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スーツ姿の転生者  作者: 「」
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第10話:何かと詰め込まれがち

「ふー……異世界に来てまだ数時間だってのに色々ありすぎだよなぁ……」


 あの後シータやハリックたちと話し、三日ほどはここで滞在して計画を練ってその後に出発することになった。

 その後ハリックは、吹っ飛ばした机やらを片付けろとシータに言われ渋々片付けている。

 とりあえず自分は風呂が出来上がるまで待機ということで、部屋に戻ってだらっとしている。


「つっっかれたぁ……」

 

 部屋のベットに飛び込むと、今日の出来事を振り返った。

 異世界に来て魔法打ち込まれるわ、食べ物は動くわ、殴られるわ、魔法打ち込まれるわ……本当に災難だ。

 

「でも、こうしてベットでダラダラできる……フッカフカのベットで寝れるなんて何年振りだ? あ〜……このまま眠れるー……」


 なんやかんやで食事も最高級な味と量。

 生活水準も地球となんら変わりはしない。

 娯楽はないが、そもそも娯楽に割く時間なんてなかったわけだし、こうして会社に行くこともないと考えると、この生活が続くのも悪くないと思えてしまう。


「……異世界転生、魔法に自分の謎の力……中学生の妄想みたいだが、本当にあるなんてなぁ……実際に使えたし」


 先の戦闘を思い出す。

 ダメだと思っていた魔法も初めて見る魔法なら使えるし、何より自分のスーツが変形するこの能力……これからだいぶ危なそうな組織に突入するに当たって、もう少ししっかり知っておかないといけない。


「『檻装(ケージ・アタイア)』......こんな感じなのか」


 鏡の前に立って改めて自分の姿を見た。

 中世の鎧……よりかは随分とスリムだが、やはり見た目は鎧のように変化している。

 感覚としては本当に肌の延長線だ。それをグニグニ動かせる。


「うお、すごい伸ばせるな。大体部屋を一周できる……」


 試しに腕を伸ばしてみたが、思ったより伸びる。なんならまだ伸びそうだ。

 伸びた腕にはもちろん本物の腕は入ってないが、指を動かすとそれに伴ってスーツの指も動いている。


「布団は柔らかい、机は硬い……ちゃんと感覚が伝わってくるんだよな。どうなってんだ」


 伸ばしたスーツでものに触れると、しっかりその材質を確認できる。

 なかなか便利な能力らしい。

 

「でもよかった、なんかへんな能力だったらあのまま奴隷生活まっしぐらだったからな。異世界に来てまでブラック労働なんて嫌すぎる」


 安堵に胸を撫で下ろす。

 ……と、ここまでしてみてちょっと試してみたい事がある。

 腕の関節らへんに意識を集めた。

 何をしようかというと。


「どうだ……おぉ……いけそ、う……だけど」


 関節から繊維が織りなすように上部に伸びていき。


「……うーん。腕はできたが指がお粗末だな。あ、でも一応動かせる……」


 粘土を捏ねたような腕と指が出来上がる。

 腕を伸ばすのに繊維をつなげて伸ばしている感覚があったから、新たに増やすこともいけると思ったが、案外いけるもんだな。

 ぴょこぴょこと動く指もどき。

 動かすにも、本来の腕とは別の感覚を使っているので慣れない。元の指まで少し動いてしまう。小指と薬指みたいだ。

 

「練習が必要だな」


 このもどかしさも、全てが新鮮で楽しい。

 柄にもなくじっとしてられなくなったため、練習に何かしようと考える。

 そういえば下でハリックが片付けしてるんだっけか。

 練習がてら手伝うかと、部屋を出た。


「ってぇ! くそ、わかったから飛びかかるな! むごっ! おひ! 口の中にかっへにはひるのはやへろ!」

「この皿も割れてるじゃないですか! も〜……『リペル』。ほらハリックもふざけてないで早く割れた皿とか直してくださいよー?」

「ングッ……はぁ、はぁ……俺もふざけたくてふざけてモガッ! むぐ!」


 一階に着くと地面に落ちた料理に襲われているハリックと、皿を魔法で直しているキータの姿があった。


「悪いな、キータも片付けをしていたのか」

「皿の片づける場所だけ教えようとしたらこの有様だったので、僕も仕方なく手伝ってます」

「モムム! むぐ!」

「そりゃ料理たちも怒って突撃しますよ、反省してください!」


 料理たちに寄ってたかってボコボコにされているハリックを見てキータが怒る。

 なんか、料理たちが突撃するっていう単語に疑問を持たなくなったな。

 なんともいえない気持ちで俺も皿を拾うために能力を使って不恰好な腕を生やす。


「うわぁ! なんですかそれ! 腕とアーム……ですか?」

「あぁ、俺の能力をさっき部屋で試してな。色々とできることがわかったからその練習をしたいんだ。本当は腕を四本操れたらいいんだが、まだ一本ですらまともに動かせないからもう一個はアームにした」


 簡単な形なら動かすのが楽だろうと考えて出してみた。

 実際アームは指でつまむのと似たような感覚で動かせて楽だ。


「プルプルしてて面白いですね。あ、皿の大きな破片だけでいいので僕にください、直しますから。『リペア』」


 大きな破片に小さな破片が集まってくる。


「便利だな、その魔法でなんでも直せるのか?」

「なんでもは直せないです。構造が複雑だったり、特殊な加工が施されたりとかしてると無理ですね。ただこういった皿なんかは『リペア』、すぐ直ります」


 キータが俺と話しながらもひょいひょい皿を直す。

 

「いろいろな魔法があるもんだ。俺も使えるかな……『リペア』」


 みたことない魔法だからな、ワンチャンいけるか?

 期待を胸に、皿の破片に対して魔法を掛ける。

 

「どうですかコノサキさん……って、なんですかそれ」

「……皿……だったものだ」

「なるほど……リペアって自分の感性と器用さに作用されるのですが、独特な感性を持ってるんですね……せっかくなんで飾りましょう!」

「やめてくれ」


 ぐにゃっと曲がった皿を手に、もう一度割ろうかと考える。

 陶芸家が不出来な作品を叩き割る気持ちがわかった気がした。


「でも、まぁ悪くないか」

「あっちの棚に空きスペースがあるのでそこに飾っときましょう、記念ですよ記念」


 子供の頃に民芸館で家族と共に皿を作った思い出が蘇る。


「感性に作用されるってことは、少し形を変えれるってことか? キータもせっかくだし作ってみて一緒に飾っておいてくれ、そっちの方が少しは華が添えられるだろ」

「そうですね、一応作れはしますが……やってみますか、えい」


 キータが適当な破片を拾い魔法を掛ける。

 破片は徐々に形を成していき。


「どうですか! タイトルは突撃野菜です」


 皿というか骨董品みたいなのが出来上がった。

 待ってくれ。

 話が、話が違う。


「そこで襲われてるハリックをもとに作りました」

「む! おみまっめみ! グム……ッ!」

「喜んでるみたいですね」


 出来上がった作品が野菜に襲われてる瞬間じゃなければ、職人の作った像と言われても信じるレベルだ。

 こ、これ俺の皿の隣に置かれるのか?


「やっぱり俺の皿は割るか」

「えぇ⁈ そんな勿体無い! ちょうど僕が作ったのがコノサキさんの作った皿の上に乗るので、それで飾っときましょうよ〜」

「ま、まぁそれならマシか……」


 土台としては、まだ息をしているからな。

 キータの作品を上に置く形で落ち着いた。


「それにしても、ハリックのやつまだ襲われてるな……やっぱり料理も怒るのか」

「料理も食べてもらいたくて頑張ってますしね。そりゃ怒りますよ」

「痛いのか?」

「料理によります。大体硬めの野菜が強いです」

「むぐぐ! おひ、たすけもがッ!」


 棚に飾り終わり、いまだに料理に襲われているハリックを眺める。

 なんかこいつずっと口に物を詰め込まれてるな。


「おーいあんたら風呂の用意が……ってまだ襲われてるのかい。まあいいかね、とりあえず先に風呂に入っちゃいな」

「はーい」


 風呂の準備ができたようだ。

 床の掃除はハリックが料理に襲われ終わらないとできないみたいだし先に入っちゃうか。


「お、おひ。ちょっほたすけてくれてもいいんじゃねへか! まへ! むぐ! むぐぐ! まじか! おい!」


 悲痛な声を背に、キータと共に風呂場に向かった。

ハリックは不憫さが加速します。

ごめんよ。

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