきまで静かだった教室は生徒達の会話で賑わっていた。
「今日あっちぃ〜!エアコン効いてねんじゃね」
「夏休み初日に戻ってくれねぇかなぁ!」
「夏休みどこいった〜?」
「私は塾と部活でほとんど遊べなかったわ〜」
チャイムが鳴り、担任の田中先生があくびをしながら教室へ入ってきた。
「ふぁ〜…みんなおはよう〜席つけ〜」
「田中っちめっちゃダルそうじゃん笑!」
「もしや…夜中は彼女とイチャイチャしてたんじゃね!」
「マジ!せんせー彼女いたの!?」
「はいそこ、静かにしろぉ〜」
教室内に笑い声が響いた。昨夜寝るのが遅くさっきまでウトウトしていたが眠気が一気になくなった。
「えぇ、夏休みも終わり二学期に入って色々と話すことがあるが、その前に、今日からこの1年C組に入る転校生を紹介するから、お前ら仲良くしろよ〜」
そう田中先生が言うと生徒達がざわついた。
「えっ!転校生!マジ!」
「誰だろう、女子がいいなぁ、それも可愛い子!」
「私は男子がいい!イケメンで、運動神経めっちゃ良くてぇ〜」
「こら静かに、それじゃ花霞さん入ってきて」
教室の扉が開き、転校生が入ってきた。
すると、生徒全員が転校生を見て静まり返った。
その転校生の見た目は、銀髪で長い髪は左に流され片側は剃られている。ピアスも何個か開いていて制服のスカートは短く、腕にはブレスレットをしていた。
教室へ入ってきた転校生の見た目は、そう…ギャルだった。
「そんじゃ簡単に自己紹介してもらおうかな」
「…は、初め、まして。花霞結衣華です…。よ、よろしく…」
その時、ふと昔のことを思い出した。
『なつ君!』
何故か昔遊んだあの子が頭をよぎったのだ。
「……」
「はいみんな拍手!」
ぎこちない拍手で迎えられると、担任から席を教えられ、僕の隣の席に座った。
一言くらい挨拶はしないとなと、僕は花霞さんに声を掛けた。
「花霞さん、よろしく…」
すると花霞さんは僕の方を一瞬見て、何か言いたげな表情だったが、スっと窓の方へ顔を向けた。
『あ……あれぇ〜』
夏休みが終わり、高校一年の二学期が、始まった。
そして、僕にとっての新しい学校生活が。