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スーツ姿の転生者  作者: 「」
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第8話:モノクロの転生者

 ――目の前にスカッとした笑顔の男が立っている。

 場所は……実家……?


「あはは! そうか、なんか変か! そりゃ俺がスーツ着てたら変だよなあ」


 わしゃわしゃと頭を撫でられる。

 もうそんな歳ではないと照れ隠しに頭をよけた。


「お前は真面目だからな〜、きっと誰よりもスーツ姿が似合うぞ」


 ビシッとしたスーツ。

 普段おちゃらけているが、いつだってここぞと言うときに助けてくれた。

 ……そうだ、俺はそんな姿に憧れたんだ。

 

 これは自分の憧れだ。

 これは自分の支えだ。

 このスーツは。

 俺の意志そのものだ。


「楽しみだなぁ……お前が立派な大人になったら写真撮ろうぜ! 二人並んで! 先に頑張ってるからさ、お前も頑張れよユヅキ!」


 遠い記憶。兄の声が背中を押した。


 ――視界がぼやけながらも意識が戻ってきた。

 ……そうだ、この状況はきっと偶然なんかじゃない。

 スーツ姿で転生したのは、まぐれなんかじゃない。


「お、目が覚めるのがはえぇな。どうだ、降参するか?」

「思い出せたよ」

「……? なんだ強く殴りすぎたか」


 よろけながらも立ち上がり、頬を強めに叩くと、よれた裾をピシッと直してやる。

 ハリックから視線を外さずに強く息を吸い込んだ。

 

「俺は、誰よりもスーツが似合う男だってことをな」


「は、はは! なんだよ、だから? 何言ってんのか分かんねえが、調子のんな」


 俺の身体に感覚がふえていた。

 それは魔力のこともそうだが、攻撃を受けたり、自分の体に危機が訪れたとき、意図せず()()()()()()()()

 キータに担がれたとき、魔法の実験、最初にハリックに殴られたとき。

 特にハリックに関しては『べギル』がかかった状態で殴られたのにも関わらず、腕が痺れる程度で済んでいた。

 じゃあ、一体何を固めていたんだ。


「(答えは一つだ)」


 ハリックがもう一度こちらに殴りかかる。

 ……肌の延長線上、形を変えろ、集中するんだ。

 迫る拳の中、目を閉じる。

 ……俺は、今度こそ屈さない。

 

 ――『檻装(ケージ・アタイア)


 頭に浮かび上がった言葉。

 (おぼろ)げな感覚がはっきりと、全身に巡りだした。

 

「『檻装(ケージ・アタイア)』!」

「ってぇ……! なんだぁ……こいつ……ッ!」


 顔面に向かってきた拳を間一髪、スーツの形状を変えて防いだ。


「きゅ、急に服装が鎧みたいに……!」


 驚いたようなキータの声が聞こえた。

 なるほど、自分じゃ分からないが鎧みたいになってるんだな。

 困惑しているハリックから一旦距離を取ろうと地面を踏み込んだ。


「おぉ……ッと」

 

 地面から数メートル飛び上がって驚く。

 自分の脚力が異様に上がっているようだ。

 この調子なら、基本的な身体能力はあらかた上がってそうだな。

 スーツが体の一部のようだ、動きやすい。

 まだスーツに覆われていない自分の手を見て、スーツで覆ってやる。

 薄く光沢感を持った材質、軽く叩くとカンカンと音が響いた。軽い鉄のようだ。


「よし。第二ラウンドだ、いくぞハリック」

「くそッ! 『ファイケル』!」


 ハリックの手から火の玉が放たれる。

 人の顔ほどある火の玉だが、物怖じせずそれに真正面から突っ込むと火の玉が弾けて消える。


「んなッ! なんなんだよ……!」


 ハリックまであと数メートル。


「『制約』!《能力を禁ずる》!」


 ハリックが叫ぶ。

 ただ。


「はぁ⁈ なんで元に戻らねぇ! 『制約』……くそ! ちゃんと発動してるはずだ!」


 俺にはなんの変化もなかった。

 これに至っては直感だ、なんとなく効かない、効かせない。そんな気がした。


「どうしようもねぇ……か」


 諦めたように手をだらんと下げたハリックに俺は拳を握り込むと。


「悪いな」


 顔面に右フックをかました――。

 

「……や、やった……コノサキさんが勝ったんだ!」


 数秒の沈黙の後、キータが駆け寄ってくると、涙を浮かべながら抱きついてきた。


「ぼく……僕、お母さんもコノサキさんも連れてかれちゃうと思って……! ほんとに……もうだめかと思って……ッ!」


 抑えていたのだろう。ボロボロと涙が溢れ出す。

 自分はスーツの形状を元に戻すと、そんなキータを抱きしめた。

 

「よく頑張ったな」

「う、うぅぅ……! ひっく……うぅぅぅ!」


 そんな中シータが目元を抑えながら近づいてくると。


「ありがとう……コノサキ。本当にあんたにはどうお礼をしていいか……!」


 深々と頭を下げた。

 

「お礼だなんて……俺は受けた恩をやっと今返せたんだ、今生きてるのだって二人のおかげだからな。だから顔を上げてくれ」

「があさん! うぅよがっだ! 本当によかったぁあ……!」


 キータがシータに飛びつく。


「よかったなぁ……! これで借金生活とはおさらばだよ……! ちょっと贅沢しようか。そうだコノサキ! 何日でもいいから泊まっていきな! 最大限もてなすよ!」

「そうでず、そうでず……いくらでも……とまってくだばい……!」

「一回キータは落ち着け。宿に泊まらせてもらえるのはありがたい、けど普通でいい普通で」

「そうかい……でも数日はパーティーさね。普通にしたくても豪華になっちまうよ?」


 意地悪そうにシータが笑った。

 月明かりが優しく草原を照らしている。

 夜風が爽やかに通り過ぎる。心に引っかかっていたものが取れたようだ。

 そんな感傷に浸っていると。

 

「そういえばですけど、コノサキさん」

「なんだ?」


 少し落ち着いた様子のキータが。


「あっちで伸びてるハリックなんですが、降参って言いました?」

「あ」


 すっかり忘れていたことを口にした。

 そうだよ……! 降参って言ったら負け、って言うルールだった!

 多少焦ったがハリックが起きてこないとどうしようもないからと、とりあえず起きるまで様子を見るという結果に落ち着き、目の前で大人二人、子供一人が地べたに座って見守るという謎の状況が出来上がった。


「起きませんね」

「草きのこでも食べさせるかい?」

「ちょっと強く殴りすぎた……かもしれない……」


 なかなか起きてこないと、三人で話す。


「やっぱり草きのこ食べさせた方がいいかもねぇ」

「ぼく持ってきますね!」


 そう言ってキータがものの数分で草きのこが入ったカゴを持ってくる。


「はい、草きのこですよ〜。あれ、はい。よいしょっと。なかなか入らないですね」

「貸してみろ、こう言うのは口を先に開いてだな……あれ、なかなか難しいな」

「口を開けとこうか?」

「助かる。よしこれで、入る……よし。あ、でも入ったとて食えなくないか?」

「顎を押すとかどうでしょう、なんか反射で食べたりとかありそうじゃないですか?」

「よしそれで行こう」


 そんな調子で草きのこを食べさせようと色々試行錯誤していると。

 

「起き、ふぇるよ……! く、フォ……」


 うっすら目を開けたハリックが。

 

「うわ! ビビった……お前意識あったのか」

「あぁ……ぅをきあはれ、そうには。ウッ……ないけほな……! とりはえふ草きのほをはふせ!」


 草きのこを外せとせがんでくる。

 

「あ、そうですね。はい」

「ふー……人の体で遊びやがって……! 馬鹿なのかお前ら! もっと小さく切るとかふがっ!」

「立場がわかってない人には草きのこの刑ですよ」

「ふぐふぐ! かはっ……! わがっだ! ちょっと……わが、けっほ」


 目の前で、子供に襲われているチンピラの図が出来上がった。

 ちょっと面白いな。

 しばらく眺めてると、ハリックが焦ったように言葉を捻り出した。


「おい! あれあろ! くふ……! 降参だ! 降参! この言葉が欲しかったんだろ!」

「あぁそうだな。ただ、なぁキータ?」

「そうですね、ただ」


 二人で息を合わせると。

 

「「謝罪が足りないんじゃないか(ですか)?」」


 先ほど言われたことをそっくりそのまま返してやる。


「ふそ……! あぁ! 悪かっは! おぇ……俺が悪かったからとりあえず草きのこを外してくれ!」


 うっすら涙を浮かべているハリックから、必死な謝罪が入る。

 そんな様子を見て、俺とキータは満面の笑みでハイタッチを交わした――。

鎧って人生で一度は着てみたい(つけてみたい)んですよね。

男なら誰しも憧れません?ガショガショ動いてみたいですよね。


てなわけで面白かったり、続きが気になったら評価など下の広告の更に下の星からお願いします……!

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