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63、神と精霊


「けどさすがはドラゴンだね」

『そうねぇ』

 一撃で怪物を倒したことに感心する私たちの後から突然声が掛けられる。


「そうでもないぜ、あんな取るに足らない奴に傷を負わされるようじゃまだまだだ」

 驚いて振り返ると其処には一人の男が立っていた。


「貴方は…」

 赤茶色の髪をしたニヒルな笑みが似合うその姿に覚えがあった。


「ガイさん…でしたっけ。闇賭博場のディーラーが何故ここに?」

 その問いに彼は軽く肩を竦めて口を開く。


「まずは礼を言う。助けてくれてありがとうよ」

「はい?」

 思いっきり首を傾げる私の前で男は意味ありげな笑みを浮かべた。


そのさまに浮かんだ疑問を口にする。


「…もしかして…ガイさんの正体はガイアドラゴンですか?」

『はいぃ?そんな訳…』

 私の言葉に突拍子もない声を上げたメネだったが。


「ほう、良く分かったな」

 そう当人に肯定されて二の句が継げなくなる。


「もしかしてだけど…貴方も…精霊ですか?」

「半分だけだがな」

 簡単に頷く様に今度こそメネは絶句した。


ガイさんの話によるとちょっとばかり長生きをしてたら精霊化が始まり、けれど欲を捨てることが出来なかったので中途半端な状態で変化は止まり『半精霊』となったのだとか。


今の姿はメネと同じ分身体で、退屈を紛らわすために街に繰り出していたのだそうだ。


「そんなことあるの?」

 私の問いに、ええとメネが頭痛を堪えているような顔で頷く。


『稀にだけどね。精霊化が途中で止まると半精霊になるの』

 そう答えながらもメネの視線は驚きに満ちている。

どうやら本当に珍しい事態のようだ。


「けど何で闇賭博場でディーラーなんかを?」

 退屈しのぎなら他にも色々とあったろうにと首を傾げる私の前で、ガイさんがため息混じりに言葉を綴る。


「俺のスキルは知っているな」

「ええ、ドレインですね」

 私の答えに、ああと頷いてから言葉を継ぐ。


「見るだけでどんな相手も簡単に死ぬ…これほど詰まらんものは無い」

 切なげな眼差しに彼が拘っていたことを思い出す。


「だから『真剣勝負』ですか」

「そうだ。俺と対等に戦える相手と力を尽くして凌ぎ合う…それを望んだら賭博に行きついた。分身体なら命の危険が迫ると発動してしまうが、平常時ならスキル制御が出来るしな」


確かにそれなら彼のスキルを使うことなく思う存分に戦うことが出来る。


「だったらもうドレインスキルは破壊された訳ですから、これからは賭博以外でも真剣勝負が出来るのでは」

 私の言葉に、いやっとガイさんは大きく首を振った。


「俺が今までスキル封じを試さなかったと思うか?どんな方法も時間差はあるがいずれ復活して生えてしまうのさ」

 まるで呪いだなと自嘲の笑みがその顔に広がる。


「だったら今回も」

「ああ、それでもかなり強力だったからな…そうさな、百年くらいは持つんじゃないか」

 それでも百年なのか。

難儀なものだな。


魔王様並みに戦うことが好きなのに自らのスキルの所為でそれが出来ないとは。

彼の境遇に少しばかり同情する。


「いや、しかし久方ぶりに痛みとやらを経験した」

 ゴキゴキと肩を鳴らしながら、それでもどこか嬉しそうに笑ってからガイさんが聞いてきた。


「ところであの土塊の作り主は誰だ?」

 彼にしたら当然の問い。


「実は…」

 請われるままクソのことを教える。


「創造神の眷属とはな。未だそんなものが残っていたか」

 呆れ顔を浮かべるガイさんの言葉に引っ掛かりを感じて聞き返す。


「残っていた…とは?」

 私の問いにヤバいといった顔をしたが…じっと見つめ続けていたら観念したように口を開いた。


「こいつはトップシークレットなんだがな」

 ため息混じりに言葉を綴り出したところでリシュー君たちがこっちにやって来た。


「カナエっ」

「そいつは…」

「あの時のディーラーか?」

 ガイさんが此処にいることに訝しげな顔をするので彼の正体を教えてあげる。


「彼はガイさん。そこにいるガイアドラゴンの分身体だって」

「え?」

「は?」

「何…だとッ」


 おお、3人とも見事なポカン顔。

まあ、いきなりそんなことを言われたらそうなるな。


「そういう事だ、よろしくな」

 軽く手を上げるガイさんにどう対応して良いか分からずキョドるリシュー君たちを横目に、さっきの問いの答えを求める。


「それで?」

「ん?ああ、神の身内とやらが残っていたのが意外でな」

「…つまりこの世界にもう神はいない…という事ですか?」

 私の言にガイさんが頷くと誰もが驚愕の表情を浮かべる。


「ど、どういうこったっ?」

 困惑に満ちた声で問いかけるエルデ君にガイさんが淡々と答えを紡ぐ。

 

「この世界に神は居ない。世界が造られた瞬間に神は何処かに去った…と精霊界ではそう伝えられている」

 

つまり製作時は一生懸命に心血注いで作るが、完成した途端に興味を失くして作品は棚の上で埃を被らせるタイプのモデラーと同じだな。


「だとすると創造神はともかく残りの11神の正体は…精霊たちですか?」

 そう言うと、良く分かったなと感心した様子でガイさんが此方を見る。


「正解だ。世界が造られたばかりの頃はいろいろな支障が出たんだそうだ。それを修正するために精霊たちが必要に応じて対処していたら、その行いを神の奇跡と言い出す奴らが現れてな」


「心の寄り何処ってのはあった方が良いですからね。で、そのまま好きに呼ばせて今に至るってとこですか?」


どんなに優秀なシステムであっても初期には少なくない数のバグが発生する。

それを一つ、一つ潰してカスタマイズしてきたのが精霊たち。


その作業と結果を神の御業と思い、火や水といったように自分たちの都合の良い姿を作り出し祭ったのがこの世界の神の正体か。


「まあ、そんなところだな」

 私の言に大きく頷くガイさんの姿をリシュー君たちが唖然とした様子で見つめる。


「それで謎が解けました。聞いた限りでも下される神託が妙に具体的で、天界に住むという神様なのに随分と下々の者たちのことに精通しているなと不思議だったんです。でも小精霊たちが集めて回った情報を元に出されたものなら納得です」


そう、ずっとおかしいと思っていたのだ。


ミオリちゃんの時、サラオレ神国に絶妙なタイミングで彼女を聖女として迎え入れるよう『神託』が下りた。

まるで此方の事情が分かっているみたいに。


何よりクソのことを知りながら何の行動も起こさない神たち。

同じ穴の(むじな)なのかと思っていたが…精霊たちが神の代わりをしていたのならそれも頷ける。


神気の塊といっても精霊には神のような力があるわけでは無い。

階級的には腐っても神の眷属であるクソの方が上位で存在する次元も違う。

だからその行いを止めるどころか、そもそもコンタクトを取る事すら出来なかった。


「それについては俺よりそのおチビさんの方が良く知ってるがな」

 ガイさんの言葉に一斉に皆がメネへと視線を向ける。


『いや、知らないわよぉ、そんなことぉっ』

 ブンブンと千切れそうなくらい首を振ってからメネが大声で叫ぶ。


『だいたいアタシが精霊に成ったのは10年くらい前よ。下っ端も下っ端なんだからそんな世界創生に関わる大事を知る訳ないじゃないのぉぉっ』

 言い終わるなりゼイゼイと肩で息をするメネに私は意味有り気な笑みを向けた。


「嘘だね」

「え?」

 すぐさま断言した私をリシュー君たちが驚きの顔で見つめる。


「メネは最初から知ってたんだよね。クソのことも神が不在なことも」

「どうしてそう思うんだ?」

 不思議そうに聞いてきたターリク君にその根拠を伝える。


「神に対して疑いや批判を口にすると、必ずメネは『不敬よ』と諫めて来たからね。まるでその相手のことを良く知ってるみたいに」

 今までのメネの言葉を思い出しながらリシュー君も頷く。


「そう言えばそうだね」

「つまりメネはスパイだったわけか」

「精霊界のね」

 ため息混じりのターリク君の言にそう付け足してからメネを見やる。


「まあ、そんなところだろうと何となく思ってたけどね。自分たちではクソに手出しができない。だから解決を私たちに丸投げしたけど経過は気になる。だったら目と耳になる存在を此方の側に置いておくのは当然のことだしね」

 私の話に誰もが納得したように頷く。


『あ、アタシは…』

 メネが何か言おうとするが…その口から言葉が出ることは無くハクハクと開閉するばかりだ。


「精霊は精霊界の掟に縛られているからな。無暗に自分たちの事を口に出来ないのさ」

 メネに少しばかり気の毒そうな視線を向けてガイさんが肩を竦めた。


「なるほど、それならメネの言動にも納得です。ところでガイさんは話していいんですか?」

「俺は半端ものだからな。それについては縛りは無い」


それはなかなかに便利な立ち位置だな。

だったらこの機会にいろいろと聞いおこう。


「貴方の私見で結構なのですが、クソについてどう思われます?」

 その問いに片眉を上げるとガイさんは少しばかり考え込んでから口を開いた。


「俺も無駄に長く生きているんでな。『深淵の水晶』については聞いているが…太古の昔からあれは単なる緊急時の連絡用道具で自我や意志は無かったはずだ」


「それが意志を持って好き勝手なことを遣り出したわけですか。…いったい何故?」

「さてな、だが俺が知る限り最初に渡来人がこの世界に現れたのは110年前だ」

 その答えに私よりもメネが反応した。


『じゃ、じゃあ…カナエちゃんたちがこっちに連れて来られたのは誠之助たちが…』

 そのまま青い顔で言葉を失うメネに、そうだなとガイさんが先を続ける。


「たまたま2つの世界が繋がった時におチビさんの(あるじ)たちがこの世界に来たのが切っ掛けなのは間違いない」


それで味をしめて私たちが居た世界から魂を攫って来ては、『追躡(ついじょう)の呪印』を刻んだり、追跡機能と中継映像機能を持ったスマホを与えて遊び道具にしていたのか。


後でガイさんから聞いたが『追躡の呪印』のような呪いをかけるには、その相手に引き換えに何かしらの恩恵を渡さないと成立しないのだそう。


だから3つのスキルとギフトを与えたわけか。

渡した物が多かったり強力だったりした方が呪いの効果が増すそうだから。

本当にクソだなっ。


「110年前の時は魔の森から出られたのは2人だけで後は全員が魔物に喰われた。次の60年前では生き延びたのは1人だけで他は森の魔物にやられたり、慣れない環境で病にかかって誰に看取られること無く死んだ者、絶望から自ら死を選んだ者もいたと聞いたな」


「そんな…」

 ガイさんの話にリシュー君たちが悲痛な表情を浮かべた。


自分たちも同じ扱いを受けたからね。

他人事とは思えないんだろう。


「取り合えず改めて奴が最低最悪なクソだと分かりました。なのでこれ以上の犠牲が出る前に潰します、徹底的に」

 自分でも驚くほど冷たい声で宣言する。


「うん、僕も頑張るよ」

「おうさ、死んでった奴らの分も倍にして返してやるぜっ」

「ああ、俺らを敵に回したことをたっぷりと後悔させてやろう」

 私の言葉を受けて気勢を上げるリシュー君、エルデ君、ターリク君たち。

頼もしい限りだな。


『あ、アタシだってぇ』

 その横でメネも泣きそうな顔のまま声を上げた。


『詳しいことを話さなかったのは本当に悪かったわ。でも誠之助の無念を晴らしたい気持ちは本当よっ』

 必死に言葉を綴るメネに頷きながら笑みを返す。


「メネの誠之助さんに対しての気持ちは疑ってないよ」

『カナエちゃぁぁんっ』

 嬉し気に名を呼ぶメネを見てコソッとターリク君が聞いてきた。


「いいのか?」

 このままメネを今まで通り仲間として扱うのかとの問いに苦笑と共に言葉を返す。


「精霊界としては当然の処置だしね。それに私も社会に出て働いていたから上からの理不尽な要求に泣かされたり、守秘義務があるからどんな親しい相手にも話せないことが有るのも分かるから」

『ありがとうっ、大好きよぉ』

 私の話に感激した様子でメネが肩にしがみ付いてきた。


「はいはい、これからもよろしくね」

『もちろんよぅ。今まで以上に役に立ってみせるからねっ』

 意気込みが凄いメネの背を指で軽く叩いてからガイさんに向き直る。


「ところでお願いがあるんですが」

「何だ?」

 首を傾げるガイさんの前である場所を指さす。


「クソの所為で泉の水の流れが停まって街の人達が困ってます。なのであの土の山を退かしたいんですが」

 元々あった土の山に先に倒されたクソの手先の土塊が重なって、かなりデカイ山を成している。


「そういうことか、構わんぞ」

 了解が得られたのでリシュー君に土魔法で排除してもらおう。


「えっと…その前にこれはどうしたら」

 困り顔でリシュー君がエルデ君が抱えている『光の宝珠』を指示すと。


「適当に泉に投げ込んでおけばいい」

 との答えが返って来た。


そんな雑な扱いでいいのかと思ったが…守護者である当人がそう言っているのだから従うことにする。


「んじゃ行くぜっ」

 勢いをつけてエルデ君が泉の中央を目指して宝珠を投げ込む。


パシャンという水音と共に宝珠はその姿を水中へと消していった。

やれやれだね。



読んでいただきありがとうございます。

次回「64話 振り出しに戻る」は金曜日に投稿予定です。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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