思春期男子は思ったよりちょろい
桜が満開となり散り始めた今日、僕は入学式を迎えた。
下駄箱ではクラスの振り分けが掲示されており、沢山の人でごった返していた。
あるところでは女子2人組が手を取りながら喜んでいる。
その隣では男子2人笑いながらもう1人に指を指している。
そんな雰囲気に邪魔にならないよう若干遠目から自分の名前を探し出す。
1年2組――佐山 春斗
…あった。
さらに自分のクラスを確認し、仲の良い友達の名前を見つけ安堵する。
同じ学校の友達とすれ違う度、自分のクラスや他愛もない挨拶をしながら教室に向かう。
教室に入り周りを見渡す。
黒板には名前順で割り振られた席が書かれていた。
新しい環境に不安や緊張を覚えながら席に着く。
ランドセルとは違った学生鞄を机の横にかけて一息つく。
仲良い友達来ていないかな、そもそも席を立ってもいいのか、など余計な事を考えながら周りを見ていると横から声をかけられる。
「ねぇねぇ」
声がする方を向くと、黒髪のショートボブの女の子が笑いながら話しかけてくる。
「おはよう、私古賀、古賀 美雪っていうんだ、よろしくね」
僕は一瞬驚きながらもすぐに気を取り直して答える。
「僕は佐山、古賀さんよろしくね」
「佐山くん…ね、佐山くんは何処の小学校から来たの?」
僕は自分の小学校を答えると古賀さんは大きな反応を示しながら話をどんどん広げていく。
彼女だけに話をさせててはいけないと思い、古賀さんと同じ質問をしてみる。
ただオウム返しをしているだけなのに彼女は表情をころころと変えながら自分の小学校のこと、友達のこと、今日はどんな風にきたかを楽しそうに話してくれた。
そんな風に楽しそうに話してくれる彼女を見ていたら僕も自然に笑顔になった。
「でも実は結構不安だったんだよねー」
「え…?」
初対面の人にこれだけ話せる人が何を不安に思うのか――疑問だった。
「クラスに仲の良い子いるかなー、とか友達沢山できるかなーとか昨日も今日も不安で不安でしょうがなかったんだー」
古賀さんは身振り手振りを交えながら前を向いて喋る。
「…でも良かった!」
彼女は手に顎を載せて微笑みながらこちらを向く。
「お隣さんが優しそうな佐山くんで!」
僕は彼女の笑顔と言葉に思わず固まってしまう。
何か気の利いた事を言わなければ、と考えている間に彼女は同じ小学校だったであろう友達に話しかけられそちらに行ってしまう。
僕は前を向きながら顔を手で覆い必死に落ち着こうとする。
触っている顔は熱く、胸の高鳴りが止まらない。
あぁ――僕は彼女が好きなんだ――彼女の笑顔がたまらなく愛おしい――
初対面の女子に笑顔で話しかけられる、ただそれだけで…
どうやら僕は自分で思っているよりちょろいみたいだ。