第11話:作戦会議は難しい
やっとのこらステータスが出てきます。
ちゃんと異世界ってことですねたまげたけ。
「ふ〜……生き返る〜」
「ゆっくり浸かってくださいね〜……」
久しぶりの風呂だ……肩までしっかり浸かれるのは大体一年振りか?
湯船のありがたさを全身で感じる。
「にしてもすごいな〜……シャワーまであるんだもんな〜……」
「はい〜……宿には大体ありますよ〜……」
先ほど驚いたことだ。
現代のシャワーと同じ構造ではないが、魔力で動いて水温まで自分で調節できる優れものらしく、時折見せるこの世界の生活水準の高さに驚かされる。
ちなみに魔法が使えない人はポンプ式でお湯が出せるそう。ただ、湯加減はもともと調整されたものになってしまうらしい。
「なぁ〜……ここの水ってちょっと黄色く燻んでるよな〜……なんでなんだ〜……?」
「ここの地域はですね〜……月の湯って言って癒しの作用があるんですよ〜……擦り傷とかなら数分浸かれば治るんです〜……すごいですよね〜……」
「なるほどな〜……ただ〜……1つ質問なんだが〜……」
「なんですか〜……?」
「この口調も絶対その副作用だよな〜……?」
さっきから気になっていたことを質問する。
「この湯に浸かると緊張が緩んでこうなるんです〜……」
「これからそういうことは早めに言おうな〜……」
「一応通常の湯もありますけど〜……どうせ浸かることになるでしょ〜……みんなこうなるんですよ〜……」
「確かにな〜……」
どうりで語尾が勝手に伸びるわけだ。
あぁ〜……思考までほんわかする〜……。
「おー、二人揃って間抜けな顔してんなぁ」
いつの間にか入ってきていたハリックが自分達を横目にそう呟く。
どうやら料理たちの襲撃は終わったらしい。
所々料理のタレの跡が見える。
「まぁこれがこの宿の名物でもありますからね〜……ハリックもこうなるんですから〜……人のこと言えなくなりますよ〜……」
「さっきのお前の方が間抜けだったけどな〜……」
「るせぇ! それに俺はそっちの湯には入らねえからな? 通常の方に入るに決まってんだろ」
そう言って、馬鹿馬鹿しいとシャワーを浴び始めた。
「あんなこと言ってますよコノサキさん〜……」
「そうだな〜……」
俺とキータはゆっくり湯船から出ると、体を洗っているハリックにそっと近づき。
「『べギル』〜……よいしょ〜……!」
「うんわっ! おい! 何すんだ! 腑抜けた顔でサラッと怖いことすんな!」
「はいはい流しますね〜……」
「うわっぷ! ぷは! 待て、そっちの方向は……お、おいまさか! やめろ!」
抱きかかえたハリックを持ち上げ、湯船の方向に向かって歩くと。
「せーの〜……!」
「クッソ……ォ!」
湯船へと投げ入れた。
数秒後、ザパーンと勢いよく湯船に入ったハリックが顔を出すと。
「プハ……ッ! はぁ、はぁ……! お前ら! 許さねぇからな〜……! くそ効能の効き目がつえぇな〜……!」
「あはは〜……! ハリックもそんな顔できるんですね〜……!」
すんごい笑顔になっていた。
緩むとはいえ、先ほどまでの人相はどこへやら。
別人のようにすんごい笑顔だ。
「借金取りには見えないな〜……薬草とか売ってそうだ〜……」
「うるせぇな〜……! お前ら覚えとけよ〜……! 後でボコしてやるからな〜……!」
「そんな顔で言われてもな〜……」
「そうだそうだ〜……」
そんなヤジを飛ばしながら、三人で物理的に微笑ましく湯船に浸かった――。
――しばらくして。湯船から上がった俺たちは少し休憩を挟み、今後どうするかを決めるために話し合うことにした。
「お前風呂から上がってもその服なのかよ」
「これ以外を持ち合わせてなくてな、それに汚れもなさそうだし大丈夫だろ」
いまだにスーツ姿でいることを突っ込まれる。
能力のおかげなのか料理や土などの汚れは一切ついておらず、シワも出来ていない。
どんなに疲れていてもスーツだけは手入れしていたからな、この機能は助かる。
今までありがとうスチームアイロン……!
「まあいいか。とりあえず三日は滞在することになったが、その間にしとくことを簡単にまとめとくぞ」
「はーい」
「まずはキータ、お前の能力の覚醒だ。戦力として、とまではいかねぇがついてくるんだったら自分の身を完全に守ってもらえねぇと困る。もともと戦闘力はやけにたけぇからな、あんまり心配はしてねえが」
「自慢の息子さ!」
「そりゃ親譲りだろうよ……っと」
ハリックが自慢げなシータを横目に、懐から本を取り出すと。
「お前のデザイア・ブックでぱっぱと能力を解明しとけ。またどっかの悪党に奪われる前にな」
目の前のキータに渡した。
「いつ返してもらえるんだろうって思ってましたよ。そうですね、こうなった以上開いちゃいましょう」
キータは手に取ったデザイア・ブックの端に手を掛けると。
「いきますよ……」
勢いよく開いた。
途端にデザイア・ブックが白く輝く。
しばらく目が開けられずにいたが、徐々に光が落ち着いてるのを感じゆっくり目を開き。
「僕の能力ってこんな名前だったんだ……」
その言葉に俺も、デザイア・ブックに書かれた内容に目を通す。
◇◇
【エルド・キータ】
レベル:18
魔力 :800
俊敏 :60
力 :50
防御 :30
【是非の番人】
・人のオーラによる善悪の判断ができるようになる。
『回避の心得』
・相手の攻撃を事前に探知し、高度な予測が可能になる。ただ、この探知は本人の魔力操作の精巧さに比例する。
『』
『』
◇◇
本の中には能力の説明が書いており、『回避の心得』が淡く光っていた。
「これってなんで光ってるんだ?」
「新しく習得したスキルは分かりやすく光ります。大体開いた瞬間に1つ能力が覚醒するので僕もそうなってますね」
なるほどな、分かりやすい仕様だ。
だとしたら。
「この空白の部分は、これから新しく増えるってことか」
「そうですね。空白の部分は、その分スキルの増える余地があることを意味してます。人によってはそれ以上増えたり、逆に発現させられなかったりしますが」
「それには何か条件はあるのか?」
「それも人それぞれです、大抵はレベルが上がることでの取得なんですが……ユニーク魔法の僕はおそらく何か条件を達成しないとダメそうですね……」
レベルの概念、ステータス、能力解放……特にレベルとステータスはやっぱりあったかという感じだ。
俺も確実にユニーク魔法とやらだろうし、今後絶対にデザイア・ブックは必要になりそうだな。
と、そんなことを考えているとずっと固まっていたハリックがようやく口を開き。
「お、おい。お前魔力……なんだこれ……」
「なんですか? 確かに他のステータスと違って桁が一個多いですね……あ、もしかして凄いとかですか!」
「凄いってレベルじゃねぇ……! お前これは常人の五倍だぞ⁈ しかも魔力はレベルとの相関性が少ねぇんだ! 大魔法使いレベルだこんなん!」
「へぇ〜! やったぁ!」
「凄いじゃないかキータ!」
なんでこんなリアクションが低いんだとハリックが頭を抱える。
「なんでデザイア・ブックの基本は知ってるのに能力値の相場をしらねぇんだ……!」
「だってどこにも書いてないんですもん、そんなの」
「話とか聞くだろ! 特にここは宿なんだからよ!」
「誰かさんのせいでここ数年はまともな冒険者を停めてないからね」
「おぉ……俺のせいか……!」
もう一度ハリックが頭を抱える。
どうやらキータは凄いらしい。
「でもハリックはそんなキータに勝ってたわけだろ? お前だって十分すごくないか?」
「馬鹿言え! 結果を見てからだけどな、これは総合的なステータスの差でなんとかなってただけだ! くそ、魔力を手加減してたって嘘じゃなかったのかよ……確かに魔法の威力がどれも子供にしてはたけぇと思ってたんだ……」
そうか、本当にキータは魔法の才に恵まれてるみたいだな。
そりゃ俺との実験の時の魔法……も……。
「待てキータ」
「イヤァ。シラナカッタナー」
「手加減できてるってことは、大体元がどんな威力か知ってて俺に魔法打ち込んでただろ! 本当に死を覚悟したんだからな! 手加減してキータとトントンって……! そんな代物を人に向かって撃つなよ! あ、おい!」
「さすが自慢の息子だ!」
「さっき聞いたぞシータ!」
こうして第1回作戦会議は、親バカなシータとショックを受けて独り言を始めたハリックを置いて、キータを追う形で強制終了した。
キータが、後で草きのこを食べさせれば大丈夫。とか思っていたので、主人公が無傷なのは案外奇跡だったりします。
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