第12話:買い出しに爆発はつきものでして
翌日、午後から今日は旅路の買い出し。
……のはずだったんだが。
「な、なぁ。あれこの地域限定のモコポフぬいぐるみだよな? ちょっと何とは言わねえが見てきていいか?」
「コノサキさん! 絶対この浮かぶ本棚、旅に必要ですよ! それに今なら別カラーの小棚も付いてくるって言ってますよ!」
この有様だ。
「いいかキータ。絶対に邪魔だろ? 何をもって必要だと言ってるかわからないが、どう考えても目立ちすぎる。これから組織に侵入するっていうのに……あとハリックはもう好きにしてくれ」
「悪い。ちょっと行ってくる、限定品は今まで買えなかったんだ」
「えー、じゃあ僕も小棚ぐらい買ってくださいよー」
昨日の一件からプライドを捨てたような顔をしているハリックが、似ても似つかないモコモコのぬいぐるみを買うために、行列の最後尾に並んだ。
看板持ち始めたぞ、おい。あいつしばらく戻ってこないな。
ハリックがこれからの組織突入の情報を抱えているっていうのに、どうすんだよ……。
「キータは本でも持ってくのか?」
「はい! 食べれる薬草全集、魔物図鑑、歴史書、デザイア・ブック……ほら、こんなに持てないでしょう? だから自走型の本棚が欲しくて」
確かにそれならひとつ持っていてもいいか……?
でも待てよ、昨日のハリックといい、何人かの周りの客といいローブからなんかひょいひょい出してるよな……。
「……キータ、そのローブに持ち物を収納できる魔法的な機能があるんじゃないのか? ほら、あの客なんてまさにそうだろ」
「ボクノハチガイマスヨ。あッ! コノサキさんちょっと」
目を泳がせたキータのローブの内側に手を突っ込むと。
「……腕がすっぽり入るんだが?」
「こ、コノサキさんの能力って不思議ですねー」
「そんなわけないだろ! 小棚はお預けだ」
「そんなぁ……自走型本棚……」
キータがわかりやすく項垂れる。
危うく騙されるところだった。
最初に会った時の騙さないですという宣言はどこへ行ったのだろうか。
「とにかくだ、必要なものだけ、買うぞ」
「はーい……」
しょんぼりとしたキータの背を押して、店並を歩く。
自分は昨日、シータから謝礼として3バルをもらった。
相場を色々と教えてもらったが、どうやら3バルは日本円で言うところの3万円ほどの価値があるみたいだ。
他にも1バルの十分の一の価値を持つ1ギル、そのまた十分の一の価値の1ルルが存在しているらしく。1ルルで最初に食べたカスマが一個買えるらしい。
百円で魚一本食べれると思うと相当安いな。
「なぁ、そういえばなんで大体の商品がこんな安いんだ? あそこの豪華そうなテーブルなんて1.2バルだぞ」
3万で旅の準備をするには少々心もとないと思い大切に使おうと思っていたが、謎の物価の安さに驚いている。
「ああそれは大体昨日見せたリペアのせいですね」
リペアのせい……?
自分は悩みながら顎に手をやると、昨日直した大量の皿を思い出す。
……あ、そうか。
「……直せるから定期的に買う必要がないし、そもそもあんまり買わなくていいから需要が低いのか」
「そういうことですね、だから食べ物とかの方が高くなりがちです」
そう言ってキータが食べ物屋を指差す。
「なるほど……それにしてもキータって結構物知りだよな? この世界の子供ってみんなそんなもんなのか?」
「今のはこの世界の基本ですから、大抵の人は答えられますよ。でも僕は結構本を読むので、物知りだったりします!」
むふーと胸を張るキータ。
「……魔法といい、知識といい、結構優秀だよな。あとはサイコパス気質さえなければ」
「実際僕の魔法なんて耐えれるじゃないですか。ここらの魔物ぐらいだったら、コノサキさんなら余裕で勝てますよ」
「結果論だろ……! 最初は本当にただのスーツ男だったんだからな⁈」
まぁまぁとキータに嗜められる。
誰のせいだと思ってるんだ……!
「そういえばコノサキさんは何を買う予定だったんですか?」
「見切り発車で買い出しに来てるからな、テントとかは欲しいと思ってるが……キータたちはそういったものは持ってるのか?」
「持ってますよ。魔法寝袋っていうどこでも快適に寝れる代物があるので、僕は色々なポーションを買いたいです!」
そもそもこの見切り発車の買い出しも、旅に慣れているハリックが「任せろ」と自信ありげに言ったから無計画で出発したのだ。
そんな自称頼みの綱が早々に離脱したせいで、自分の中の貧相な野宿のイメージで買い物をしなくちゃならなくなっている。
「俺は野宿なんてしたことないしな……そういったものが詰まっている店とかないか?」
「それならあそこの果物屋の奥を右に曲がったらすぐですよ! 雑貨店なので色々あると思います。でも僕が寄りたいポーションの店は真逆なんですよね」
「それなら別行動にするか? 俺も流石に買い物ぐらいできるからな」
「そうですね、それじゃあ買い終わったらあの奥に見える噴水の前に集合で! ハリックには途中で言っときます、おそらくまだ並んでるでしょうし」
「分かった、それじゃあまた後で」
「はーい!」
手を振ってキータが走り去っていく。
しばらく眺めた後、俺もその雑貨店とやらに足を運んだ――。
「――えーと、これはテントか……?」
「おや、旅人さんですかな?」
雑貨店に入り、テントらしきものを物色していると初老の男に話しかけられる。
「あぁ、正しくはこれから旅人になる。だからここで必要な物資を揃えようと思ってな」
「おお……! それならゆっくり見ていってくださいな! 私はコッチ・アルテ。ここにはこの私が! 取り揃えた品がなんでも置いてありますぞ!」
初老の男がオーバリアクション気味に腕を広げた。
「た、助かるよ……ところでこれってテントか?」
そんな様子に少し引きながらも、目の前にある折り畳まれているテントらしきものを指差す。
「あぁ、それはテント型爆弾ですな」
「……これがか……?」
「大きめなので威力抜群ですぞ! 大きな魔物もばぁぁぁんッ‼︎ ……買いますかな?」
「いや遠慮しとく……」
なんでそんな物騒なもんが置かれてるんだ。
まぁでも異世界に常識を求めちゃいけないか。
そう思い、横にも並んでいる商品に目をやる。
「じゃあ横のこれは? こっちもテントっぽいが」
「それはテント型時限爆弾ですぞ。好きなタイミングにばぁぁぁんッ‼︎ 爽快ですぞ」
「……じゃあこの横の少し小さめのは」
「小型テント型爆弾ですな。小さい魔物が住処にしようと近づいてばぁぁぁんッ‼︎ たまりませんなぁ……ッ!」
「……この光ってるやつは」
「テント型爆弾発光タイプですな。夜中光に寄ってきた魔物をばぁぁぁんッ‼︎」
「客足伸びないだろ。なんだこのバリエーションふざけてんのか」
「私、テント型爆弾を集めるのが趣味でしてねぇ……いつの間にか売り場もそうなってしまいましてな」
「雑貨店って名乗る勇気はすごいよな」
異世界の常識が違うんじゃないかと思っていたが、ただこのおじいさんの常識が外れていただけだった。
「……一応聞いておくが普通のテントはないのか?」
「勿論ありますぞ、少しお待ちくださいな」
なんだよあるのかよ……。
じゃあ今のくだりはなんだったんだ。
「こちらですぞ」
「ちっっさ……!」
アルテが持ってきたテントは巻物のようなサイズで到底人が入れるような大きさではなかった。
「これ超小型テント型爆弾とか言わないよな」
「それもありますが、これは残念ながらただの小型テントですぞ。ところでお客さん、魔法は使えますかな?」
何が残念なのかわからないが、一応ちゃんとテントらしい。
「あぁ、一応使える」
「でしたら、こちらは魔力を流し込むと……それ。こんなふうに広がってテントになってわっぷ!」
「うわ! おい爺さん! こんな小さな店の中で広げたらそんな」
――カチッ。
「「……」」
――チッ、チッ、チッ……。
「終わりじゃ。今までありがとう旅人よ。良き人生だったのう」
「待て待て待て! 勝手に俺も巻き込むな! どれだ⁈ どれがどうなってる⁈」
広がったテントが何かにぶつかったらしい。
明らかにやばそうな音が鳴り響く中。必死に音の元を辿る。
「おそらくテント型次元爆弾ですな……起爆したらここらいったい、ばぁぁぁんッ‼︎ 消し飛ぶでしょうなぁ……」
「だからそんなもん店に置くなよ! 超危険物じゃねぇか! あぁ……くそ、これか!」
諦めたように目を瞑るアルテを置いて、先ほど紹介してもらったテント型時限爆弾を手に取る。
表面には残り十秒と表記されており。
「『檻装』! 爺さん! これの爆発範囲は!」
「おそらく直径十メートルほど……お客さん、姿も変わって一体何を」
俺は急いで店の外に出ると、上方に何もないことを確認し。
「間に合え……!」
全力で空に向かってぶん投げた――。
「――あ、コノサキさーん! テント買えました? なんかさっき空ですごい爆発音が聞こえましたけど」
「上空で何か爆発してたな」
噴水の場所へ向かうと、キータとハリックが既に待っていた。
「あぁ。買えたよ。というかもらった」
「へぇ! もらったんですか⁈ 結構交渉上手ですね〜」
先ほどの一件で、命を救ってくれたお礼としてテントといろいろなものが収納できる魔法袋、そしていくつかのポーションをもらった。
正直そんなことが霞むぐらいに、とんでもない爆発だった。
いまだ足に力が入らない。
「その、なんだ。悪かった。途中で抜けたが、ちゃんと買い出しは出来たみてぇだな」
「いや、いいんだ。気にしないでくれ。キータの横になんか小さめの本棚が浮いてる気もするが、なんかもう疲れた。帰ろう」
「えへ、買っちゃました」
ふよふよ浮いてる本棚、モコモコのぬいぐるみをずっと抱いているハリック。
……とりあえず今日は帰ろう。
人にはキャパってものがあるんだ。
そんな疲れ切った自分とは裏腹にご機嫌な二人と共に宿に帰った。
作者は昔買い物が苦手でした。服選びがすんんんんんごい長いんですもの。
でも今となってはその気持ち分か......いや今でも試着しないで買ってるからそんなに分からないか。
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