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7 第3回神様通信

 

「おはようございます」

 台所に向かうとおばちゃん…ミリーさんが朝食の準備をしていた。


「おはようさん、よく眠れたかい?」

「はい、ありがとうございます」

 大量の藁束の上に清潔なシーツがかけられたベッドはなかなかに快適だった。


「手伝います」

「ああ、頼むよ」

 この後、おっちゃんや他の行商人も来るのでいつもより多めに作るのだそうだ。


「じゃあ、こっちのパンの実を焼いとくれ」

「はい」

 『異世界常識』によるとパンの実とはメロンくらいの大きさの木の実で、これを幅2センチくらいにスライスして遠火で焼くと本物のパンの味と食感が楽しめる。


「黄色に熟したのから焼いて行けばいいんですね」

「そうだよ、今日は…5つ焼いておくれ」

 ミリーさんの言葉に頷くとせっせとパンの実を切って焼いて行く。


その後も指示されるまま野菜を洗って切ったり皿を並べたりと動き回った。


しばらくして村長さん宅の食堂におっちゃんを含めて4人の男の人が集まる。

全員が領都に向かう行商人だ。


村では商品を安く売ってもらう見返りとして一夜の宿を提供しているのだそう。


「はい、お待たせです」

 出来上がった料理…ホーンラビットのソテーと野菜のスープに焼いたパンの実を配膳して行く。


「これから長い距離を移動するんですからしっかり食べて下さいね」

 笑みと共に皿を渡せば、おうとおっちゃんも笑顔を返す。


「ほら、あんたも食べな」

 配膳が終わったところでミリーさんに言われ、礼を言ってからおっちゃんの隣に腰を下ろす。


「カナエちゃんはこれからどうするんだ?」

「モルナの街に知り合いがいるので、そこで仕事を探そうかと」

 もちろんそんな人はいない。

街の名だって昨日、地図で知ったばかりだ。


「そうか、あそこは領都ほどじゃないが大きい街だ。仕事もすぐに見つかるだろう」

 モルナは此処から歩きで3日ほど…私の足なら1日のところにある交易の中継地として栄えている街だ。

隣で頷くおっちゃんに最大の気がかりを聞いてみる。


「街に入るにはステータスカードが必要と聞いたんですが」

「ああ、門で見せるように言われるからな。…もしかして持ってないのか?」

 ムルカ村のような集落では必要ないが、人の出入りが激しい街などではカードを提示しなければならない。


「はい、あの…兄嫁が…お前なんかに使う金は無いと」

 『異世界常識』によるとステータスカードは住んでいる村や町の役場に行って作るもので、料金は親や年上の兄弟が払うのが慣例だ。


「お金は祖母ちゃんが残してくれたのがあったんで何とかなったんですけど。…役場の人が受けてくれなくて」

「何でだい?」

 怪訝な顔をするおっちゃんとミリーさんの前で悲し気に呟く。


「兄嫁が役場の人に私のことをいろいろ悪く言ったらしくて、そんな者にカードの発行許可は出せないってなって」

 犯罪歴があったり評判の悪い者にはカードの発行申請が通らない場合があるのだ。


「物恨みにも程があるだろうっ。その女、碌な死に方をしないよっ」

 話を聞いていたミリーさんが両手をテーブルに叩きつけながら憤慨する。


カードがないと大きな町には入れないし、まともな仕事にもつけない。

嫌がらせとしては最高だろう。


「だったらこの村で申請すればいいさっ」

 そう言ってミリーさんが勢い良く立ち上がった。


「で、でも…却下された者は普通は…」

「そんなの関係ねぇ、それに会ったばかりだがカナエちゃんが良い子だってのは分かる」

 ミリーさんに続いておっちゃんも声を上げた。


「そいつは私も同感さ、自分から手伝いを申し出る心根のいい子で気も利く働き者だよ」

「おうともよ、変な遠慮はしねぇで胸を張ってカードを作ってこい」

「いいこと言うねぇ、さすがはヨハンだっ」

 バンとその背を叩くミリーさんに、痛てぇじゃねぇかと照れた顔でおっちゃんが文句を言う。


その勢いのままミリーさんの御主人である村長のところに連れて行かれ、書類に必要事項を記入して提出するとすぐに承認印を押してくれた。


「ほれ、出来たぞ。これを街の役場に出せばカードを発行してくれる」

 此処のような小さな村にはカード発行用の魔道具は無いので、必要な場合はこうして村長に許可書を出してもらうのだ。


「あ、ありがとうございます」

 深々と頭を下げると、おっちゃんやミリーさんだけでなく周囲の人達も祝福の言葉をかけてくれた。


 

「…計画通り」

 小さく呟いて薄く笑みを浮かべる。


おっちゃんや村の人達を騙すことに胸は痛んだが…これはこれと割り切ることにする。

とにかくこれでステータスカードを手に入れることが出来る。


「だけど『鑑定』様々だね」

 おっちゃんに声をかけられた時にコッソリ鑑定を発動させた。

称号に物騒なものは無いか確認していたら、結果の端に青色が浮かんだ。

よくよく見るとそれは私に対しての敵意や害意があるかの判定だった。


どうやらレベル上昇と共に『鑑定』の精度が上がったようで、対象者の危険度に応じて青、黄、赤に変わるみたいだ。


おっちゃんは思いっきり『青』だったので、安心して荷台に乗らせてもらった。

到着した村でも片端から鑑定をかけたが、黄色が数人いただけでほとんどの人は『青』だった。

これならばと一芝居打ったのだが…成功して良かった。


「いろいろお世話になりました。ありがとうございます」

 門のところで頭を下げる私をミリーさんが見送ってくれた。


「本当に一人で大丈夫かい?」

「はい、多少は魔法が使えますから。それが証拠にここまで無事に来られましたし」

 私の言葉に頷きながらもミリーさんは心配そうだ。

まあ、それはおっちゃんも一緒だが。


一足先に領都へと向かっていったおっちゃんだったが、別れ際に旅での注意事項を山ほど教えてくれて、いいかげんにしなっとミリーさんに叱られていた。


「あの、これは私の故郷で有名なお守りなんですが」

 差し出した小袋に、ああとミリーさんが頷く。


「ヨハンにも同じ奴を渡していたね」

「はい、これがあると悪いことを遠ざけてくれると言われているんです。良かったら村のどこかに置いてくれませんか」

 私の言にミリーさんは嬉しそうに笑った。


「そりゃ有難いね。私の家に飾って置くよ」

 エルフの里で貰ったものだから細かな刺繍がされていて綺麗なので気に入ってくれたようだ。


「それじゃあ、また」

「いつでも遊びにおいで」

 そう言ってくれたミリーさんに手を振って街道へと歩き出す。


お礼替わりと言ってはなんだが、お守りには結界を付与した魔石を入れてある。

悪意に反応するよう設定してあるから2人を守ってくれるだろう。



「さて…と」

 その日の晩、街道を離れて人気のないところに早めに『家』を出す。


おっちゃんに貰った干物をおかずにレトルトご飯とエルフの里で購入した豆味噌を使った野菜たっぷり味噌汁で夕食を済ます。

その後でお風呂に入り準備万端でテレビの前へと座ると…。


「ハーイ、神様通信の時間だよー」

 へらへらと笑いながらクソ邪神が現れた。


「はーい、それでは今週の結果発表ーっ」

 『ヒュードンドン、パフパフ』という効果音付きで画面に『11/28』という数字が表れる。


「この一週間で2人のお仲間が死んでしまいました。悲しいね~っ」

 愉快そうな様子を隠しもせず2名の死亡理由を説明して行く。


「続いて『今週の優秀者は誰だコーナー』だよぉ」

 パチンと指を鳴らすと3人の顔が映し出された。


黒い鱗の竜人の下に薄紫の髪と金眼にエルフとはまた違った尖った長い耳の男の顔が、さらにその下には顔の半分を髭に覆われたおじさんがいる。


「今回からランキング形式にしてみたんだ。現在のトップは先週に引き続きエルデ君だよ」

 再び指を鳴らすと彼のレベルと獲得アイテムが表示される。


「2位はリシュアン君。種族は魔族でスキルは 『四大魔法』『治癒魔法』『魔力増強』で、ギフトは『魔杖リオンサート』さ」

 彼も同じようにレベルと獲得アイテムが晒された。


「3位はアレクセイ君。種族はドワーフでスキルは『鍛冶』『錬成』『鑑定』ギフトは『究極ハンマー・オーグ』だよ」

 こちらも同じで個人情報が惜しげもなく公開される。


ここで初めて鑑定持ちが現れた。

他の2人は竜人と魔族の種族特性による力押しだが、ドワーフの人は情報の大切さが分かっていたようだ。

たぶん生き残っている人たちのほとんどが鑑定持ちなんだろう。


「3人とも僕の言うことを聞いてアイテム集めをしているんだよね、嬉しいなぁ。次は誰がトップかな。そして何人生き残っているか実に楽しみだよ。それじゃあ、また来週~っ」

 満面の笑みで手を振る姿が消えたと同時に私はずっと潜めていた息を吐き出す。


「…どうなってる?」

 さっき表示されたトップ3のレベルは…35、34、33だった。

だが私は既に42になっている。


「私のデーターがクソ邪神のところに届いてない…ということか」

 その原因として考えられるのは。


「スマホか」

 彼らと私の違いを考えると、それしかない。


本来ならスマホにだけ流れる映像を『家』のテレビが受信していると思っていたが、クソ邪神はそれにも気づいていないようだ。


「違法視聴してたわけか…ざまぁ」

 フンと鼻で嗤うと今後のことを考える。


スマホと言えばGPS…その機能で転生者の動きを追っているからクソ邪神は彼らの様子が詳細に分かるのだろう。


そうなるとクソ邪神に動向を知られずに済むというのは大きなアドバンテージだ。


「本当に受け取らなくて幸いだったな」

 しかし何故私のところには送られてこなかったのか。


「ま、悩んでも仕方がない。分かる時がくれば分かるだろう」

 そう呟くとさっさと寝室へと歩を進める。

明日はモルナの街に着くだろうから早々に寝ることにする。




「見えてきた。あれがモルナの街」

 歩く速度を通常に戻しながら遠くに見える石壁を眺める。

『異世界常識』によると魔物から街を守るために何処も大抵は強固な壁で囲まれている。


魔の森ほどの強さではないがこの辺りにも魔物は出る。

モルナの街にはそれら魔物を狩ることを生業とするラノベで有名な冒険者とギルドも存在する。


「まあ、私には関係ないけど。…登録するとしたら商業ギルドくらいだな」

 結界については秘密にするし、スキルのアイテムボックスも容量は少ないということにする予定だ。

目立って異世界人だとバレたらそこで詰みとなるのは間違いないからだ。


「さて、まずはステータスカードの入手だな」

 ムルカ村で貰った書類を握り締めて街の入口へと向かった。



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