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スーツ姿の転生者  作者: 「」
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第9話:戦闘過ぎてーー

 ハリックに草きのこをちぎって食べさせ、しばらくして。


「じゃあ、嘘ついたんですね‼︎ ひどいです! 完全に悪い人じゃないと思ってたのに!」

「俺だって生き残るのに必死なんだよ、分かるだろ! それに、そうも言わないとアンタらアジトに突撃しかねないだろうが! 特にお前!」

「人を指差すもんじゃないですよ‼︎ あぁもういいです、コノサキさんこの人やっちゃいましょう!」

 

 なんやかんやで口論に至る。

 

 ――遡ること数分前。それはハリックの言葉から始まった。


「プハッ……あぁ、くそ……負けたよ。どうすんだこれ」

「草きのこの効力すごいな。顔のあざが一瞬で消えた……確かに高く売れるわけだ」


 草きのこを食べさせ水を飲ませると、ハリックの顔のあざがじわっと溶け込むように消える。


「ハリック! 約束ですからね、お父さんを返してください。あと借金はチャラですからね! 元々そっちが無理やりつけてきたもんですし」


 感心しながら見ていると、キータが前に出て堂々と言い張った。

 肝が据わってるよな……やっぱり。

 ハリックはそんなキータを一瞥すると。

 

「それは無理だ」


 キッパリ言い放った。


「コノサキさん」

「『檻装(ケージ・アタイア)』」

「待て待て! 言い分を聞け!」


 ハリックはキータの呼びかけに間髪を入れずに戦闘体制へと入る自分に、焦って制止を呼びかける。


「そもそも上も俺が負けることを想定してねぇんだ! だからこんなこと報告したら情けねぇが俺も殺されるんだよ!」

 

 ――てなわけでその後言い合いが続き今に至る。

 さて。どうしようか。

 俺自身も相当強力な能力を持つハリックが組織の上にいると思っていたが、案外そうでもないらしい。


「悪いが俺はこの世界に来てまだまだ数時間でな。何が何だかさっぱりなんだ。まずはお前の属する組織について教えてくれないか」

「……数時間……? まぁいいぜ。どっちにせもう組織に帰れるような身じゃねぇしな。俺の属する組織は【コプラ】。主に鋼鉄を売り捌いてて、武器なんかも売ってる。やり方としては街から適当な人を騙して高額な金額を請求。払えなかったらそいつは労働力に、そして親族にはそのことを強請(ゆす)って更に金銭を巻き上げてる」

「僕のとこみたいにですね」


 ほぼ拉致じゃねーか……。

 それにそんな組織のことだ、きっと労働環境もマシなものじゃないだろう。


「でもそんな団体ほったらかしにされてるのか? ほら、国とかから討伐隊が派遣されたりとかで対処されるだろ普通」


 見る限り治安が完全に悪いとはいえなかった。

 形は違えど、警察みたいな存在はいるだろう。

 

「されてるな、ただガッツリじゃねぇ。コプラは俺みたいな能力者が数人いて中途半端な手出しができない。それに被害者をうまく調節して、組織の討伐優先度を下げてんだよ。貿易としては優秀な組織でもあるからな、黙認って形に近い」


 なるほど。しっかり組織として確立されてる。

 ただのチンピラ集団じゃないだけ厄介だな……。


「でも、そうだな。俺が言うのもなんだがお前の能力って結構強力だろ。なんでそんなに立場が危ういんだ?」


 それの能力さえなければキータ一人でどうにかなっていたわけだし。

 

「それは俺の能力に抵抗値があるからだ。最初の1回はいいんだが、一定の実力差があったり、何回も同じやつに俺の能力を使うとだんだん効きが悪くなるんだよ。わかりやすくいうと身体がなれちまうんだ」

「最初に関しては優位を取れるが、持続しては優位を保てない……確かに組織に属する身としては向いてないな」


 組織内でわかりやすく上下関係があるってことは、1回でもそういった抗争があったってことだろうし、ハリックがここまで弱気なのも説明がつく。

 

「そういうこった。とかいうアンタの方が俺は気になるけどな。自分で言ってて変だと思わねぇか? 効くはずなんだよ、最初は絶対に。……どんなカラクリ使いやがった」


 ハリックが疑いの目を向ける。

 

「それに関してなんだが、俺もよく分からない。さっき言ったろ、この世界に来てまだ数時間なんだ」

「はっ、言いたかねぇならいいよ」

「本当ですよ、だってコノサキさん転生者ですし」

「は……? 転生者……⁈」


 当たり前のように話すキータにハリックが驚いた。


「お、おい。マジでそんなの信じてるのか……? あんなの都市伝説もいいところだぞ。シータ、お前キータに物語読み聞かせすぎじゃないか?」

「私が本を読むように見えるかい? あの子の趣味さね」

「『わお!異世界都市伝説集第一弾!』に載ってました! 地球出身っていうやつ大体転生者。基本ですよ」


 まじか、そんな情報で俺を信じたのか。

 衝撃の事実に固まってると、呆れたようなハリックがこちらに向き直す。

 

「……そうか……転生者ねぇ。まぁでも俺も完全に否定するわけじゃねぇ、その意味わかんねぇ能力もそれなら多少納得できるからな。それに俺の組織でも……いやなんでもねぇ。それもこいつの言ってることとほぼ変わんねえからな」

「今バカにしました⁈ 実際に僕が得た知識でコノサキさんを抜擢したんですから、実質僕にも負けてますからね!」


 キータがハリックに突っかかる。

 

「あぁ⁈ そんなわけねぇだろ! 俺はこいつに負けたんだ、それにお前は俺の能力で完封だろうが!」

「それは僕が力をおさえていたからですし、お父さんを人質に取ってたからでしょ! 本気出せば丸焦げですからね!」

「はッ、言ってろ」

「信じてませんね! 軽く燃やしますよ!『フォル」

「《制約》『魔法を禁ずる』! おいあぶねえな! 軽く燃やしますよって比喩だろ普通は!」

「有言実行を心がけてますから」


 冷や汗をかいたハリックと、随分と血気盛んなキータ。

 さっきとは随分と力関係が変わっているな。

 出会いは最悪として、相性自体はいいんじゃないか? この二人。

 

「ハリック、今キータの父親はどうなってるんだ?」

「そうですよ! そこが一番心配なんですから」

 

 喧嘩に割って入る。

 

「お前の父さんは俺の部隊の管轄(かんかつ)内だ。今も鋼鉄を掘ってる。ただ今この状況が問題なんだよ……おいコノサキって言ったか? お前俺がこのまま金を巻き上げて父親を監禁してるのをよしとするか?」

「しないな」

「だよな。だから問題なんだ。さっきも言ったが俺がこのまま手ぶらでおいそれと帰ったら命がねぇ。そこでだ」


 ハリックが人差し指をピッと立てると。


「俺と組織に来ないか?」


 そんな提案をしてくる。


「往生際が悪いですよ……コノサキさんがそんなことに釣られるとでも思ってるんですか? なーに勝手にそんな」

「いい提案だ」

「ホイホイついてくわけ……コノサキさん⁈」


 キータがそんな俺の肩を掴み揺さぶる。


「失望しましたよ! ただえさえお父さんが帰ってこなくてショックなのに、コノサキさんが敵だなんてどうすればいいんですか!」

「ちっが、う……! ちが、う! そ、うじゃな、くてちょっと1回揺らすのを止めてくれ!」

「あ、すみませんつい」


 デジャブを感じる。


「組織に来るってのは、入隊ってわけじゃなくて、足を運ぶってことだろ?」

「そうだ。俺はお前の力に可能性を感じた。もしかしたらこの組織ぶっ壊せるんじゃねぇかってな。それにお前、元から組織にカチこむつもりだったろ」

「よくわかったな。父親を連れ戻す、それがキータとの約束だからな」

「カチこむのは聞いてないんですが、ちょっと母さんに聞いてきますね。母さーん」


 軽く話に入り込んだキータがそう言うと走り去る。

 

「待て。あいつ連れてくのか……?」

「い、いやそのつもりはないな……危険すぎるだろ」


 奥の方でいつの間にか草むしりを始めていたシータに聞きに行ったようだ。

 しばらくしてシータの方が近づいてきた。


「アンタら……話を聞いたよ。流石に了承はできないね」

「まぁ、元からそのつもりだ」


 これは本当に命が関わることだからな。おいそれと中学生ほどの子供を連れて行っていいもんじゃない。

 奥で待てと言われたのだろう、ソワソワしながら待機しているキータを眺める。

 

「……ただね、この時期の子供は本当は冒険期って言ってフラッと旅をする時期なんだ。だけど誰かさんのせいでキータには随分と辛い時期を過ごさせてしまってね」


 ハリックがシータに睨まれて、首を軽く窄める。

 シータの視線がキータに向けられた。


「……あの子は誰よりも冒険に憧れてるんだ。いつか本に書いてあったことを確かめに行くんだってね。さっきも聞いたのさ、そのチャンスだってね。やっと出会えた本物から少しも離れたくない、そうも言ってたよ……だからコノサキ。1つ質問だ」


 真面目な顔でシータがこちらに向き直す。


「あの子を守れるかい。何があっても」


 何があっても、か。

 シータも豪快な一面はあるがキータのことを誰よりも考えているはずだ。

 これからしようとしていることが危険なことも従順承知で、そんな中で宝物のような存在を俺に託そうとしている。

 シータからのこれは質問じゃない、きっと頼みなんだろう。

 着ているスーツを眺めた。


「分かった。約束するよ」

 

 二度目の人生、俺はもう後悔はしたくない。

 そう決意したんだ。


「……よかったよ、安心だ。キータ! おいで!」

「どうでした! どうでしたか!」


 笑顔で駆け寄ってくるキータの頭を撫でてやる。


「ついてきていいってよ」

「ほんとですか! いいのお母さん!」

「ああ、だけどあんまり無理するんじゃないよ」

「ほどほどにそうする!」

「こら、すぐ調子乗るんだから」


 シータが軽くキータの額をこずいた。

 えへへとキータが笑うと草原を駆け回る。


「シータ」

「なんだい?」

「ありがとう」

「……なんの感謝だい……でも、そうだねぇ……子供の成長ってのは早いねぇ……」

「……そうだな」


 走り回るキータを眺めるシータの目の淵が、月明かりに照らされて輝いた――。

キータはよく人を揺らします。軽いアトラクションレベルに。

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