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スーツ姿の転生者  作者: 「」
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第5話:自分の

スルースサラマンダー、欲しい......

「へえぇぇ……! カイシャ? ってのはよくわかりませんが、コノサキさんの世界だとこんなヘンテコな格好をした人で溢れてたんですね!」


 ここは先ほどの一室。キータは部屋に着くや否や、ベットに飛び込むように座ると目を輝かせて話を聞かせてくれとせがんできた。


 やっぱりこの格好が気になるらしく、真っ先にスーツについて聞くとスーツの裾を引っ張ったり、ネクタイをまじまじと見つめたりと忙しなく動く。

 

「変な格好でもないし、溢れていたわけでもないが……まぁ、たくさんいたことには変わりないな。あと、この格好は結構カッコいい部類の服だぞ? スーツ男子なんてジャンルもあるぐらいだしな」


「カッコいいとは思いますが……なんて言うんだろう……こう変というか、日常的ではないというか……うーん……うまく言葉にできないです!」


 たはーと笑いながら、でもかっこいいと思うのはホントですよと念押しされる。

 日常的ではないかっこよさ……ねぇ……。

 極端な話、こっちでいうところの私生活に仮面的なライダーが紛れ込んでるみたいなもんか。

 ……確かに一緒に朝のニュース番組とか見てるの想像したらすんごいシュールだな。


「うっ、ネクタイの短剣は引っ張るな、首がしまぅ……」

「あ! すみません! これってここから生えてるわけじゃないんですね」

「当たり前だろ……!」


 しょうもないことを考えていると、急に首を絞められた。

 時折見せるキータのサイコパスな部分にはヒヤヒヤさせられる……知らないとはいえなんでそんな的確に首を絞めれるんだ。

 いや待て。逆に知らないのになんで絞められるんだ……?

 色んな意味で血の気が引いた、あんまり怒らせないでおこう……。


「いや、この世界にもこんな感じのファッションがあって、スルースサラマンダーっていうモンスターを首に巻き付けて暖を取るのが寒季の定番なんです。引っ張るとスルスル〜って取れるので、てっきり薄型の新種かと」

「今はどちらかというと暖かい方だろ。それになんだ? モンスターを首に巻き付けるとかいう文化、危なすぎるだろ……!」


 やっぱりこの世界いかれてる!

 蛇を首に巻き付けてるようなもんだろ⁈ それがファッションとして流行る時点でおかしいだろ……!

 

「生態として、普段何かに巻きついてじっとする特性があって。「首に巻き付けてもいけるんじゃないか?」って思い立って巻き付けたら案外うまくいったらしいですね。スルースサラマンダーとしても、食べ物が勝手に用意されることを覚えたので案外懐いたそうです」

「前々から思ってたが、この世界の住人たちって結構チャレンジャーだよな。命知らずというか、肝が座りすぎてるというか」


 まぁ、ある意味そんな根性魂が染み付いているからこそ、道端にぶっ倒れている大の大人に声をかけてくれたのかもしれないしな……。

 そう思うと感謝するべきなのかもしれない。


「結構ワイルドですよね〜。あ、そうだ。そのほかにも聞きたいこといっぱいなんですよ! コノサキさんの住んでた世界ってどんな感じなんですか? やっぱりこことは結構違うんですか? チキュウに住んでる人たちってどんな感じなんですか⁈ 色んな種族っていたんですか! 好きなタイプは!!」

「多い多い! 質問が多い! 最後に至っては俺のいた世界と関係ないだろ! ……わかったから一個づつにしてくれ……!」

「すみません、興奮しちゃって……! じゃあまずはコノサキさんの住んでた世界ってどんな感じだったのか知りたいです!」


 そう言ってキータは前のめりだった体を元に戻し、一層目を輝かせた。

 

「そうだなぁ、世界がどんなって言われると説明しづらいけど、俺の住んでた地域は日本の東京ってとこで、ビルっていうバカ長い建造物があっちゃこっちゃ建ってて、人がすんごい居たな」


 ごった返していた職場までの通勤を思い出す。

 

「トウキョウ……! トウキョウ! 聞いたことあります! 刀を持った誇り高き武人サムルイとか、チャンコを食すことで無類の力を得る通称Oスモー3(オースモースリー)とか、闇夜に紛れ颯爽と任務をこなす野菜集団ニンジャンとか居るんですよね! コノサキさんってそんなところから来たんですね……」


 鼻息荒くこちらに詰めてくるキータから、なんか聞いたことのあるような単語が出てくる。

 

「あー……部分部分あってるが、違う所が大半を占めているな」


 なんか海外に間違って伝わった日本文化みたいだ。

 

「え⁈ これ嘘なんですか⁈」

「いや、全部が嘘じゃない。きっとキータが言ってるのは、侍にお相撲さん、それに忍者のことだと思うが実際に」


 いたが。そう続けようとした瞬間に部屋の扉をノックされる。


「おーい、部屋にいるのかい?」

「いるよ! どうしたの?」


 キータが扉を開けると、野菜が沢山入ったカゴを持ったキータの母親が顔を覗かした。

 

「野菜が沢山取れてね。ほら、新鮮なうちに食べた方がいいだろ? 今夜のおかずが少し多くなりそうでね、あんさんも悪いけど手伝ってくれないかい。ま、宿代分ってことよ」

「わかりました、任せてください」

「コノサキさん、コノサキさん。さっきの話は!」

「ああ、また後でな」

「じゃあチャチャっと終わらせちゃいましょう!」


 楽しみだと走って下の階に降りるキータに、転ぶと危ないと忠告が入る。


「もう、まったく元気なのはいいんだけどねぇ」

「そうですね……そういえば宿に泊まるのに自分の名前とかっておさえておかなくていいんですか?」

「あぁ。久しぶりすぎてすっかり忘れていたよ。そうだね、後で書類を持ってきてもいいが、名前だけ控えられればいいからねぇ……いま伝えてもらっても大丈夫だよ」


 そ、そんなんでいいのか……豪快な人だと思っていたが、俺が偽名を言って夜逃げでもしたらどうするんだ……。

 

「不思議そうな顔してるね。この宿は良くも悪くもキータが宿()()をしているってわけさ。客層に関しては、気にしちゃいないよ」

「なるほど」


 そういえば、キータが人の善悪がオーラとして見えるって言ってたっけか……。

 確かにそれなら安全な客を選べるわけだから、客層は自ずと良くなるってわけだ。

 ここの宿ならではの対策だな。


「自分の名前は此先 癒月(このさき ゆづき)、コノサキって覚えてくれれば大丈夫です」

「コノサキ、ね。私はエルド・シータ。シータでいいよ。……にしてもあんたほんとどこからきたんだい。世間知らずだとは思ってたが、そんなかしこまった言葉遣いしてたら舐められるよ? 金額ふんだくられたりね」

「そうなんです、そうなのか……。なんせ何も知らないもんで、教えてくれると助かりま、助かる」


 ここが異世界ということを忘れていた。

 地球に似通った文化だと油断していたが、当たり前が通用しないこともあるよなそりゃ。

 あれ、でも確かキータは……。


「丁寧な言葉は、基本初対面と年上にだけ。ま、大抵の人はそんなことはしないがね。ただ、敬いたいと決めた相手にも丁寧な言葉遣いを使い続ける風習もあるのさ。あの子だって普段は普通さ。......コノサキ、あんたが一体何者かなんて分からんけどね、キータにとってはそれほど特別ってことさ」


 ……敬う相手に、自分がか。


「でもね、あんた突拍子もないお願いを聞いたんじゃないかい。悪いことは言わないよ、一泊したらすぐさりな。あいつらは気まぐれでね、明日の夕方に来るって言ってるんだが、朝に来るかもしれないし、夜に遅れてくるかもしれない。あんたみたいな新参者の旅人なんてカモにされる、それにまた」

「貸しがある」

「……貸し?」

「あぁ。キータは命の恩人だ、それにあんただってこんな俺にこうして食事と宿を提供してくれてる、れっきとした恩人だろう? 恩は仇で返すわけにはいかないさ」


 まぁ、こんな調子で帰せるかわからないけどな……。

 

「……だったら尚更その命、大事にしな。ともかく明日、すぐに出てってもらう。あの子のためでもあるんだよ……」


 沈黙することしかできなかった。

 俺はなんの力も持たない、ただの一般人だ。

 格闘技を何か習っていたわけではないし、マニアックな知識を持ち合わせているわけでも、地球の文明の力を何か作り出せるわけでもない。

 異世界転生って言っても、全員が全員華々しいセカンドライフを送れるとは限らないよな。

 ただのスーツ姿の転生者。本当にただそれだけかもしれない。


「二人ともどうしたんですか〜! 早く夕飯の準備済ましちゃいましょうよ!」


 沈黙を切り裂くようにキータの声が飛び込んできた。


「……ひとまず夕飯を食べて今日はゆっくりしな。料理の腕は自信あり、さ! ほらいったいった!」


 久しぶりのもてなしだ、とシータが階段を降りていく。

 奥から走ってきたキータが野菜のかごを受け取ると、扉を開けて奥の部屋に消えていった。

 

 「(……俺は。俺には何ができるんだ?)」

 

 少し考え込んで、遅れながらも階段を降りてシータの後に続いた。

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